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【技術研究紹介】動力伝達機構の改良による電動義手の高性能化
広島大学大学院工学研究科 複雑システム工学専攻
サイバネティクス講座 ロボティクス研究室
助教 高木 健
1.はじめに
電動義手には見た目が人間の手と同等でありながら,俊敏に指を開閉でき,力強く把持できることが要求される.義手の大きさは人間の手の大きさ程度であるため,大出力の大きなアクチュエータを実装することはできない.ゆえに,実装できるアクチュエータの出力には限りがある.この限りある出力を有効に活用できなければ,高性能な義手の開発は難しくなる.つまり,「アクチュエータからの出力を指先までどのように伝達するか」が重要となる.一方,減速比において速度と力はトレードオフの関係にあるため,開閉時の俊敏さと把持時の力強さを共に満たすことは困難とされてきた.そこで,著者はこれらの要求を満たすため異なる減速比の機構を組み合わせることを提案し,アクチュエータではなく動力伝達機構を改良することにより,俊敏かつ力強い電動義手を開発した.
2.開発した電動義手の動力伝達機構1)
図1:屈曲駆動機構と把持力増大機構
図1 (1)のように指を俊敏に屈曲させるための屈曲駆動機構(減速比:小)と,力強い把持をするための把持力増大機構(減速比:大)の2つの機構を組み合わせることを考える.まず,これらの機構の構成について述べる.屈曲駆動機構は送りねじとスライダから構成されており,スライダを俊敏に動かすためにモータからの出力は小さな減速比で送りねじに伝えられている.把持力増大機構は偏心カムにプーリが回転できるようにベアリングを用い,取り付けられている構成となっている.ワイヤの一端は屈曲駆動機構のスライダに固定され,把持力増大機構のプーリを経由し指へと繋がる.指にはワイヤを引くことにより屈曲する機構を用いた.
次に動作について述べる.指が把持対象に接触するまでは俊敏さが要求されるため,図1 (2)および動画1のように屈曲駆動機構によりワイヤを俊敏に駆動する.接触後は力強さが要求されるため,図1(3)および動画2のように把持力増大機構の偏心カムを回転することにより,ワイヤを力強く駆動する.これらの一連の動作を動画3に示す.指が把持対象に接触したかの判断にはモータの電流値を用い,閾値を超えると指が接触したと判断した.これにより,指先にセンサを取り付けることなく,接触を検出し一連の動作を実現した.
親指は把持力増大機構により出力される大きな力に耐えられる必要がある.そこで,立体リンクを用い,バックドライブが生じない送りねじで駆動する構成とした.また,親指以外の指には指先に対象が接触した場合にはつまむ動作ができ,他の部分が接触した場合には包み込むような把持ができる機構を用いた.接触位置により指の動きが変化する様子を動画4に示す.この機構によりセンサを指に取り付けることなく,つまむ動作と包み込む動作を実現することができる.さまざまな対象を把持する様子を動画5に示す.この動画の撮影にあたり,どの指を動かすかは予めプログラムしたが,把持対象の大きさや形状についてはプログラムされていない.よって,筋電などの生体信号から,いくつかのパターンが読み取れれば,十分に本義手を動かせると考えられる.力強い把持を行う例として,2リットルのペットボトルを把持する例と,把持を繰返すことによりアルミの空き缶を潰す例をそれぞれ動画6,7に示す.(空き缶にはC. C. Lemonの缶を使用していますが特に意味はありません.いつも著者が美味しく頂いており,手元あったので使用しました.)
これらの動作を実現した義手の質量はわずか328gであり,大きさは小指を除けば著者の手よりも小さい.把持力増大機構に用いたモータの出力は3Wで親指および屈曲駆動機構に用いたモータの出力は1.2Wと小型であるが,動力伝達機構を改良することによりこのような俊敏かつ力強い電動義手の開発に成功した.
3.まとめ
動力伝達機構を改良することにより,俊敏かつ力強い把持を行える電動義手を開発した.紹介した機構以外にも,著者は俊敏さと力強さを共に満たす機構として,リンク式の負荷感応無段変速機2)や,大きな把持力が得られる直動機構3)も開発している.一方,筋電信号を用いて本義手の制御を行う研究も進めている.今後,事故や病気により上肢の一部を失った人々にとって,生活の質の向上に繋がる電動義手を開発していきたいと考えている.
4.参考文献
1) | 高木 健,小俣 透: 把持力増大機構を有する電動義手, 第12回ロボティクスシンポジア予稿集,pp.164-169,2007. |
2) | 高木 健,小俣 透: ロボットハンドのための負荷感応無段変速機, 日本ロボット学会誌, Vol.23, No.2, pp.238-244, 2005. |
3) | 高木 健,小俣 透: 大きな把持力が得られる直動機構,日本ロボット学会誌, vol.25,No.2,pp.299-305,2007. |