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MEMS2000参加報告

神谷 大揮
東京工業大学
精密工学研究所

  MEMS2000(The 13th Annual International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)が,2000年1月23日〜27日に宮崎にて開催された.MEMSは近年急 激な進歩を遂げており,本会議ではMEMS分野全域に関する最新の研究がいちはやく報 告される.開始当初はWorkshopであったが,年を追う毎に規模が大きくなり,前回か らConferenceとなった.今回は3件の招待講演,41件の口頭発表,97件のポスター発 表があり,その割合は日本,アメリカ合衆国,ヨーロッパとその他でそれぞれ3分1 である.参加者数は500人を越えた.

  発表内容は,センサ,アクチュエータ,流体デバイス,光デバイス,バイオデバイ ス,そして基盤技術である設計,評価,材料,加工,接合,組立て,パッケージング など多岐にわたる.現在,これらデバイスの製作は主に,感光性材料への露光複写, 蒸着,エッチングなどのマイクロマシニングにより行われている.またこれら加工技 術の高精度化・高速度化,新たなマイクロマシニング技術の開発も活発である.  MEMSでのアクチュエーションには,静電気力,圧電素子,SMA,熱膨張,流体圧 力,磁気力,光放射圧,ポリマー電解質が利用される.これらを比較すると製作工程 ,変位・力などの出力特性の点から秀でて有利とされるものはなく,それぞれ一長一 短がある.それゆえ,目的に応じて原理,構造,材料,製作工程を総合的に判断する ことが要求される中,各研究者が工夫を凝らしているところが随所に見られる.また ,DNA,細胞等の化学分析を目的として,ポンプや液体混合デバイスが多く報告さ れた.これらは,静電気力や圧電素子による構造の共振を利用するタイプのものが主 流である.

  センサに関するセッションでは,各種センサとともに,流体に利用する圧力センサ や流速センサが多く報告された.これらのセンサは,流体の流れや圧力差による膜構 造の変形を利用するものである.3.8mm×33mmの大きさに36個の圧力センサを製作し たものを,試作航空機の翼に取り付け飛行測定実験を行ったものや,カテーテル先端 に取り付け血管中での計測を行うセンサとして,1mm×7mmに圧力センサ,流速センサ ,ヘモグロビンの酸素付加量を測定するセンサを製作した例など,実用段階に近い報 告があった.

  光デバイスでは,これまでの変形のないミラーやレンズによるデバイスとともに, ミラー表面の曲率をアクティブに変化させる集光ミラーや,2枚の膜の間にシリコン オイルを満たした構造を圧電素子で変形させるダイナミックフォーカスレンズなどが 報告された.

光スイッチでは,入力2,出力2チャンネルといったこれまでと同様の報告はあった が,多数の入出力チャンネルを切り替えるような今後に期待されるメカニズムはない .また,光ディスクのトラッキング精度を向上させるためのメカニズムとして,従来 の粗動アームの先端に取り付け可能な,可動ミラーとレンズを組み合わせたモジュー ルの開発報告があった.

  生体・医療分野では,体内埋め込み形のセンサと外界とのデータのやり取りを無線 で行うためのシステムに関する報告が2件あった.例えば,脳内に埋め込む圧力セン サ(0.8mm×0.5mm×2mm),信号の処理チップ(センサとほぼ同サイズ)とデータ送 信とエネルギー供給のためのテレメトリーチップ(5mm×5mm)を組み合わせ,これら を体内に埋め込むことにより体内情報を遠隔測定するシステムである.他にも,マイ クロマシニングによる生体用電極の製作,DNAのストレッチングとカッティング技 術,レーザトラップによる細胞のハンドリングなどの実用的な報告があった.  その他には,チョウを模した手のひらサイズの羽ばたき機が報告された.この羽ば たき機の羽はホトリソグラフィとウェットエッチングにより,チタン合金とパリレン 膜で作られたものである.羽は小形のDCモータとバッテリにより駆動され,全体の重 量はわずか10.6gfである.また,ナノサテライトを目的とし,水をヒータで加熱して その蒸気をノズルより噴射するスラスター(推力2.77μN)の試作報告があった.  もともとマイクロマシニングは主に半導体デバイスの製作に用いられてきたが,そ こにモーションや変形を伴う微細構造を同時に作ることで圧力センサや加速度センサ が製作され,さらにはアクチュエータも製作されるようになった.また製作プロセス では,現在注目されているICP-RIE技術の応用が多く発表された.これにより,これ までは困難だった数百μmの立体的な加工が可能となった.今後も製作技術とともに MEMSデバイスは急速に進展していくことが予想される.

  次回のMEMSは,2001年1月21日〜25日,スイスで開催が予定されている
(http:// www.iqe.ethz.ch/mems2001).

Last Modified at 2000/6/13