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【技術紹介】人間共生ロボットEMIEW2の開発
(株)日立製作所 機械研究所 都市・ロボティクスプロジェクタ
古賀 昌史
1.はじめに
様々な環境でサービスを提供するサービスロボットに関わる研究が近年盛んになっている (1).中でも,自律的に移動し人間と活動空間を共有する人間共生ロボットは,少子高齢化が進む社会での労働力不足への対応の切り札として期待されている.
人間共生ロボットの実用化において安全性,中でも対人衝突や転倒への対策は重要である.人間との共生を目指す以上,産業用ロボットのように活動空間を分離する方法は取れない.従来例の多くでは,障害物検知・回避機能の付加,移動速度の制限などにより対策を図ってきている.今後は,本格的な普及に向けて,本質的な安全化を進めていく必要がある.
そこで,日立では,小型軽量化による衝突エネルギーの低減を図り,新たにロボット「EMIEW2」の開発を進めてきた.本稿では,小型軽量化のための工夫と共に,同ロボットに搭載した走行技術,ナビゲーション技術,コミュニケーション能力について報告する.
2.EMIEW2の開発コンセプト
日立では,2005年に人間共生ロボットのプロトタイプとして「EMIEW」を開発した.EMIEWでは,俊敏に移動するための倒立二輪移動機構と動的障害物回避技術,人間との円滑なコミュニケーションを実現する音声認識技術・合成技術を搭載した.最高移動速度は人間の早歩き並みの6km/h,身長・重量はそれぞれ1.3m,70kgであった.
このたび開発したEMIEW2は,オフィスビルなどでの案内・巡回監視といったタスクを想定している.このために,移動速度6km/hを確保すると共に,衝突・転倒時の安全のために重量を13kgに抑えた.また,全高は0.8mとし,机より上に頭部のカメラが配置できるようにした(図1).さらに,EMIEWの機能に加え,後述する脚車輪機構,ナビゲーション機能を追加している.
図1 EMIEW2の機構構成
1 障害物回避機能には、筑波大学:坪内教授らの研究グループとの共同研究成果を活用している
3. EMIEW2の要素技術
EMIEW2には下記の3つの特徴的な要素技術が用いられている.
(1) 脚車輪型倒立二輪走行技術
EMIEW同様に,EMIEW2では移動機構として倒立二輪方式を採用した.倒立二輪方式は,小さな底面積で大きな加速性能を得られる方式である.このため,案内業務など機敏な動きが求められる場面に適した構成であるといえる.さらに,膝関節を有する5自由度の脚車輪機構を採用し,安定性が必要な時および待機時には膝をつけるようにした(図2).膝には球体キャスタを装備しており,膝をついた状態でも移動・旋回が可能である.
この脚車輪機構により,最高速度6km/hと加速減速2m/s2を実現した(倒立二輪時).EMIEWより大幅に小型・軽量化しているのにもかかわらず,移動能力は同等である.
図2 四輪走行姿勢
(2) ナビゲーション技術
EMIEW2ではナビゲーションのために日立製作所で別途開発したインフラレス自律移動技術を採用した(2).これは,レーザレーダによって得られる奥行き情報に基づいて周囲の物体の形状を認識し,地図と照合することで,自らの位置を推定する方式である.これにより磁気ガイドなどのナビゲーションのための特別な設備(インフラ)が環境側に準備されていなくても,自律的に移動することが可能になった.
(3) 音声コミュニケーション技術
人間と活動空間を共有するためには,人間とのインタラクションを円滑にすることが必須である.そこで,EMIEW2では,日立製作所で開発した音声認識と音声合成の機能を利用できるようにした.EMIEW2の頭部には,さまざまな方向に向けて,合計14個の小型マイクロフォンが搭載されている.これらのマイクロフォンを用い,発声者の方向を推定して雑音を除去し,高精度に音声を認識することが可能である(3).また,高品位の合成音声をジェスチャーと同期させることで,人間への親和性を高めている.腕には片腕あたり6自由度,頭部には3自由度があり,表情豊かなジェスチャーを表出できる.
4.おわりに
人間共生ロボットに対する人々の期待は大きい一方,残された技術的課題も多い。現状は,メーカ側もユーザ側も試行錯誤している状況であると考えられる.今後,段階的に実用化を進めて社会に導入していく必要がある.
なお,本稿で紹介したEMIEW(2005年型)は,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「次世代ロボット実用化プロジェクト」で開発したものである.
・文献
(1) | 経済産業省製造産業局産業機械課,経済産業省のロボット政策とサービスロボット市場創出支援事業,ロボット,No. 183 (2008.7), 2-9 |
(2) | 日立ニュースリリース,カメラロボット, http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2006/03/0307b.pdf |
(3) | M. Togami, A. Amano, T. Sumiyoshi, and Y. Obuchi, "DOA estimation Method Based on Sparseness of Speech Sources for Human Symbiotic Robots", Proc. ICASSP2009, 2009 (submitting) |