部門功績賞を受賞して

   松岡薫 (パナソニック コミュニケーションズ(株))

 この度は栄誉ある部門功績賞を頂戴し,たいへん光栄に存じます.これもひとえに部門の皆様のご支援,ご協力があってのことと心より感謝申し上げます.

 わが国では,若い皆さんの理工系離れが顕著に進んでいます.工学部志願者数は,ピーク時の半分以下にまで減少しました.一方で,日本の製造業が名目GDPに占める割合は2割程度に低下してきたものの,この製造業の貿易黒字で食料,資源,エネルギーを輸入しているのが実態です.したがいまして,製造業の役割は依然として大きく,日本が国際競争力を維持し続けるためには,人材の確保と新たな産業を生み出す技術革新が重要であることは言うまでもありません.

 今日私たちが享受している社会生活の基盤は,技術者による過去からの絶え間ない技術革新によって生み出されてきたものです.従来の常識からは全く予想もつかず,当時にあっては理解されない,非常識への挑戦の賜物であったろうことは想像に難くありません.その発端がたとえ「非常識」であったにしても,ひとたび社会から認知されれば「常識」となります.さらにその延長線上では改善が進み,いわゆる”Blue Ocean”からいずれ”Red Ocean”と称される凄まじい価格競争の世界に入って行くことでしょう※1.また技術革新の営みは,誰も見たことのない”Blue Ocean”を生み出す前に,それが見えないというだけで常識の域を脱しようとしない保守抵抗勢力との戦いでもあります.しかしそれらの困難や技術革新の大小やその成功確率にかかわらず,資源やエネルギーの乏しい環境に身を置く私たちは,その行き着く先がたとえ”Red Ocean”であっても,常に新しい”Blue Ocean”を目指した非常識への挑戦すなわち技術革新が,宿命的に求められていると思います.

 とりわけIIP部門は産学の境界領域に位置し,両者の有機的な関係が構築できているという特徴を有しております.IIP部門と関らせていただいて20年になりますが,この賞をいただきましたことを機会に,従来の価値観や考え方に囚われない挑戦的な風土をさらに醸成し,微力ながら部門の発展に貢献させていただく所存です.引き続き皆様のご指導,ご鞭撻を賜りたく,どうぞ宜しくお願い申し上げます.誠にありがとうございました.

 ※1 競合他社との激しい戦いを強いられる既存市場を”Red Ocean”,競争自体が存在しない未開拓市場を”Blue Ocean”と呼ぶ(W・チャン・キム他「ブルー・オーシャン戦略」ランダムハウス講談社).

Last Modified at 2008/10/6