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04年度部門表彰受賞者の声
部門功績賞を受賞してこの春の情報・知能・精密機器部門(IIP部門)講演会で、部門功績賞をいただき大変光栄に思っています。このような名誉ある賞をいただけたのも部門の皆様のご支援・ご協力があってのこととあらためて深く感謝する次第です。振り返って見ますと、私とIIP部門とのかかわりは2代目の早山部門長の時に運営委員をさせていただいたのがそもそもの始まりだったと記憶しています。その後三矢部門長の時に部門幹事という大役を厳命されるとともに、引き続き事業委員長などを務めさせていただき、部門運営にかかわるようになりました。そして寺山部門長の時に副部門長を務めることとなり、2003年4月から8代目の部門長に就任した次第です。その時IIP部門は設立後10年以上経過し、部門講演会・部門講習会など活動の基盤は確立されていました。しかし諸行事に対する参加者数の低迷など、当時の社会状況を反映していたとは思いますが、IIP分野の重要性や先端性に比して活動が停滞・マンネリ化している状況でした。そこで原点に戻って更なる「活性化」が必要と感じ、「新機軸を取り入れてトランスディシプリナリーな部門への展開」、「国際的な情報発信」、「会員サービスの充実」という3本柱を運営方針として打ち出しました。運営委員をはじめとする関連各位のご努力により、着実に進展してきていると考えています。例えば、部門講演会や年次大会などの中に他部門との連携で「マイクロ・ナノ理工学」オーガナイズドセッションなどいくつかの新しい分野のセッションが設けられるようになりましたし、また念願であったASME ISPS部門とのコラボレーションによる国際会議MIPEも開催されました。この会議は定期的に3年ごとにアメリカと日本で交互に開催されることに決まり、来年度はサンノゼ地区においてASME主催で行われます。さらにニュースレターもIIP部門のWeb上に掲載されるようになり、会員のサービス向上にむけたIT化に対しても非常に大きな進展を示してきていると思われます。しかし一方、まだ活動に対して十分でないと思われる点が多々あることも事実であると感じています。そのひとつに、部門が主に対象としている情報機器分野の産業規模から考えると部門講演会などの活性化が必要であるという点が上げられます。特に最近は産業界からの研究発表、参加者の減少傾向が顕著であります。本来、本部門の特徴は学会・部門活動を通して、企業側研究者と大学側研究者との協創的なコラボレーションを行うことであったと思います。従いまして今後の更なる新展開のためにはこの部門設立の原点に立ち返ってみる必要があるのではないかと考えています。この賞をいただいた機会に、このような観点からも今後、部門の発展のため努力し貢献していきたいと考えていますので、引き続き皆様のご支援・ご協力をお願いいたします。
講演論文賞を受賞して
この度、IIP部門の優秀講演論文賞を頂き、大変光栄に思っております。本論文を発表してから約一年、受賞の連絡を受けたときは非常に驚きました。今回受賞の対象となりましたのは、IIP2004部門講演会で発表した「液体メニスカスが局在する固体面間に生ずる液体反力の解析(接触角変化と境界位置変化を考慮した複合モデルの構築)」です。本論文は、鳥取大学工学部福井茂寿教授のもとで行った研究を講演論文としてまとめたものです。
本論文の内容を簡単に紹介させて頂きます。現在、ハードディスク装置(HDD)の浮動ヘッドスライダは、空気膜を介してディスク上を10nm程度で浮上しています。しかし、HDDのさらなる高記録密度化のためには浮上量の低減が必須であり、その場合にスライダとディスクとの接触が避けられない状況となります。そこで、新しいヘッド・ディスクインターフェイスの方式として、コンタクト方式の研究が進められています。このコンタクト方式では、ヘッドとディスクが接触するため、従来の空気浮上方式とは異なる解析や設計が必要となります。その一つの要因として、ヘッドとディスク上の潤滑膜の接触部に形成されるメニスカスが挙げられます。
これまで、ディスクのうねりや外乱、あるいはスライダの振動によって液体領域に発生する動的な液体反力の解析についての研究として、液体メニスカスを非常に狭い固体面間に局在させ、固体面を微小振動させた場合の液体領域に発生する液体反力の解析を行い、その基本動特性が明らかにされてきました。本論文では、これまでに提案されてきた理論モデルの値が実験値の中間的な値となることから、複合モデルを構築し、液体反力の解析、実験結果との比較を行いました。その結果、メニスカスの基本動特性がより明らかになりました。
現在、私は就職し、HDD用モータの品質保証の業務に携わっております。学生の頃に行ってきた研究と現在の仕事は直接的に関わりはありません。しかし、物事の進め方に対する姿勢、方法などは、学生の頃に研究を行うことで培われてきた部分が多くあります。これからもそういった基本的なことを忘れることなく精進したいと思います。
最後に、本論文をまとめるにあたりご指導を頂きました鳥取大学工学部福井茂寿教授、松岡広成助教授、本論文に関わった皆様方に、そして本論文を推薦して頂いた皆様方に御礼申し上げます。
奨励賞を受賞して
この度は,私には過分とも思われる賞を頂けることになり,身に余る光栄に存じます.このような賞を頂けるなんて想像した事も無かったため私自身,大変驚いております.そして,心よりお礼申し上げます.
