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装着型ロボット

 木口量夫(佐賀大)

1.はじめに

  近年,人体へ装着するタイプのロボットの研究が活発に行われており,日本では主に医療・福祉分野への応用が期待されている.その一つとして人体に直接装着してパワーアシストを行うロボットが注目されており,介護支援用,リハビリテーション支援用,日常生活支援用など様々な福祉用パワーアシストロボットが研究されている.介護支援用パワーアシストロボットは,更に介護者支援用と被介護者支援用のパワーアシストロボットに分類され,どちらも実用化が期待されている.本稿では,主に被介護者支援用の外骨格型パワーアシストロボットについて解説する.

2.外骨格型パワーアシストロボットの現状

  外骨格型ロボットによるパワーアシストの研究は1960年代から進められており,福祉分野での外骨格型パワーアシストロボットは1970年代から報告されているが,様々な問題からこれまでに全身の運動をアシストするものは実用化された例はなく,近年ようやく限定された条件下での上肢運動あるいは下肢運動補助用の外骨格型パワーアシストロボットの実用化の兆しが見え始めた段階である.ただし,被介護者支援用の外骨格型パワーアシストロボットの目的を考えた場合,必ずしも全身の運動を支援する必要性はなく,支援が必要な運動だけをロボットで支援することも重要である.

  外骨格型ロボットでは,人間の各関節の特性を考慮し,人間の関節回転中心とロボットの関節回転中心が一致するようにロボットを設計すると共に,効率の良いパワーアシストを実現させるためには人間のどの部分にどの様にロボットを装着すれば良いのか考えることが重要である.ただし,肩関節等は球状関節であり,他自由度の回転中心が体内にある上,関節中心自身が肩複合関節運動に伴い移動するため,ロボットの関節回転中心を一致させるのも容易ではない.また,外骨格型ロボットは,装着者の体の外側に全てを配置する必要があり,しかも各動作の妨げにならないようフレームやアクチュエータを配置する必要があるため,通常のロボットに比べて設計上の制限が多いことも実用化を妨げる一つの要因になっている.また,現在では外骨格型ロボットに適したアクチュエータが見当たらないことも問題である.

  パワーアシストロボットでは,リアルタイムで装着者の思い通りの運動を実現させる必要があり,装着者がストレスを感じるような時間遅れは許されないため,どのように外骨格型ロボットにより装着者の思い通りの運動をリアルタイムで自動的にアシストするのかが問題である.特に被介護者支援用の外骨格型パワーアシストロボットでは,装着者が高齢者や障害者であるため,装着者にロボットを操作させることは望ましくない.

3.上肢運動補助用外骨格型パワーアシストロボット

  日常生活を送る上で上肢運動は非常に重要であるが,動作が複雑であるため,装着者の動作意思通りのパワーアシストを実現させることは容易ではない.被介護者支援用のパワーアシストロボットでは,ロボット装着者がロボットを操縦することなく,ロボット装着者の動作意思通りにロボットをリアルタイムで自動的に駆動させることが特に重要であるため,我々の研究では装着者の筋電信号を人間−ロボット間のインターフェイスとして利用している.筋電信号は人が筋肉を動かす際に発生する生体電気信号であり,各動作に関連する複数の筋肉の筋電信号の発生パターンを観測することにより,その人がどの様な動作をしようとしているのかが推定できる.なお,我々は筋電信号を基に外骨格型ロボットでパワーアシストを行うために,人間の経験則や曖昧さを扱うことができるファジィ推論と学習・適応能力を有する人工ニューラルネットワークを融合させたファジィ・ニューロ制御器を用いている.ファジィ・ニューロ制御器を用いることにより,@使用者の体調等の影響を受ける,A個人差が大きい,B同じ動作においても筋肉の使い方に個人差がある,C多くの筋肉の協調により生成される肩関節運動等はリアルタイムでの動作推定が難しい,D各筋肉の筋電信号と各運動が1対1に対応していない,E姿勢の影響を受ける,F複数の関節運動に関わる筋肉がある等,様々な問題を抱える筋電信号による制御を実現させている

  上肢運動補助用外骨格型パワーアシストロボットの例を図1に示す.本ロボットは図2に示す箇所の筋電信号を基に,図3に示すような肩2自由度(垂直屈伸運動,水平屈伸運動),肘1自由度(屈伸運動)の合計3自由度の運動をアシストするものである.手首部には力センサーが設置されており,筋電信号が小さい時,すなわち装着者がほとんど力を入れていない時には,誤動作を防止するために力センサー信号をベースとした制御に切り替えてロボットを制御している.本ロボットの有効性は,健常者による実験においては確認済みであるが,今後は実際の筋力弱者による実験を行い,実用上の問題点の検討を行いたい.


<図1> 上肢運動補助用外骨格型パワーアシストロボット



<図2> 筋電信号計測位置



<図3> アシスト動作

4.まとめ

  装着型ロボットの例として外骨格型パワーアシストロボットについて解説した.現在では,まだ様々な問題を抱えているが,実用化は近いものと思われる.装着型ロボットの発展により,我々の生活が更に便利になることを期待したい.

Last Modified at 2006/2/20