流れ 2003年8月号 目次

― 特集:混相流 ―

1. 微粉粒子を含む固気二相流れとその応用 −微粉粒子の超音速ジェット粉砕と気流分級−
 社河内敏彦(三重大学),森本洋史(日本ニューマチック工業) 共著

2.固気二相自由乱流の渦法シミュレーション
 内山知実(名古屋大学)

3.気液二相流に関する話題
 片岡勲(大阪大学)

4. マイクロバブルによる乱流変調(粒子画像複合計測による二相乱流微細構造の抽出)
 北川石英(海技研),菱田公一(慶應大学)共著

5.気液二相流研究と沸騰水型原子炉の機器開発
奈良林直(東芝)

6.ニューズレター8月号編集後記
担当:前田太佳夫(三重大学),高橋陽一(富士電機),川口寿裕(大阪大学)


 

(3)気液二相流に関する話題

大阪大学大学院工学研究科
機械物理工学専攻
片岡 勲

 

 気液二相流は気体と液体が混在する流れであり,流体工学,熱工学,エネルギー工学等,機械工学の様々な分野において幅広く応用されている流れである.気液二相流の特徴は言うまでもなく気体と液体の界面が存在することであり,固気二相流や固液二相流と異なり気液界面が様々に変形するため極めて多岐に亘る流れの構造(流動様式)が現れる事である.管内流の流動様式の一例を第1図に示す.勿論これは代表的な流動様式であって,気液流量,流路径,流路形状,流動方向,流体の物性によってこのほかにも非常に多くの流動様式があり,自由噴流(気液二相ジェット)などの管内流以外の流動様式も数多く存在する.

 

 

 

左より<気泡流>     <スラグ流>      <チャーン流>       <環状噴霧流>

                   第1図                        

 こうした気液界面構造によって気液二相流は単相流に比べて,極めて複雑な伝熱流動特性を示し,実験的にも解析的にも多くの興味深い研究課題が残されている.
気液二相流は原子力開発と関連して約50年ほど前より本格的な研究が始められ,主として管内流について流動様式,圧力損失,ボイド率,熱伝達係数,限界熱流束といった基本的な現象についての知見が蓄積されるとともに,実験に基づいたモデルや解析手法が開発された.また現象を支配する基礎方程式が確立され,数値シミュレーション技術も進展し,1次元流についてはかなりの精度をもって予測することが可能となってきている.
近年,気液二相流を用いる様々な工業装置の高度化と高い安全性への要求から,気液二相流現象についてもより詳細で正確な知識が必要となり,実験と解析の両面において勢力的に研究が行われるようになってきている.その中でも特に重要な課題として次のようなものが挙げられる(あくまで筆者の限られた知識の範囲での紹介であり,全ての重要課題を網羅しているものではない).
まず,1番目の課題は,気液二相流の多次元挙動の解明である.原子炉やボイラー,熱交換器などのエネルギー機器,航空機,船舶,自動車などの輸送機器においては,蒸発器,凝縮器,気液分離器,燃焼器など複雑な構造物を持つ空間内や複雑に分岐する配管群内での気液二相流の挙動が重要となる.このような体系での気液二相流の挙動を正確に予測するためには,1次元流による近似では限界があり,2次元,3次元的な取り扱いが不可欠となる.単相流の場合には,近年では直接解析による多次元解析が行われるようになっている.しかしながら気液二相流においては,このような直接解析は事実上不可能であり,時間的,空間的に平均化された基礎方程式を用いて多次元解析を行う必要がある.この場合,気液二相流の多次元伝熱流動に関する様々な構成方程式が必要となり,構成方程式によって,気液二相流の数値解析精度は大きく異なる.気液二相流の多次元解析は,多次元の基礎方程式を数値解析するというシミュレーション技術そのものについては現時点においても可能となっている.しかしながら,多次元の挙動に関する知見は実験データベース,モデリング共に現時点では極めて不十分であり,信頼性のある構成方程式が開発されていない.従って現状では気液二相流の多次元挙動の予測は十分な精度をもって行うには至っていない.中でも重要なものとして,気泡や液滴に働く抗力や揚力などについての多次元的な構成方程式,乱流応力や乱流熱流束の多次元的な構成方程式があるが現状では研究段階にあり十分確立された構成方程式は得られておらず,現象の解明とモデル化が重要な研究課題となっている.
2番目の課題は,1番目の課題とも関連しているが,気液二相流の乱流構造の解明である.気液二相流においては気液界面による乱流の生成や吸収が乱流現象に大きな影響を及ぼす.また固気,固液二相流に比べて,気泡や液滴,液膜の界面が大きく変形するため,これらによる乱流のソースタームは極めて複雑となる.気液二相流の乱流解析も単相流の乱流解析の手法を拡張して行われるようになってきており,数値解析そのものとしてはかなりの詳細解析が行うことは可能であるが,気液界面による乱流のソースタームの与えかたによって結果が大きく異なるため,現状では,十分な予測を行うには至っていない.気液二相流の乱流の場合には単相流のような直接解析によるアプローチは事実上不可能であり,実験データの蓄積による現象論的なモデル化が重要な課題となっている.
3番目の課題は気液二相流と構造物との連成現象の解明である.これは,加圧水型原子炉の蒸気発生器の細管破断事故で問題になったように,気液二相流の圧力変動(動圧,静圧)が,管群や流路内の障害物を振動させ,それによって,気液二相流の境界条件が変化するため,気液二相流の流れも変化し,ある条件の下では共鳴現象が起こって,大きな構造物の振動を引き起こし,疲労や破壊につながるものである.気液二相流の場合,様々な大きさの気泡,液滴,液膜界面波が存在し,圧力振動の時間的,空間的スケールも広い範囲に亘るため,単相流に比べて,連成現象はより複雑となる.特に最近では,原子炉をはじめとする様々なエネルギー機器,流体機器の安全性,耐久性の問題が重要な課題となっているが,実験的にも解析的にもこの現象の解明は研究の端緒についたばかりであり,気液二相流の重要な研究課題となっている.
最後の課題としては,非常に狭隘な流路における気液二相流の挙動の解明である,気液二相流においては気液界面に表面張力が働くため,流路のサイズが小さくなると,界面の曲率も小さくなり,流体力に比べて,表面張力の寄与が大きくなる.大気圧力下の水―空気系では流路径が5mm程度になると表面張力の影響が顕著になってくる.このような表面張力の影響が顕著となる流路における気液二相流の流動伝熱現象は当然の事ながら,通常口径管の気液二相流現象とは大きく異なったものとなる.特に最近では,電子機器冷却技術,マイクロマシン技術,バイオエンジニアリングに関連して,こうした狭隘流路の気液二相流現象の応用が広がりつつあり,その解明が強く求められている.こうした分野の研究もここ数年の間に非常に盛んになってきているが,通常口径管の気液二相流に比べて知見は非常に不足している.この原因の一つとしては,狭隘流路における気液二相流の実験的計測が極めて難しく十分なデータが得られていない事があげられる.今後実験技術も含めた研究が重要な課題となっている.
以上,気液二相流の研究に関する最近の話題について紹介した.ここでも述べたように気液二相流の研究には現在も数多くの重要で未解明の課題が多く残されており,今後,より広範な分野の研究者による精力的な研究が望まれる.