受賞の対象となった研究は,近年のHDDの高速回転化・高記録密度化に伴い深刻な問題となっているディスクフラッタの発生メカニズムの解明に関するものでした.具体的には,高速で同時回転する2枚の3インチディスクを有するHDDモデルを用いて,ディスク間静圧分布とディスクフラッタ挙動との相互関係に関して実験解析を行う研究でした.ここで本研究において最も問題となった事は,同時回転している2枚のディスク間における静圧測定でした.というのも,1.84mmと非常に狭くなっている2枚のディスク間における静圧測定というのはこれまでに前例が無く,その手法が確立されていなかったからです.そこで,私達は円筒の側面に穴を持つ横穴式注射針を圧力センサのプローブとして使用し,そのプローブの穴をディスクの回転軸に対し平行にディスク間に挿入する事により,ピトー菅と同様にしてディスク間静圧を測定する方法を考案しました.この測定方法の特色は,プローブの穴が流れ方向に対して垂直になるためディスク間の空気の流れ方向に依存することなく常に静圧を測定できる事でした.そして,この測定方法を用いたディスク間静圧測定の結果,ディスク間静圧変動とディスクフラッタには定性的に相互関係があり,ディスク間静圧変動を抑えることによりディスクフラッタを低減することができる事が分かりました.さらに,ディスク間にアームを挿入することにより,ディスク間静圧変動を低減することができる事も明らかになりました.しかし,まだ説明できない現象も多く今後も,こうした研究を継続し低振動ヘッド・ディスク・アッセンブリ機構の設計指針の確立に努めたいと存じております.
最後になりましたが,研究内容を発表する機会を頂いた日本機械学会情報・知能・精密機器部門の方々および学会関係者各位,これまで御指導頂いた先生方,共同研究させて頂いた企業の方々,そして共に研究してきた大学院生,学部生にこの場を借りて深く感謝申し上げます.これからも,この受賞を励みと致しまして,今後いっそう研究活動に精進して参りたいと存じております.
