第91期部門長就任のあいさつ
加藤 廣 (デジタルプロセス(株))
設計工学システム部門の役割とは
昨年,副部門長に選出され,部門を運営する中核的な立場を仰せつかり,「この部門をどうステアリングして行ったら良いか」を考えて来ました.
日本機械学会は「機械関連技術に関わる技術者,学生などが集まり,講演発表会,講習会,研究分科会などを実施し,学術の向上と社会へ技術成果の還元をする団体である」と定義されています.この学会の役割の中で,当部門は「設計」技術と「システム」技術をそのドメインとして「部門講演会」「部門講習会」「研究会」などの諸活動を行っています.
部門を運営する立場になり,長年民間企業で活動してきた私が素直に疑問に思ったことは「どうして組織としてのビジョンや目標が無いのだろう」です.「ビジョンや目標が無ければ組織を動かせるはずが無い」と思い,私なりにビジョンを考え,部門内の諸活動を活用して,部門の皆さんと論議して来ました.
学会共通のビジョンとして「産学が協力し,『強く発展する製造業』を支える」「そのための人材を学から輩出し企業で育てる」ことではないかと勝手に解釈しました.そうだとすると,当部門の果たすべき役割と目標は何なのか?
産と学が集い,新たな試みに挑戦する場の提供を
当部門が責任を負っている「設計」技術は,製品作りの「方法論」に関する活動です.「システム」技術はふたつの意味があり,ひとつは,部品や製品の括りからくる「機械をシステムと捕らえる」技術であり,もうひとつは「製品を作り上げるプロセスを支える」システム技術です.
材料力学などの4力分野に代表される「縦軸」の技術追求活動に対して,本部門の「設計の方法論,仕組み/システム」を論じる活動は「横串」の活動と言えます.技術を追求する「縦軸」活動と「方法論,仕組み/システム」を追求する「横串」活動が相乗効果を発揮してこそ機械学会の果たすべき役割に貢献できると考えております.
この「横串」活動を意味あるものにするためには「強力な産学連携活動」が不可欠です.つまり,「学の成果の反映場所は産にしかない」「研究のニーズも産にある」と言うことです.当部門は,「産と学が集い,新たな試みに挑戦する場の提供をする」こと,そこから「具体的な製品やプロセスへの成果の反映をする」ことを目標にすべきではないかと考えております.
一歩進めるために具体的なアクションを
昨年の活動で「産学連携を進めるために何をすればよいか?」を議論し,「産のニーズと学のシーズをコーディネートする機能を持ちたい」「設計者育成が重要,学から産へつなげる設計者教育とは」などの課題を明確にして来ました.
この論議を受け,本年度は具体的な活動に向けて一歩踏み出したいと思います.「ニーズ/シーズのマッチング機能の新設」を検討し,「産学連携研究会活動の活発化」を考え,「設計者教育のためにやるべきことを明確にする」活動に着手して行くつもりです.
部門の運営委員を初めとして関係者のご支援をいただき,本活動に協調していただける学会員の皆様にどんどん参加いただき,ひとつでも具体的なアクションにつながるよう努力してまいります.皆様のご協力をよろしくお願いします.
第90期部門長退任の挨拶
西脇 眞二 (京都大学)
2013年3月をもちまして,設計工学・システム部門の第90期部門長を任期満了により無事退任致しました.90期を振り返れば,社会に未曾有の大被害をもたらした東北大震災の傷跡が未だ多く残る中,国内経済状態も良くない状況での出発でした.下村前部門長からは部門財政の健全化を至上命題としていただきながら,部門運営の多くをよく理解しないまま学会事務局の田中克さんのご支援に支えられるようにして進めてまいりました.何とか一年の任期を全うできましたのも,89期副部門長の下村先生,90期副部門長の加藤廣さん,同幹事の泉井先生,ならびに90期の総務委員会メンバー,拡大運営委員会メンバーの皆様のご指導・ご支援あってからこそ,深く感謝申し上げる次第です.
