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曲がる大型TFT−LCD
東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 開発センター、表示技術開発担当 川田 靖 |
1. はじめに
ディスプレイの目標の一つとして「紙のような表示」があります。薄く、軽く、表示が見やすく、消費電力が少なく、そして曲げたり、折りたためたる。そのような究極のペーパーライクディスプレイを目指す技術として、今回我々が開発した曲がる大型TFT-LCD*1を紹介します。
2.パネルの構造
図1にパネルの断面構造を示します*1。トランジスタには高精細表示が可能な低温ポリシリコンを採用しています。低温ポリシリコンは、アモルファスシリコンと比較して電子の移動度が高いためトランジスタ素子を小さくすることができます。このため、画素に占める透過部の面積を大きくすることが可能となり、画素面積が小さな高精細パネルにおいても高い透過率を実現できます。
図1 薄型LCDの構造
図2 ポリシリコン(p-si)液晶(右)とアモルファスシリコン(a-Si)液晶(左)のパネル構造の比較
さらに、電子の移動度が高いことを利用して、従来は液晶パネルの外周部に設けられていたドライバICをパネル基板上に直接形成することが出来ます。ドライバICの内蔵は曲がるTFT−LCDにとっては非常に都合の良い構造です。一般的なアモルファスシリコン液晶パネルでは、TAB(Tape Automated Bonding)と呼ばれる方式によりドライバICを基板外周部に接続しています(図1および2参照)。TABによる接続配線数は今回試作したSVGAクラスのパネルではX方向で2400本、Y方向で600本です。図に示したようにX,Y方向の配線をドライバIC用シリコンチップが付与されたフィルムで高密度接続すると、硬いシリコンチップ部では曲げることが出来ません。
一方、低温ポリシリコン液晶パネルではドライバICを内蔵するため、フレキシブルなフィルム配線のみでの接続、かつ配線数もアモルファスシリコン液晶と比較して大幅に削減することが可能です。このため、自由な方向に曲げることが可能なばかりでなく、曲げた時に生じる接続部での応力が緩和され高い信頼性を実現しています。
基板の薄板化は低温ポリシリコンTFTアレイ形成後に行っています。加えて、フレキシブルなシートとの貼り合わせにより、薄板化した基板の強度を向上させています。
上下二枚の基板間隔を一定に保つスペーサには、柱状の構造物を採用しています。柱状のスペーサは薄板化した基板間隔を均一に保つ性能に優れているばかりでなく、パネルを曲げた時に生じる液晶層の流動によってスペーサが移動することが無いため画質劣化を発生させません。
3.曲面状態での表示性能
パネルを曲げることによる問題点の一つに表示品位の低下が考えられます。そこでパネルを曲げた状態の表示特性を測定しました。測定はパネルセンター位置およびセンターから30mm、60mmパネル長手方向にずらしたポイントで実施しました。図3,4に各ポイントにて測定した輝度変化率と色再現性を示します。曲げた状態でもパネル面内での位置依存性による輝度変化および色再現性の差が殆ど無いことが判ります*1。
図3 パネル面内の輝度変化 |
図4 パネル面内の色再現性 |
図5 パネル面内での色再現性
長辺方向でパネルを曲げた状態での表示例を図5に示します*1。液晶層の厚さが変化することによって生じる色ムラや曲げによって生じる局所的な応力での表示ムラもなくクリアな画像を実現しています。
表1 薄板LCDの仕様
表1に試作したパネルの仕様を示します。現在サブノートPCに搭載されている8.4インチ低温ポリシリコンTFTパネルと同じ表示性能を維持しながら、パネル厚み0.4mm以下、パネル重量20g以下と何れも当社の従来パネル比で1/5以下を実現しています。
5.おわりに
今回紹介した曲がる大型TFT−LCDは、今後も拡大するであろうFPD市場において様々な用途とデザイン面の自由度を広げてくれます。たとえばそれは、人に優しいフォルムを持つ新たな電子メディアとして我々の生活に潤いをもたらしてくれることでしょう。そんな夢のあるディスプレイを今後も提案していきます。
参考文献
*1 T.Hioki,M.Akiyama、M.Nakajima、M.Tanaka,Y.Onozuka.Y.Hara,H.Naito,and Y.Mori ,IDW2002 p319t