Home > ニュースレター バックナンバー > IIP部門の「中の人」
IIP部門の「中の人」
氏名:冨澤 泰
IIP部門内での役割:副部門長、表彰委員会 委員長 (2021年度)
所属:(株)東芝 研究開発センター 研究主幹
兼 (株)デバイス&システム・プラットフォーム開発センター
開発第一部 部長
実は私がIIP部門ニュースレターに寄稿するのはこれが初めてではありません。今を遡ることちょうど20年前、「IIP部門の未来を若手会員に語ってもらう」という企画で、まだ入社4年目の駆け出しのHDD機構系技術者だった私にお声がかかり、僭越ながら「未来を語」らせて頂いたことがあります(リンクはこちら)。今になって読み返すといささか気恥ずかしい内容ではありますが、こうして再度機会を頂いたことも何かのご縁と捉え、当時思い描いていた未来がどこまで実現されたかを検証してみたいと思います。
まず、「家電や自動車のみならず、家具や日用品、公共物までありとあらゆる物にストレージが搭載される」社会はほぼ現実のものとなりました。ただし、そこに搭載されたのは小型HDDではなく、フラッシュメモリ(MRAMでもありませんでした…)とクラウドストレージという「可動部の無い」新技術でした。このような現状を鑑みると残念ながら、予想されていた「悪夢」はある程度具体的な形を取り始めていると言えるかもしれません。
しかしながら、他ならぬそのクラウドストレージを裏から支える基幹デバイスとして、HDDの進歩は未だ止まってはいません。当時「夢の次世代技術」と言われた2自由度アクチュエータは今ではごく当たり前に使われる技術となりました。初めてヘリウム封止HDDの特許を目にした際、不見識にも当時の私は、そのあまりにも突飛な発想に「これは何かの冗談だろう」と笑ってしまったのですが、それも今では高記録密度化に無くてはならない技術となっています。まさに隔世の感があります。
現在もHDD技術者の方々は、更なるビットコストの低減に向けて日夜弛まぬ努力を続けていますが、私はと言えばその努力を横目に見ながら、この20年間、プローブ記録を用いた次世代ストレージデバイスやそのためのナノトライボロジ評価技術、マイクロフォン・RF可変容量素子・インクジェットヘッド・ジャイロセンサ等の各種MEMSデバイス&システム、はたまた最近はエネルギーハーベスティング駆動可能な低消費電力IoTセンサ端末やそのエッジプラットフォーム化など、好奇心に導かれるままに様々なことに取り組んできました。おかげで近頃は少々器用貧乏の感があり、自分が何の専門家だと名乗ったものか言い淀むこともあります。多くの方々のご協力のもと試行錯誤を繰り返した20年ではありましたが、この間IIP部門は一貫して私の活動の場であり続けてきました。この懐の広さこそ、以前から機械工学の「横糸」(詳しくはこちら)を自認してきたIIP部門ならではといえるでしょう。
昨今のDX社会においては、「縦糸」たる各技術領域で確立された個々の要素技術を、これまで誰ひとり思い付きもしなかったような新たな付加価値を「横糸」にして束ね、システムとして織り上げていく技術が極めて重要になっています。ますます先の見通せない、未来の予測が難しい世の中になりつつありますが、このような重要な技術に挑戦し続ける限り、これからもIIP部門の前には活躍の場がまだまだ広がっているに違いないと、一層の期待を込めて考えています。なにしろあれから20年を経た今でも、機械工学は「アリ」を再現することができてはいませんから…