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電子ペーパー 〜見ると読むの先にあるメディア〜
富士ゼロックス株式会社
研究本部先端デバイス研究所
小林 英夫 , 長束 育太郎
現在、まだ、”電子ペーパーとはこれ”という概念が確立していないため、薄く曲げ可能なディスプレイから、書き換えられるリライタブルペーパーまでみんな電子ペーパーといわれることがあります。表示方式も、有機ELから、コレステリック液晶、電気泳動、エレクトロクロミック等様々な技術が競っています。最近では、電子ペーパー技術を適用した製品として、電気泳動素子やコレステリック液晶を表示に用いた電子書籍リーダが製品化され始めました。その流れのなかで、ここでは、当社が電子ペーパーというメディアをどのように考え、どのように具現化していこうとしているのかを紹介させていただきます。
2. 現代の情報環境 〜じっくり読むには多すぎる、流し見るには重要すぎる〜LANやインターネットによる情報の電子化が、私たちの情報環境を大きく変えました。1日に何十何百通ものメールが送られてきます。会議やゼミの予定、資料や論文、日本機械学会の方なら、図面等も送られてきます。私たちは、通常はこれらの情報をぱっと流し見できるディスプレイで読みます。多くは十分ですが、中には、例えばこのニューズレターNo.25(http://www.jsme.or.jp/iip/Tft/TFT-DISPLAY.htm)、No.27(http://www.jsme.or.jp/iip/nl27/tech.htm)の新技術紹介ように中身の濃い寄稿や、重要な資料など、じっくり読み込みたい情報がその中に必ず埋もれています。かといって、全部印刷して読むことは、大量に紙を捨てることになり許されません。現代の電子情報は、じっくり読むには多すぎる一方、ぱっと流し見るには重要すぎる情報も多く埋もれているのです。
そこで、当社では、流し見情報にもじっくり情報にも対応するため、ディスプレイのようにぱっと瞬間的に情報を表示でき、かつ、紙のように高画質で手にとってじっくり読めるメディアとして電子ペーパーを開発しています。この新しいメディアを我々は「光書き込み型電子ペーパー」と名づけています。このメディアにより、例えば、今この記事を読んでいらっしゃるような、エンジニア/学生の方々が、さまざまなレベルの情報を効率よく吸収し、より創造的な活動ができるよう支援していこうと考えています。
次に、この「光書き込み型電子ペーパー」メディアおよび、メディアを利用したドキュメントハンドリングシステムの例について、ご紹介いたします。
3. 光書き込み型電子ペーパー図1に光書き込み型電子ペーパーの構造を示します。透明な電極を形成した透明基板の間に、表示層と書き込み光によりインピーダンス変化する有機感光体(OPC、Organic Photoconductor)層を積層してあります。表示層は、光吸収層を介して可視光に選択反射を持つコレステリック液晶を用いています。本液晶は印加電圧により高反射率状態(プレーナ)と低反射率状態(フォーカルコニック)を印加電圧により選択でき、かつ、状態が安定であるため、無電力でその状態を保持できます。また、変形による画像劣化を防止するため液晶はカプセル化されています。OPC層は、液晶素子の交流駆動を可能にするため、電荷輸送層の上下に電荷発生層を配したDual CGL 構造を有しています。書き込みはOPC層に適当な光画像を照射するとともに、透明電極間に一定のパルス電圧を印加することにより行われます。光照射によりOPC層のインピーダンスは変化し、その光量に応じて表示層への分圧が制御されます。この分圧制御により表示層の表示を所望の反射率状態にします。
図1; 光書き込み型電子ペーパーの構造
図2; 書き込み光量と反射率の関係
図2は、書き込み光量と表示層反射率の関係の一例ですが、低光量では低反射率、高光量では高反射率と、照射光量に応じた反射率変化が得られています。
書き込み装置より画像を光入力するとともに、電圧印加をすることにより、瞬時に(ぱっと)画像を転写/表示することができます。一括書き込みであるため、書き込み時間は表示エリアのサイズによりません。