一年という大変短い任期ではございましたが,在任期間中に,私がとくに重点を置きましたのは,部門講演会,講習会の活性化でした.広島大学にて開催していただきました部門講演会は,広島大学の北村先生を実行委員長,同大学の竹澤先生を幹事とし,両先生方を含めた広島大学の多くの先生方のご尽力のゆえ,大変な成功裏に終えることできました.新しい魅力ある企画を開催していただき,部門発展にとり大変有意義な講演会となりました.また,講習会も,多くの若手の先生方を中心としてバラエティに飛んだ内容のものを実施することができました.残念ながら経済状態の影響もありそれほどの参加者を集めることはできませんでしたが,部門活動を大きく発信できたと思っております.
第91期は,加藤廣部門長の強力な執行部体制により,部門のさらなる活性化とより一層の繁栄が大いに期待されています.本部門のますますの発展を祈念しますとともに,今後も微力ながらお手伝いをさせていただきたいと思っております.最後になりましたが,この一年間,皆様より多くのご支援およびご厚情を賜りましたこと,謹んで御礼申し上げます.
第91期副部門長就任の挨拶
綿貫 啓一 (埼玉大学)
この度,副部門長を務めさせて頂くことになりましたので,何卒よろしくお願い致します.第91期設計工学・システム部門の運営につきましては,加藤 廣部門長,千葉 龍介幹事をはじめ,運営委員会委員の方々と力を合わせて,本部門のさらなる発展と部門登録会員の皆様へのサービス向上に精一杯努力して参ります.
日本のものづくり産業は,為替レートの急激な変動,原料価格の高騰,東日本大震災,欧州債務危機などによる市況悪化など多くの厳しい事態に直面しておりますが,このような時だからこそ,知識,技術力,設計力を蓄えることが大事であると考えております.本部門には,「設計工学・設計方法論・設計学」,「設計知識」,「製品開発・情報管理」,「設計組織」,「システム工学」,「ヒューマンインタフェース」,「人工物工学の展開」,「新しい人工物」の技術分野があり,基盤的な分野から実社会で適用可能な応用的な分野が揃っているのが,本部門の強みであると考えております.ヒューマンインタフェースなどは,人間の認識,意識,感情を含む活動を取り扱う実践・実理の学であります.そのため,本部門では,自然科学が対象としてきたものが原理・原則に従って恒常不変の対象から,非原理的で一回的,生起変転する対象までを扱っており,最近の様々な困難な局面に適切に対応するとともに,新たなものづくり社会の設計,システムづくりを提案できると考えております.部門講演会や部門主催の国際会議では同じ研究分野の研究者が一堂に集まり研究者同士が顔を会わせながら交流を深めることができ,年次大会では他の研究分野の研究者とも共同して,オーガナイズドセッション等を通じて機械工学全分野の研究者ら交流を行うようになってきています.そのような交流を通じて,個々の研究者や技術者がそれぞれの研究や技術を進展させて,それらの分野が当該の技術分野を進展させ,あるときは技術分野が互いに協力しあいながら分野横断的な新たな技術分野を構築していきたいと考えております.
ヘンリー・チェスブロウが提唱したオープンイノベーションという概念があり,最新刊「オープン・サービス・イノベーション」では生活者視点から,成長と競争力のあるビジネスを創造することが提唱されています.社会において,イノベーションとは,筋のいい技術を育て,市場への出口を作り,社会を動かすことであり,これにより技術革新ができると期待されています.本部門では,筋のいい技術を造りだし,市場への出口を作る環境を備えており,技術力・設計力で社会を動かす基盤を持ち合わせており,社会の牽引力源として期待されています.その部門内外のアイデアや技術を結合してアーチテクチャやシステムをまとめ,その要件を満たす優れたモデルを構築するため,部門活動として,研究者や技術者同士にオープンな交流の場を提供し,有意義な時を過ごして知識や技術を高めるとともに,ある時は分野横断的に融合し,ものづくり分野におけるオープン・サービス・イノベーションにより社会への貢献を果たしたいと考えております.学会誌,論文集,英文ジャーナル,講演会,講習会,研究会などを通じて部門登録会員の皆様の研究面や技術面での進展に貢献できればと考えております.設計工学・システム部門の諸活動に対して,皆様のご支援とご協力をお願い申し上げます.