「最先端CFDの現況」

東京大学 生産技術研究所
教授  小林敏雄

  1970年の中頃にCRAY-というスーパーコンピュータの出現が流体力学の解析方法を大きく変容させた.CFDの出現であり,流体計測・データ処理のコンピュータ化である.CFDの考え方はそれ以前から現れていたが,コンピュータの専門家でない研究者が比較的容易に数値計算をすることができるようになったのが,上記のコンピュータの出現以降のこことである.それから25年が経過しようとしているが,コンピュータはCPU1基の大容量高速化の時代を経て,それらを多数並列させる超並列の時代に入り,HPC(High Performance Computing)と呼ばれる大規模計算の分野では数千万格子点の計算も行われるようになった。このようなコンピュータ環境の中で,乱流の数値解析は二つの方向に特化している.すなわち,工業における設計ツールとしての方向と複雑現象の詳細解明ツールとしての方向である.多くの場合,前者には標準k-εモデルを中心に市販プログラムが多数,用意されており,精度的に(場合によっては定性的に)問題を残すものの,計算例の積み重ねによって設計の現場で利用されている.工業上,まず必要とされる定常性能の予測に対しては一定の評価を得ている.課題は得られた計算結果の善し悪しを判断できる能力を持つ人を養成することであろう.


 工業製品の高度化は,単なる時間平均的性能の予測から局所・瞬時の性能評価に移るであろう.製品の開発ツールとしての乱流解析コードの,第2の方向は,高度化する機器における性能,複雑複合化する現象の高精度予測の方向であり,その有力な手法がLES(ラージ・エディ・シミュレーション)である.実用的LESコードの設計には,サブグリッドスケール(SGS)乱流モデルの検討,非構造格子系の導入,境界条件設定方法の確立,高速計算手法の検討や数値解析精度の把握など数値解析を総合的に評価する必要がある.筆者らはこれらの課題をひとつひとつ克服したコードを公開しており,噴流,剥離流,衝突流,旋回流,燃焼器流れ等数多くの複雑乱流に適用した結果のデータベース化を進めている.ここでは、基礎研究と実用を結ぶフェーズの研究を積極的に行うことが,今求められている.