次に試作例を示します。表1、図3にスペックと外観を示します。紙のように薄くフレキシブルなメディアを実現できていることがわかります。0.2秒で瞬間的に(ぱっと)書き込まれた画像は十分なメモリ性をもち、曲げや圧力に対しても変化しません。媒体自体の解像度は1インチ当たり600ドット以上であり、高精細な文字が十分に表現できます。反射率(Y値)は約25%で、コントラストは8です。この電子ペーパーは手に持ってじっくり読むことができます。
媒体サイズ | 105 × 171mm |
表示エリア | 82 × 130mm |
厚み | 0.3mm |
重量 | 7.7g |
駆動電圧 | 400V,10Hz,0.2sec |
反射率(Y値) | 25% |
コントラスト | 8:1 |
解像度 | >600dpi |
表1. 光書き込み型電子ペーパーのスペック例
図3. モノカラーサンプルの書込み例
これまで述べてきた様に、光書き込み型電子ペーパーはメディア側には、情報を表示するための回路や電源を持っていません。そのため、このメディアにデジタル情報を表示するためには、書き込むための装置が必要です。これは、ちょうど紙とプリンタの関係と同じであり、ここでは書き込み装置の事を電子ペーパープリンタと呼びます。
電子ペーパープリンタは、光書き込み型電子ペーパーに二次元光画像を照射すると同時に、書き込みに必要な電圧を加える機能をもちます。露光方法には色々な方法が考えられますが、ここではLCDパネルを利用した例を示します。
図4に、試作した電子ペーパープリンタの外観、図5に書き込み装置部の構造を示しました。プリンタに挿入された電子ペーパーは、LCDパネル上に移動し、密着されます。その状態でLCDパネル下部の光源により露光されると同時に、電子ペーパー内の上下の透明電極に電圧が印可されます。書き込みが終了すれば、密着は解除され、電子ペーパーは自動で機外に排出されます。
PCから送られたデジタルデータは、通常のディスプレイと同様にLCDパネル上に表示されます。LCDは、バックライトの透過/遮蔽を制御するシャッターの役割を持っています。ここで使用するバックライトは、画像のボケを防ぐために、通常のディスプレイで用いられる様な拡散光ではなく、プロジェクタの様な直進性の高い光が必要になります。図6に、画像書き込みの原理図を示しました。
このプリンタを用いれば、光書き込み電子ペーパー上に、従来の紙にプリントアウトするのと同様の操作でドキュメントを出力でき、紙と同様に読むことができます。しかしこの状態では、出力されたドキュメントは紙と同様にアナログであり、再度デジタル化する事は困難です。電子ペーパー上に書き込まれたドキュメントを、電子上のドキュメントとシームレスにつなぐ事ができれば、それを簡単にコピーしたり再利用したりすることができ、デジタルドキュメントの新しいハンドリングツールを提供する事ができます。
そのために、当社の光書き込み型電子ペーパーにはRF-IDタグが、またプリンタ側にはRF-IDタグリーダー・ライターが装備されています。電子ペーパーに画像を書き込む時に、書き込んだ画像情報に関連するデジタルデータをRF-IDタグに書き込みます。この電子ペーパーを、他のPCに接続されたRF-IDタグリーダー・ライターに読み込ませると、読み取り側のPC上に元のデジタル情報を呼び出す事ができます。図7に、この様なドキュメントハンドリングシステムの構成を図示しました。
今まで述べてきましたように、当社では光書き込み型電子ペーパーという薄型軽量・フレキシブルな新しい表示メディアを開発しています。現在はモノクロ表示ですが、将来のフルカラー化に向けて、カラー表示層の積層化についても研究が進んでいます。またメディアのみではなく、そのメディアを用いた新しいドキュメントハンドリングシステムについても開発中です。単に電子情報を読むだけではなく、電子の世界とリアルの世界をシームレスにつなぎ、ドキュメントをより自由に、より効率的に扱えるようにする事により、人間の知的生産性を向上させることを目指しています。