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新部門長就任の挨拶
松岡 薫((株)松下ソフトリサーチ)
1. はじめに2006年4月より,福井部門長の後任として,情報・知能・精密機器(IIP)部門の11代目部門長を務めることになりました.本年度は,佐藤太一副部門長(東京電機大学),福澤健二幹事(名古屋大学)をはじめとする各委員会の委員長および運営委員の皆様と協力し,本部門のさらなる発展を図りたいと思います.是非に宜しくお願いいたします.
2. 私たちを取巻く環境の変化
昨今の我が国を取り巻く環境を見てみます.人口は,すでに2005年から減少に転じました.2030年頃には研究者・技術者が100万人以上不足するという試算もあり,国際競争力の低下が懸念されています.また,我が国の研究開発投資総額(世界第2位)や論文数占有率(世界第2位)は決して世界に引けをとらないにもかかわらず,論文被引用回数(世界第4位)に見られるように,アウトプットが十分でないという指摘があります1).したがって,研究開発の効率化がより強く求められる時代になりました.
またディジタルの時代はドッグ・イヤーと呼ばれますように,特に企業においては時間軸が勝負になります.例えば19世紀の終わりに電話が発明されてから,世帯普及率が10%に達するまでに78年もかかりました.しかしインターネットは,わずか5年程度で世帯普及率が10%を超えたのです2).そして「オセロ・ゲーム」と例えられますように,一瞬のうちに勝者と敗者は入れ代わるのが,ディジタル時代の特徴でもあります.さらに研究開発投資規模が大きくなる一方で,商品寿命の短命化と商品の急峻な価格下落により,投資回収が困難な時代になりました.これは企業が従来固持してきた自前主義が限界に達し,新たな枠組みの構築が迫られてきたとも言えます.したがいまして,時間軸の時代,変化対応力の時代と言えようかと思います.
このような背景のもと,産学のポジショニングとIIP部門の役割を今一度考えてみます.
3. IIP部門の役割
「学」においては,普遍的法則性の発見・追求が主たる目的になり,その成果は論文という形になります.一方「産」においては,その法則を利用した技術開発・製品開発が主たる活動目的となり,論文と対比した成果は特許になります.特に,国際競争の激化と米異国のプロパテント政策により,知的財産権を確保し,その優位性を確保することが,科学技術創造立国としての条件になることは言うまでもありません.これら産学のそれぞれの使命と,これらを取り巻く環境の急激な変化を考えるとき,学と学,産と産,そして学と産との強い結び付きと切磋琢磨がとても重要であることは明らかです.
とりわけIIP部門は,機械学会の中においても産学の境界領域に位置する特徴を有し,それが他部門と一線を画する特徴になっています.このため,学術性と実用性の両立が強く求められる部門でもありますし,特に産学交流の場としての特色を前面に出すべき部門でもあります.
4. 部門活性化のために
過日,サンタクララ大学で開催されたMIPE06で,少し不思議に感じたことがあります.それは10年以上も前の研究をいくつかの機関が再び研究し,発表していることです.企業においてノウハウは門戸不出のものであり,事業を止めた時点でその多くは地下室の貯蔵庫に眠ることになり,他者がそれを知る術はありません.マクロ的に見れば,多くの知的資源の浪費が繰り返されていることになります.これを避けるためにも,先達の知恵・知識3)の貯蔵庫を産学協同で作り上げ,それを継承することがたいへん重要になると痛感した次第です.
幸いにもIIP部門におきましては,現在5分科会が活発に活動されております,ここで重要なことは,マイルストーンを設けた活動に注力することだと思います.特に萌芽期における技術分野は,積極的に分科会を立ち上げる.そしてIIP部門講演会なり,機械学会全国大会等の講演の場で成果を積極的に出力する.その後,講習会を開催することにより,分科会活動を総括し一区切りをつける.さらに電子化も視野に入れた「知の貯蔵庫」としての出版事業にフェーズを移す.このような技術継承の仕組みを積極的に構築したいと考えております.
是非皆さん方のご協力をお願いする次第です.どうぞ宜しくお願いいたします.
1) 平成18年版 科学技術白書
2) 古池 進,職人技をただ賛美するなかれ,NIKKEI BizTech, No.001
3) 先達の知恵の資産で代表的なものは,
「科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製研究領域」
の技術参事 篠原紘一氏のコラムです.氏は世界で初めて蒸着テープを開発したことでも知られ,その言葉はたいへん含蓄に富み, 若い技術者からベテランの研究者まで,必ずや参考になると思います.下記のHPをご覧下さい.
http://www.nano-dev.jst.go.jp/nanodev/shinohara.column.html