ニューズレター

このページでは,設計工学・システム部門 Newsletter No.35の内容をお届けします (2011年10月発行) .

発行:2011/10/14 改版:2011/10/14
ページ製作・編集 D&S広報委員会

日本機械学会2011年度年次大会 設計工学・システム部門企画行事報告

日立製作所 山崎美希

2011年度の年次大会は,2011年9月11日(日)~14日(水)にかけて,東京工業大学 大岡山キャンパスを主会場に開催されました.設計工学・システム部門ではこのうち9月14日(月)~16日(水)に1件の基調講演,3件の先端技術フォーラム,2件のワークショップ,部門一般セッション,4つのオーガナイズドセッション,6つの部門横断セッション,が企画行事として実施されました.本ページでは,このうち本部門の単独OS・企画や本部門が幹事部門となっているOS・企画を中心に,各企画行事の様子をまとめて紹介します.

K12100 基調講演
「グローバル化する企業の技術課題と設計の体系化あるいは教育の可能性について」
ダイキン工業 伊藤 宏幸 氏

開催日時: 9月14日(水)15:00~16:00
司会:下村芳樹(首都大)

設計工学・システム部門では,前年度の部門長が年次大会で基調講演を行うことが恒例となっている.今年度も前部門長であるダイキン工業の伊藤宏幸氏を講師に迎え基調講演が行われ,グローバル化する企業の技術課題と設計の体系化あるいは教育の可能性について語られた.
日本の製造業は,マーケットの拡大,経営資源の獲得をはじめとした様々な側面においてグローバル化を余儀なくされているが,国際資本移動の自由化に伴うM&A 時代にあっては,あらゆる階層,プロセスにおいて従来とは異なる技術移管あるいは集約スキームが要求されている背景の基で,講演では,ブランドの維持増強を視野に入れた広義のデザインにおいて発生する技術課題を明らかにし,さらに内部競合を解消しつつ新たな価値を創造する方法論としての設計の体系化あるいはProject Based Learningを中心とした教育の可能性検討について説明があった. 今回の基調講演は,聴講者にとってはいろいろと考えさせられる大変貴重な講演であった.

下村芳樹(首都大)

F12100 設計工学・システム部門企画
「日本の製造業は何をデザインすべきか?」

開催日時:9月14日(水)15:00~16:00
司会:伊藤宏幸(ダイキン工業)
講演件数:2件

“日本の製造業は何をデザインすべきか?”の先端技術フォーラムにおいて,小川紘一氏(東大)による『日本の機械産業:デジタル技術の介在のその先に何が見えるか-アジアの成長と共に歩む日本/日本企業の方向性について』,中川功一氏(駒澤大)による『製品アーキテクチャと知識マネジメント』の2件の発表が行われた.小川紘一氏からはアジアと共に歩む方向性で日本の機械産業に新たな大躍進のチャンス到来することと,局所最適を離れて全体最適へ向かうアーキテクト型の人財が育成されるなら日本の機械産業は必ず経営環境の歴史的転換に対峙できるとの説明があった.また,中川功一氏からは 企業競争力の構成要素として技術の重要度が一層高まりつつある現在,技術開発や製品設計,あるいは開発現場の知識マネジメントは,戦略的な狙いを明確にもって行われる必要があるとの説明と,製品アーキテクチャとビジネスモデルの関係性について成功事例に基づく説明があった. 製品アーキテクチャをいかにマネジメントすべきかについて活発な議論がなされ,産業界に身を置く人間として大変心強く感じられた.

伊藤宏幸(ダイキン工業)

F12200 設計工学・システム部門企画
「多目的最適化は設計につかえるか?」

開催日時:9月12日(月)17:15~18:45
司会:