奨励賞を受賞して
2004年9月に発表いたしました「表面記録方式の光ディスク装置における耐ノイズ制御」に対し、この度2004年度の優秀講演奨励賞をいただくことができました。他に多くの優れた発表があった中で賞をいただけたことを大変うれしく、光栄に思っております。
受賞した研究は、媒体表面の保護層を15μmまで薄くした光磁気ディスクにおいて、表面に付着した塵埃により発生するノイズをアクチュエータ制御用の参照信号から除去する技術です。この研究をした当時、我々の部では次世代ドライブの開発を進めており、装置の仕様を達成するために媒体も制御系もギリギリの性能を求められていました。そんななかこの塵埃によるノイズの問題が発覚し、制御系で対処できなければ媒体の仕様を下げるしかないという状況に追い込まれました。トラック追従制御の担当者だった私が対策を考えることになりましたが、検討を始めた時点では全く解決の見通しが立っておらず、強いプレッシャーを感じたことを覚えています。しかし、解決の可能性を信じて検討を重ね、最終的にはなんとか仕様を下げずに目標を達成することができました。困難な課題であってもあきらめずにチャレンジして結果を出せたことは、とても貴重な経験であったと感じています。
昨年度の途中から私は光ディスクの開発を離れ、現在は磁気ディスク装置のHDI関連の数値解析という新たな業務を行なっています。磁気ディスク装置は先端研究が直ちにマスプロダクトへと反映される技術的に非常にシビアな分野であるため、研究業務に大きなやりがいを感じるのと同時に、素人同然の身で参加することに強い不安も感じていました。そのような折に賞をいただけたのは私にとって大きな自信となることであり、新しい分野に勇気をもって挑戦できる糧になったと感じています。改めて深く御礼を申し上げます。
最後になりましたが、今回の研究についてはもちろんのこと、入社当時より様々な業務を通じてご指導・サポートをしていただきました光ディスク装置研究部の上司の皆様、先輩方、その他関係者の皆様に厚くお礼を申し上げます。ありがとうございました。今後も引き続きご指導をお願いするとともに、皆様に少しでも多くの貢献をできるよう、努力を続けていきたいと思います。
研究概要
脳腫瘍摘出手術では、残存腫瘍を開頭したまま可視化することが全摘出するうえで 極めて重要である。開頭による脳変形を磁気共鳴画像イメージング装置(Magnetic Resonance Imaging:MRI)で計測し、治療位置、残存腫瘍を正確に把握することがで きる。MRI画像誘導手術室はアメリカ合衆国、ドイツ、イスラエル、カナダ、日本にあ り、脳神経外科、前立腺、椎間板などの手術に用いられている。その中で東京女子医 科大学では2000年3月からこれまでに脳神経外科手術が200例実施されている。これま での症例では冠動脈に狭窄がある場合はなく、手術中に心筋虚血や心筋梗塞が発生す るリスクは低かった。
1999年アメリカ合衆国からの報告によると、周術期の心筋虚血発生率は冠動脈疾患 が無い群で0.6%なのに対し、冠動脈疾患があると6%(非血管手術)、12%(血管手 術)と格段にリスクが高まるとされている。OpenMRI画像誘導手術室が今後更に普及す ることを考えると、冠動脈に疾患のある患者の手術を行なうことが予想される。
そこで、MRI固有の磁場を考慮したOpenMRI画像誘導手術室専用の患者モニタの開発 が必要である。著者は、心筋虚血による左心室壁の動きの変化を、心拍動によって生 じる胸部表面振動Seismocardiogram(SCG)の変化でモニタする方法に関して検討して いる。臨床使用するために未解決のSCG計測環境整備に向けて、これまでにMRIガント リ振動の強度、周波数帯域と患者ベッドによる振動絶縁効果について報告している。 30Hz以下の振動を減衰する必要があったので、本報では緩衝器を設計製作し、小型振 動発生機により減衰度を求め、SCGのS/N向上効果を明らかにすることを目的にした。
共振周波数が2Hzの緩衝器を製作し減衰特性およびS/Nを評価した。既存の患者ベッ ドのマットとの比較をした結果、SCGの周波数成分の多い10Hz,20Hzでの減衰が改善さ れた。S/Nは現状が6であるが、75を実現するのに必要な力学指標が示された。
喜びの声このたびは栄誉ある賞を賜り、関係された多くの先生方に感謝します。受賞した研 究は、私が東京女子医科大学に在職していた際にはじめたものです。臨床現場で必要 とされる機器を、一般性を考慮しながら開発するのは容易ではありません。今回、医 療を専門としない部門から表彰されたのは一般性についても一定の評価を頂けたもの と、大変ありがたく思っています。
