部門長就任に当たって

( 株 ) 日立グローバルストレージテクノロジーズ
技術開発本部 2004 年 3 月 1 日

1. はじめに

 2004年4月から、多川部門長を引き継ぎ、情報・知能・精密機器(IIP)部門の第9代目部門長を務めることになりました。IIP部門の役員任期はそれまで2年間でしたが、2代前の寺山部門長から1年間となりました。変化の早い時代に即した運営システム作りという観点で英断を下されたものと信じます。本年度はこの体制の3年目となり、新任の福井 茂寿 副部門長(鳥取大)、福澤 健二 幹事(名古屋大学)をはじめとする各委員会の主査および運営委員の皆様と一致協力し、本部門の発展に努めたいと思っております。皆さんのご協力をよろしくお願い致します。

 部門長として、今後皆さんに多大なご支援をお願いすることになろうかと思いますので、簡単に自己紹介させて頂きます。1975年、日立製作所に入社した当初は冷蔵庫用圧縮機の振動騒音低減という課題を頂戴しました。このころは機械力学・計測制御部門で、よく勉強させてもらいました。その後、CDプレーヤ開発の最初の立ち上げに携わったことから当部門との係わりができました。1980年代半ば、まだ当部門が委員会と呼ばれていたころの講演会に、光ヘッドに関連した発表を何度かしてからです。そして、光ディスク装置や磁気ディスク装置開発を担当して、多いに関係が深くなりました。1993年から、表彰委員、事業委員、学術委員、運営委員などの担当や、その間2回の国際会議運営を経験しました。その折、皆様へのご支援を頂き、また反対に、皆様から叱咤激励も頂戴しました。これらの経験は、これからの部門運営や皆様とのコミュニケーションに、多いに役立つものと思っております。よろしくお願い申し上げます。

2.部門の特徴と現状

 さて、IIP部門の特徴を一言でいいますと、今求められています「産官学連携の中で活動する部門」といえます。その一例ですが、歴代部門長は4人が企業から、5人が大学から選出されています。さらにその大学の部門長も3人はもと企業人でした。また、講演会の発表者の所属を見ても約40%は企業からの参加者です。一方、技術的な側面から特徴を一言で言いますと、情報・知能・精密機器において「要素技術とその統合」にあると考えております。情報機器、知能機器、精密機器に用いられている要素技術の研究には限りがありません。それぞれの技術が先端的で、かつ特徴的であることが必要です。そして、装置の向上はこれらの優れた要素技術で発展してきました。一方、技術を一つの形として社会へ提示するとき、単独では有り得なく、要素技術をバランス良く統合したシステムに進化して始めて大きな価値を提供できるものと信じております。このシステム化への統合活動がその要素技術の旨味をうまく引き出す訳です。この技術の両面における議論の可能なのが、当部門であり、強みとしております。それには前述しましたように、大学界と産業界の強い連携が必須であり、またそれを具現化したところに本部門の特徴があります。

 この産官学連携部門という観点からここ数年の当部門の活動を振り返ってみます。部門関連の代表的な講演会(部門講演会、年次大会、国際会議)の発表件数は部門講演会が約50件、年次大会は約35件、1997年と2002年の国際会議は約100件と推移しております。これらの数値は漸増の傾向であり、増強することでさらに活性化が可能かと考えております。しかし、学会が産学協同の情報交換・人脈交流の場という観点で見直してみますと、表1に示す傾向があります。

      
表1. IIP部門関係講演会への参加者比率

(注記)2003年は国際会議があり、その講演だけを取り出しますと43%の企業講演件数がありました。また、年次大会の企業参加を取り出しますと約40%の企業参加です。全体参加者数が漸増していて企業参加者比率が減っている。

  本表から読み取れることは、若干の変動はあるものの、企業の参加者比率が急激に低下していることです。これは先に示した部門の役割とは反対の傾向を示しており、極めて危惧するところです。いったいその原因はなにかと考えますと、その一つに、部門の活動内容と企業の研究者のニーズが少しずつ開いていることがあるかと思います。企業からの問題提起と、それを受けた大学での研究展開といった構図だけでは、本質的な問題解決にはならないと考えています。より幅広い研究者と企業人の、より深い議論の場が必要であると思っております。これは国際会議とか、年次大会においての企業からの参加割合が多くなっていることで読み取れます。

 ここで、もう一度、学会の役割を考え直してみますと、1)次世代に向けた研究発表と成果の交流・評価、2)同分野・異分野人材交流による研究の拡大と深化の推進、3)基本的な事柄ですが、技術を通して社会に貢献することです。しかし、製品の高精度化や技術の複合化を見てみますと、単一の専門分野の深化だけでは、さらなる発展は望めない状況にあります。それぞれを深化すると同時に、前述のように多くのバランスのとれた技術を統合することがとても大切なことになります。これを当部門でどのような活動として推進するか、さらに具体的な提示が求められており、一つの大きな課題と考えております。大学は2004年の4月から独立法人として改革の道を突き進んでおります。知的財産、COE、TLO、大学発ベンチャーなどを推進しており、これらを勘案しますと、学会は別な次元での活動形態を提示することが必要不可欠となります。

