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2022年度部門表彰者の声:ベストプレゼンテーション表彰

早稲田大学
高桑 聖仁

 2022 JSME-IIP/ASME-ISPS Joint Conference on Micromechatronics for Information and Precision Equipment (MIPE 2022)にて発表をさせて頂きました「Low-temperature direct bonding of thin parylene film for the integrated ultrathin electronics」に対し、情報・知能・精密機器部門ベストプレゼンテーション賞を賜り、大変光栄に存じます。この度の受賞は、指導教員である早稲田大学 梅津信二郎教授をはじめ、理化学研究所 福田憲二郎専任研究員、その他ご指導いただいた先生方、スタッフの皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

 受賞致しました研究は、2 µm厚の高分子ポリマー(本研究では、特にパリレンを利用。)同士を接着剤を介さずに80℃ 60%rhの蒸気で直接接合する低温接合技術の開発に関する研究です。この技術は、パリレンなどの高分子ポリマー薄膜を基板として作製される厚みがわずか数µmの柔軟性に優れたフレキシブルエレクトロニクスの基板集積化に向けて開発しました。現在の主なフレキシブルエレクトロニクスの集積化方法は接着剤を用いた接合方法です。この手法は局所的に素子の接合部の剛性を著しく高めてしまうため、変形による応力集中を引き起こし素子の耐久性劣化など材料力学的な課題を生じさせる可能性がありました。一方でパリレンの熱圧着による直接接合は、素子の耐熱温度を越える150℃以上の加熱圧が必要であり、集積化技術として転用する事は極めて困難でした。そこで、素子の耐熱温度である100℃未満で、剛性増加を回避できる直接接合法の開発が不可欠でした。本研究では、この課題に対して、水蒸気プラズマ処理とスチーム処理によるパリレンの分子鎖の活性化アプローチを開発することで、加熱処理の温度を80℃ 60%rhまで低温化することに成功しました。本技術は、フレキシブルエレクトロニクスの集積化システムを構築する基礎技術の1つになる可能性があり、フレキシブルエレクトロニクスに代表される心拍センサーや温度センサーなどの素子と本接合技術を用いる事で、洋服や皮膚上に貼り付けて使う遠隔生体計測システムへの応用開発が期待されます。

 この度は、このような素晴らしい賞を頂き誠にありがとうございました。今後も日本機械学会IIP部門の発展に少しでも貢献できますように精進して参りますので、引き続きご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。


図 従来の導電性接着層を介した接合と本直接接合技術で接合した薄膜サンプルの接合部をそれぞれ微小な突起に静置したときの変形具合の比較。本手法は、突起に対して接合部が変形可能であり優れた柔軟性を有している。

Last Modified at 2023/5/23