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ノースカロライナ大学シャーロット校滞在記
高 偉
東北大学 工学研究科
機械電子工学専攻
平成10年2月から12月までの10ヶ月間,文部省の在外研究員として,米国ノースカロライナ大学シャーロット校(UNCC)Center for Precision Metrology(CPM)に滞在し,「超精密切削試験機の開発」の研究を行いました.研究内容については,今年の米国精密工学会で発表する論文に委ねて,ここでは,CPMの紹介を中心に報告いたします.
ノースカロライナ州は地理的にバージニア州とジョージア州の間にあり,大西洋に面しています.絶好の気候と豊かな自然が魅力的です.
シャーロットはノースカロライナの州都ではありませんが,人口約47万人で州最大の都市です.金融業が発達していて,金融機関において全米3位の規模となっています.また,シャーロット空港は大手航空会社US Airwaysのハブ空港でもあり,日本からの進出企業数(現在約60社)はドイツについで2番目に多いのも特徴です.気候的には夏が暑いのですが,湿度が高くないため,蒸し暑いという感じはありません.また,オフィスやアパートにはセントラル暖房・冷房が普及しているため生活は快適です.
カレッジスポーツで人気の高いUNCCは、シャーロットの中心的な存在として知られています.私が滞在したUNCCのCPMは,米国における精密工学の広い範囲で先導的な役割を果たしています.ホストであったセンター長のHocken博士は(センターでは,教官を教授でなく,博士で呼ぶのが一般的です),アメリカの精密工学及び生産技術領域で非常に有名な方で,CMMを中心に精密計測が専門です.日本との交流も多いです.滞在中に一緒に研究を行った当センターPatten博士の話によると,10年ほど前に大学は州から財政援助を受けて,精密工学研究室を作ることになったとき,Patten博士がそのリーダ選びの責任を与えられ,アメリカの精密工学領域で最も代表的な人を選ぼうとPatten博士は一生懸命探しました.いくつかのルートで情報収集したが,いずれも当時NISTのPrecision Engineering DivisionのチーフをしていたHocken博士の名が挙がり,そこで,何とかしてHocken博士を引っ張ってきたわけです.「十年後のいまから振り返ると私はそのとき本当に立派な仕事をした.」と,Patten博士が自慢していました.彼の言うことはよく分かります.この十年間で,当時Hocken博士一人しかいなかったこの精密研究室は,現在アメリカの大学で最も規模の大きい精密工学に関する研究教育センターに発展したのですから.現在センターの専任教官は6名,他学科からの協力教官は10数名,大学院生30数名います.CMMをはじめとする超精密測定機群だけでなく,高速マシンニングセンター,超精密旋盤を持つなど設備の面でも極めて優れています.研究の範囲も精密計測,超精密制御,超精密加工の広い領域をカバーしています.アメリカの大学は,大学院生の数から研究の規模と実力が分かるとも言われています.大学院生を持つことは相当な財政負担を伴うからです.去年一度日本でよく知られているノースカロライナ州立大学(NC State)のPrecision Engineering Center(精密工学会誌,63-2,(1997),147参照)を訪れたときに,大学院生は8名だと聞き,その大きな差に驚いた記憶があります.
私見では,Hocken博士が率いるCPMが成功した最も大きな要因は二つあります.一つは全米及び世界中から優秀な人材を教官として招聘したことであり,もう一つは産学協同です.特に後者は非常に印象的でした.CPMは現在ボーイングやザイゴなど15の企業や研究所と協力関係を持っています.各社から年間3万ドルをCPMに出資して,共同研究を行います.毎年4月と11月に,企業との共同会議がCPMで行われます.会議は,CPMから進行中の研究報告を行い,企業が評価を行うというものです.また,新しいテーマは大学側から提示し,企業が投票して,財政援助をするかどうかを決める.これで大学と企業の両方のニーズに満たすことができ,効果的です.
このようなことができるのは,もちろんHocken博士の強い影響力と非常に良い人柄があるからです.Hocken博士の良い影響で,センター全体も非常に明るい雰囲気になっています.Hocken博士と接していると,いつも博士の率直で暖かい人柄と広い心に感心します.Hocken博士はセンターの管理などで多忙を極めますが,研究に関して私の方からディスカッションを求めたら必ずすぐ時間を作ってくれました.また,自分のトラックで奥さんとともにアパートの引越しをしてくれたり,生活の面でも非常にお世話になりました.
昨年CPMを訪問され,御講演をなさった中部大学の難波義治先生には,世界で通用する研究者になるように頑張ってくださいというお言葉を頂きました.そうなるためには,これからも長期にわたり一層の努力が必要だなと実感した10ヶ月間でした.
最後にこのような機会を与えてくれた東北大学工学研究科清野慧教授をはじめとする関係各位に深く感謝いたします.