 さらに、技術そのものについて考えてみたいと思います。技術の本質は、その技術が発展した時、今までの技術を否定するところから始まると考えております。ようやく開発したと思った技術は、直ぐに次のステップに向けての見直しと改善を要求されます。そして、常に基本に帰ることを要求されます。これらの活動がなくては次世代製品が出来ないからです。すなわち、技術そのものも自己革新が求められており、私が技術に引かれるところでもあります。多くの製品や技術は成熟度を増し、行き詰まりを感じているということを耳にします。一方では、ナノテクノロジに代表される基幹技術が、応用に向けて動き始めています。このように技術は成熟と革新という両面を抱えていますが、それだからこそ、大いなる議論の場の提供も学会の使命と考えております。

3.本年度の部門方針

 以上、当IIP部門の推移と現状、それを取り巻く環境、そして基本的にあるべき姿を考察してまいりました。それらを、ある場合は変化としてとらえ積極的に変えていきたいと考えています。そこで、どのように具体化し活動していくかの指針を下記に提案いたします。是非、議論いただき、皆様とともに有言実行して行きたいと思います。

1)IIP部門の特徴としての設計統合、学際領域、産官学連携を強く意識したものとする。部門の5つの柱である@情報機器、A知能機器、B精密機器と、新しい分野としてC医療機器、D携帯機器とそのマイクロエネルギーシステムの充実と拡張を図る。

2)先をみた要素技術の展開は基盤路線として位置付け、関係の先生方や企業の皆さんとともに推進して行きたいと思います。その基幹となるキーワードは当部門の柱としております前記の5つの柱です。さらに新しいキーワードとしてナノ技術とその応用機器を探索していきたいと思います。

3)全体活性化の具体的目標: 事業内容を見直し、@(学術委員会)部門講演会においては基調講演も含め約70件ですが、これを100件の発表者件数になるよう推進し、A(研究会)現在ある3つの研究会を、本年度中に5つの研究会にしたいと思います。B(事業委員会)従来講習の企画・開催を主担当しておりますが、年2回の開催を定着させたいと思います。

4)講演会: 参加者の増加対策と企業発表者の減少対策については、@企業人にとっても、魅力ある講演会にするための広報活動や講演方法(たとえば最低8件で1セッションを構成するよう努力する)を見直し推進する、AASME/ISPS部門との共同活動を活発にする。2003年6月に開催された国際会議(MIPE03)は予想以上の好評の内に終了し、現在出版作業の最終段階にきております。これはISPSとの共同開催が功を奏したものと考えます。これを契機に一層共同活動をすべく議論を開始しております。次回は、2006年の6月ころを考えております。アメリカばかりでなくアジア関連学会との協調も必要と考えております。また、B関連学会:トライボロジー学会(HDDのHDI分野ほか)、時計学会(マイクロメカトロニクス分野)、応用磁気学会(磁気記録分野)、ME学会(医療応用分野)など、他学会との連携を推進し、幅を広げる施策を提案・実行していきます。さらに、Cロボティックス・メカトロニクス部門、機械力学・計測制御部門、機素潤滑設計などの他部門とも連携し、同時に特徴付けをさらに明確にしていきます。

5)研究会の位置付けについて: 研究会では講演会にない細かな議論が大学と企業との間で可能です。これをさらなる活性化の機軸として見直していきたいと考えています。すなわち、研究会での議論や見学会の成果を講演会で発表し、まとまったところで講習会に結びつけていきたいと思います。さらには単行本の発行や見学会、機械学会内部での横の連携を深めるための横断的なオーガナイズドセッションの企画や機械学会会誌、論文集、英文論文集の特集号への提案をしていきたいと思います。これらの活動により、従来以上に研究会の役割を見直し、重点化していきたいと考えています。それには部門からの積極的な支援も必要と考えています。

6)講習会: これには入門編、装置編、要素編、最新技術編、技術予測編など、適宜とりそろえる工夫をしたいと思います。多くの講習会があり、これらとの競合が予想されます。当部門ならではの企画を研究会とともに開拓したいと考えます。

7)広報活動: もっと魅力あるIIPにするための企画提案を積極的に推進し、会員へのサービスの向上を以下のように充実させていきたいと考えています。基本的には当部門のホームページの強化に向けたいと思います。

@情報の定期的な提供(最低1月に1回は最新情報を流す)、英語化の促進は今後のISPSとの連携ばかりでなく海外とのより広い交流を図ることに必須と考えます。

A部門登録者への一層のサービス向上:インターネットなどは便利な反面、忙しい方々はなかなかアクセスして頂けません。これに対して細かな改善策を練るつもりです。たとえば研究者・技術者マップの作成と充実、メーリングリストの作成とタイムリーな情報提供、などです。

以上に述べたことを推進するためには皆様のニーズが大切です。その生の声を活動に生かしたいと思いますので、多くの提案をお待ちしております。

4.終わりに

 世界情勢と経済事情の大きな変遷の中で、各人がそれぞれの専門性とか個性を持って各人の道を模索できているように、IIP部門もまた大きな曲がり角に来ており、そのあるべき姿を見直す時期と思っています。大学の法人化も含め、今までの活動だけでは対応できないことも感じています。しかし同時に、新しい課題への挑戦が、さらなる活動を刺激するだろうということも感じています。この新たなる鼓動に向けて、当IIP部門も変わって行く元年としたく、そしてその活動が次へつながるものとしたく、活性化して行きたいと考えています。最後に、関係各位の益々の叱咤激励と、大いなるご協力をお願い申し上げまして、第9代目の部門長就任の挨拶とさせて頂きます。

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