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IIP部門の「中の人」

氏名:有坂 寿洋
IIP部門内での役割:総務委員会 副委員長 (2021年度)
所属:(株)日立アカデミー 研修開発本部 担当本部長

(株)日立アカデミーの有坂と申します。日本機械学会が部門制に移行してIIP部門が成立した当時、私は大学院生で、フロッピーディスク(FD)の研究を行っていました。今の学生さんは、WordやExcelの左上にある「保存」アイコンを見てもなんだかわからないかもしれませんが、あれがフロッピーディスクですね。古い計測器等を使おうとすると、たまにデータ保存に必要になって、どこにFDの在庫があるんだ?となりますが、当時は記録媒体と言えばFDだったのです。その後、(株)日立製作所に入社し、磁気テープ装置を少しやって、ハードディスク装置(HDD)の機構系の研究開発をずっとおこなっていました。その後HDDの仕事から離れていろいろな機器の振動などをやってきている間に、世間では外部記録媒体と言えばFDから半導体メモリーに移り変わり、そもそもネットワークの整備がすすんで、外部記録媒体自体も使う機会が減ってきているのは皆さんご存じのとおりです。

HDDは衰退しませんが、最近個人的にとても悲しかったのは、「iVDR-S」カセットの生産終了です。これはHDDを用いた可換媒体(著作権保護機能つき)で、日立の録画TVなどで使用されていました。というか今でも私は愛用しています、主に深夜アニメの録画保存に。

以前はDVD-RWなどの光ディスク式の録画機を使用していましたが、とにかく操作性の良さでiVDRから離れられなくなってしまいました。ところがこの生産終了で、カセットの価格は信じられないほど高額になり、現状手持ちのカセットでやりくりを余儀なくされています。初回放送を見て視聴継続するかを決めるのを業界用語で「1話切り」と言いますが、切らなくても、さらにこれは残すべき作品か、過去の録画済みのどれを消してしまうか、という取捨選択が必要になるわけです。

以前はとりあえず録画して後で考えようと思っていましたが、今の深夜アニメは4半期(1クール)単位で作品が新旧、玉石混交で大量に放映されているので、3か月ごとにこの取捨選択に苦しむはめになっています。これも老後の楽しみのためと思っていましたが、そもそもTV自体がいつまでもつんだ?(もうiVDR対応TVの新型はでない)という話もあり、さらに最近では配信サービスもあるので、ますますこの作業の意味が問われています。自業自得な話です。

さて、ここでは人はなぜアニメを見るのか?という深遠(!)な話がしたいわけではなく、人はなぜ本やビデオを貯めこむのか?という少し大きい話を考えます。単に執着や習慣もあるでしょうが、基本的には「情報」に対する渇望が根底にある、というと大げさでしょうか。

「知識」と読み替えてもよいですが、有用性や嗜好を超えて「情報」という範囲でいえば、これは人が太古からの生存競争の中でそれが必要であったからと言えるのではないかと思います(人というか動物かもしれませんね)。だから人は「情報」≒「生きるための答え」として得ようとするのです。

「戦車道には人生の大切な全てのことが詰まっている」とか「答えはいつだってサガにある」といった某業界では有名な言葉もありますが、まあそれは一部として、たいてい多くの人はネットの中に答えを探します。最近、学生さんや若手技術者の前でお話させてもらう機会をいただいていますが、やはり効率化の上ではそういったネットの情報を検索することで短時間に知識を得る方法も肯定してお話しています。ただ忘れてはいけないのは、それは外部記憶に保管された「情報」であって、索引機能だけを自分がもっているということに他ならないということです。

人には不幸にして幸運なことに忘却という機能があり、それを無意識に補完するための外部記録媒体として、ネット上にリンクを張り、本や録画を貯めこんでしまうのかもしれませんが、でもそれは「情報」であって答えではありません。それらを取り込んだ上で、むしろ答えは自分の中にある(これも言い古されている感はありますが)というのが正しいのかなと考えています。

同じことは、人はなぜ研修を受けるのか? なぜ講義を聞くのか? なぜ勉強するのか? にも通ずる話です(上長や先生に言われたから、という身も蓋もない答えもありますが)。そこで得られた知識や経験(談)は、それ自体は「情報」であって、それを元に自分の直面する問題に対して答えをだす、これが「学び」です。

私自身の課題は、直近では、iVDRの代替をどうするか、というしょうもないものから、日本の強力な技術基盤が失われていくことに対してどうすればよいか、という一人では考えきれないテーマまで様々ですが、どれもが判断のための多くの「情報」を必要としています。もちろん情報はネットの中だけではなく人と話をする中で得られていきます。何に記録されるにしても、「情報」の価値が高い現代社会において機械技術者が何をすべきか、の答えを皆さんと議論していきたいと思っています。

*「iVDR」は、「iVDR技術規格」に準拠することを表す商標です。

Last Modified at 2021/9/3