研究概要
本研究では、指先誘導マニピュレータによるメンタルイメージ生成支援システムを開発し、閉図形知覚認知実験を通して、その有効性を確認した。本装置は、2自由度パラレルリンクマニピュレータと、マニピュレータの先端に取り付けられた1自由度回転型のアクチュエータから構成されている。根元に取り付けられた2つのサーボモータにより、2自由度のパラレルリンクのアーム先端の位置を制御する。アーム先端のアクチュエータ(サーボモータ)には、その回転軸に「ノブ」が取り付けられており、角度を制御することが可能となっている。被験者は、このノブを指先で摘む形で使用する。ノブ位置は提示される図形の輪郭を辿り、また、その角度はトレースする方向を常に指し示すよう制御を行う。この機能により、被験者は人間の体性感覚から、指先の位置と方向を知覚でき、連続的に知覚された情報を頭の中で繋ぎ合わせることにより、図形を容易に知覚できると期待される。
実験では、5角形の閉図形を晴眼の青年に対して呈示し、知覚実験を行った。実験では、ノブの有効性を確認するため、ノブを使用しない「誘導モード」とノブを使用する「指示・誘導モード」の知覚率を比較した。また、従来法(在来装置)との比較として、レーズライタによる「触図モード」との間で比較を行った。この結果、「指示・誘導モード」の知覚率は他に比べて有意に優れており、提案システムの有効性が確認された。さらに、ノブの方向を知覚することで、指先の描く図形を予測的に脳裏に思い浮かべ、能動的に指先を動かすことを通して知覚・記憶する、能動的精神作用の重要性を見出したことは、興味深い発見であろうと考えられる。
喜びの声この度は、ベストプレゼンテーション賞を賜りまして大変光栄に思っております。このような栄えある賞がいただけましたのも、諸先輩方のご指導によるところが大きいことは言うまでもありません。
本研究は、視覚障害者を支援するという、非常に壮大で難しいテーマにチャレンジしたものです。実用化といった点では、まだまだではありますが、盲学校等、現場でのヒアリングにおきましても、こうした支援装置(とそのコストダウン)が大変に求められていることが伝わって参ります。今後とも、システムの開発、改良を続け、間接的ながら社会のお役に立てればと思います。
研究概要
PC等の情報端末において、操作者の指の接触や位置等を検出する入力装置としてタッチパネルやタッチパッドがある。これらには、抵抗膜方式、静電容量方式、赤外線方式、超音波方式といった様々な方式が用いられている。しかし、一般的にこれらの方式は点による入力のため、接触面の広さを検出することができない。
著者は、手の接触面広さの検出や手の動きに合わせた信号検出が可能なセンサが実現できれば、従来と異なるコミュニケーションが可能と考え、新たな接触センサを開発することにした。
本研究では、(a)接触面の広さが検出可能なこと、(b)絶縁物を介しての検出が可能なこと、(c)小型であること、(d)微小な力の検出が可能なこと、等の条件を満足するため、検出方式に静電容量方式を採用した。
接触センサの検出部は格子状に複数配置されたアンテナからなり、正弦波の振幅電圧が印加されている。また、アンテナには切替スイッチを介してノイズ除去、信号の絶対値化、整流、ゲイン調整、オフセット調整、A/D変換を行う信号処理回路が接続されている。このように接触センサの検出部には、アンテナのみを設置すればよいので小型化が可能である。
アンテナに手を近づけると、アンテナは手とアンテナの間で形成される仮想的なコンデンサを介して接地される。このコンデンサの有無により接触センサの出力電圧が変化するので、手の近接の有無を検出できる。複数のアンテナにおいて、手が近接した位置のアンテナのみ出力電圧が変化するので、そのアンテナを特定することで手の近接位置を検出できる。
上記の接触センサを試作した結果、アンテナから10mm程度離れた場所に手があっても、手の位置を検出できることを確認した。このように、アンテナから手が離れていても手の検出が可能であるので、絶縁物を介しての検出が可能である。また、手を検出するのに力を必要としない。
喜びの声このたびは、栄えあるベストプレゼンテーション賞に選んでいただき、誠にありがとうございます。本研究は今までにない情報端末の実現を目指し、入力装置のセンサを開発したものです。今後も人と機械の距離を縮められるような装置の実現を目指し、研究業務を進めていきたいと思います。どうもありがとうございました。