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IIP部門の「中の人」
氏名:江口 健彦
IIP部門内での役割:広報委員会 副委員長 (2021年度)
所属:Western Digital
「HDDと振動解析」
修士修了後、就職して日立製作所機械研究所に配属されたのが28年前、HDDの振動解析の仕事を始めたのが約22年前、IIP部門と関わり始めたのは2004年くらいからでしょうか。当時、私は国内のIIP部門講演会と米国のISPSが社外での主な研究発表の場でした。どちらもHDDという一製品のウェートが大きな学会でしたが、駆け出しの振動屋の私から見ても非常に活気があり、製品と技術の重なり合った面白い場だったと思います。それ以来、一貫してHDDのディスク・スピンドル系の振動解析の研究を続けてきました。ワシントン大のShen教授との共同研究から始まったComponent-Mode Synthesis (CMS)ベースのHDD振動解析ソフトは20年たった今でも実際にHDDの設計開発に使われています。(正直に言えば、2年位前からようやく設計者にも使ってもらえるようになりました。)
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HDDという製品は技術の進化が著しく、次々に新しい振動問題に直面します。その度に思ったのは先達の残された基礎研究の素晴らしさです。ディスクフラッタに対するシュラウド隙間の影響を調べる中で、浅見の空気ダンパの論文が大いに助けになりました。減衰か加振力低減かという議論の中で、振動低減効果が隙間幅の3乗に反比例するのは減衰が主要因だという確信を私に与えてくれました。シーク残留振動について調べる中で、神谷・高野および丸田が別個に一般的な解を与えていること、また板生・神崎がポリダインカムの設計の中で実質的に同じ解を示していることを知りました。当時の私は、例えば山口・平田・藤本の「ナノスケールサーボ制御」のようなサーボ屋の観点しか頭になく、メカ屋の観点からの解析の見通しの良さに感心しました。サーバ筐体のファン騒音によるHDDの振動問題を調べる中で、統計的エネルギー解析(SEA)を知りました。高周波数領域では実験・計算共にモード解析が実質的に役に立たないことを私はかねて感覚的には理解していましたが明確に説明することはできませんでした。しかし、その問題点と解決法は LyonのSEAの教科書にきちんと書いてあり、それを応用した理論をHDDの振動解析に導入してみると定性的にも定量的にも実験結果を見事に説明できました。
社会人になり10年間ほど日立機械研で機械振動(Den Hartog、モード解析、FEM、自励振動)を勉強しましたが、HDDの仕事を始めて(IIP部門との関わりができて)以来、それ以外にも数学的に明快でしかも実用性の高い理論が世の中にはたくさんあることを実感しています。まだまだ勉強です。