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2015年度部門表彰者の声：ベストプレゼンテーション表彰
株式会社東芝
香月 理絵
突然届いた受賞のメールは，晴天の霹靂でした．栄えあるベストプレゼンテーション賞を賜り，光栄の至りに存じます．
受賞を賜りました「Dielectric Driving Device for Superconducting Filter Tuning」は，2015年6月に開催されたMIPE2015で発表させていただきました．
MIPE2015 開催報告
http://www.jsme.or.jp/iip/Japanese/Newsletter/No44/mipe2015.html
この発表では，超伝導フィルタの受信周波数を広範囲かつ高速に変化させるための誘電体駆動機構とその機構の制御方法を提案しました．
超伝導フィルタとは，超伝導環境で動作するフィルタです．さまざまな周波数の電波の中から所望の周波数の電波をフィルタリングし出力します．フィルタを超伝導環境（70K台の低温環境）で動作させると，所望の周波数と僅かに異なる近傍の電波を減衰して，所望の周波数のみをクリアに出力できます．特定の周波数の電波をピンポイントにフィルタリングできるため，狭い周波数帯域でも多数の情報を伝送できます．無線通信の普及により周波数帯域が枯渇しており，その枯渇の解消に超伝導フィルタが役立つと期待されています．
超伝導フィルタは，フィルタ基板と複数個の誘電体で構成されています．超伝導フィルタの受信周波数を変化させるため，フィルタ基板と誘電体との距離を変化させます．本発表では，2段の短いレバーを特徴とする誘電体駆動機構を提案しました．2段のレバーがてこの原理で誘電体の変位を拡大し，コンパクトなサイズながら誘電体の広い駆動範囲を実現しました．
片持ちはりの先端に誘電体などが装備された本機構は，大きなマス（おもり）によりゆっくり振動します．迅速に制御するために高い周波数の入力を与えると，入力に共振周波数成分を含んでしまい本機構が共振してしまいます．誘電体を高速に制御するために，ステップ入力を共振周波数の逆数の時間をかけて目標値に到達するランプ波状に整形し，FF-I-P(Feedforward-Integral-Proportional)制御しました．
実験では，2.5MHz離隔した２つの受信周波数を2ms間隔でスイッチングできることを確認しました．さらに，4個の誘電体を同時に制御できたことで，超伝導フィルタを受信電波の位相を360度変化させる移相器として活用できることを示しました．
弊社（（株）東芝）には，豊富な知識を持つ先輩や同僚に気軽に質問できる雰囲気があります．この誘電体駆動機構も共同研究者の皆様が異なる視点から提案してくださったアイディアの集合です．共同研究者の方々に大変感謝しています．
私は出産以来，出張で家を空けると子供の世話で周囲に面倒をかけると思い，学会発表を自ら抑制していました．この「育児免罪符」の範囲が仕事全体にだんだん広がっていき，気づくと仕事も育児も家事も中途半端になっていました．この達成感のない状態を脱したいと思い，掃除や子供の送迎をアウトソーシングして研究の時間を作り，学会発表の機会をいただけました．久しぶりに発表して，人から認められるチャンスを「育児免罪符」を使って自ら放棄していたことに気づきました．
今後もこの受賞を励みにし，研究者また人間として昔の自分より進化できるよう精進して参ります．
