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【研究紹介】複眼光学系を用いた立体内視鏡システムの開発

大阪大学 臨床医工学融合研究教育センター
山田憲嗣

1.はじめに

腹腔鏡手術をはじめ内視鏡手術は,国内外において低侵襲性のため,急速に普及してきている.しかし,狭い視野と粗い画素構成の制約のため,現状以上の安全性は望めず,医療事故が増加している.内視鏡手術を正確に行うためには,画質改善に加えて奥行き方向の3次元情報が必要となる.我々は,超小型立体内視鏡システムの構築を目指し,昆虫などにみられる複眼光学系に着目した立体内視鏡システムの試作を行っている.ここでは,複眼光学系を利用した立体内視鏡システムの原理,試作システムおよび画像処理アルゴリズムについて述べる.

2.複眼光学系を用いた立体内視鏡システム

複眼光学系を利用した画像入力装置として大阪大学の谷田らが提案している連立眼撮像モジュール(Thin Observation Module by Bound Optics : TOMBO)を利用する.TOMBOにより,システムの薄型化,画像処理による柔軟な情報取得が可能となる.内視鏡を想定した近接撮影に最適化した連立眼撮像モジュールの開発を行うことにより,細胞組織の観察を可能とするシステムの構築を行った.また,立体内視鏡として,腫瘍等の3次元形状計測および距離計測を可能とするアルゴリズムの開発を行った.

3.連立撮像眼モジュール


Fig.1 Schematic diagram of TOMBO.

TOMBOに用いられる複眼光学系では,単眼光学系に対し,微細レンズを使用するため焦点距離が短く,レンズ自体の厚さも薄いため,非常に薄型化が可能となる.また,レンズ径が小さいことから,光学系を最適化することで,近接撮影にも適している.更に,複数枚の多角度からの映像を同時に取得可能なため,2次元画像処理のほか,3次元画像処理による様々な応用が可能である.
TOMBO の構成をFig.1に示す.TOMBOは、複眼光学系としてマイクロレンズアレイ,隔壁層,イメージセンサから構成される.レンズが微小なため,隣り合ったレンズからの光が入り混信が生じる.そのため隔壁層を配置し,光の混信を防いでいる.

4.試作システム

近接撮影に特化した連立眼撮像モジュールの設計および製作を行った.Fig.2に試作したシステムの基本構造を示す.イメージセンサモジュールに,連立眼光学系を取り付けるための設計を行った.光学系の構造を吊り構造とした.下部から,信号分離隔壁,マイクロレンズアレイ,レンズスペーサとなる.これらをトッププレートの下部に積層させ,光学系を構成した.積層型のレンズスペーサの枚数を可変させることにより,フォーカシングを行うことが可能となっている.隔壁については,紫外線レーザによる光造形法等により加工を行った.レンズアレイには,非球面加工した直径1mmのレンズを3 x 3に配列したものを用いた.Fig.3に試作したシステムを示す.連立眼光学系取り付け後の厚さは,フォーカス等の調整により変化するが,最厚部で約5.0mmとなっており,厚さの点からも近接撮影に適しているといえる.

Fig.2 Structure of close-range imaging module with Comopound Optics.


(a) TOP               (b) SIDE
Fig.3 Extremely close-range imaging module with compound-eye

5.3次元形状計測アルゴリズム

TOMBOは,同時に位置シフトのある複数の映像を並列して入力することが可能である. 
並列して入力される複数の位置シフト画像に対し,撮影パラメータを用いた広視野化,再構成型超解像処理による高解像度化の検討を行った.また,3次元画像処理として,ステレオ法を拡張したマルチベースラインステレオ法による組織の形状計測を行った.マルチベースラインステレオ法により3次元形状計測を行う場合,各個眼像間の各ピクセルにおける位置シフト量の検出を行う.本研究ではSSDによるブロックマッチングアルゴリズムを用いていることにより,個眼像間の位置シフト量の検出を行った.
Fig.4に3次元形状計測を行った固定幹細胞コロニーを撮影した複眼画像を示す.この画像は,コロニーの周囲において培養液のみが存在する領域を撮影しており,本来はこの領域に明確な対応点は存在しない.しかし,取得された画像に対し,3次元計測処理を行うと,照明系や撮像素子の熱雑音等により,本来存在しない対応点が検出される.これらは,3次元計測を行う上で誤差の原因となるため,画像に対し前処理を行った.Fig.5に3次元形状計測を行った結果を示す.画像では,コロニーの形状の他,レンズから対象までの距離を色で示している.実際の撮影距離約11.0mmに対し,大部分においては水色から濃い水色であるため,距離を正しく計測できていると考えられる.しかし,緑から赤の部分については,実際の細胞が存在し得ない容器よりもレンズに近い位置に計測されており,誤差が大きい.誤差の原因として,撮像系の各個眼像間の撮影条件の誤差による,取得画像の一様性の低さが大きく影響し,3次元距離計測アルゴリズム内で行っているブロックマチング処理のミスマッチが発生していることが挙げられる.また,近接撮影における照明系や照度ムラの影響も考えられる.


Fig.4 Captured Comopound image.


Fig.5 Result of 3D mesurement.

6.まとめ

近接撮影に特化した連立眼撮像モジュールを試作し,開発した3次元形状計測アルゴリズムを用いた立体内視鏡システムの試作を行った.また,試作モジュールより3次元形状だけでなく,非常に近接で2次元画像の撮影が可能であることが確認された.

Last Modified at 2009/2/17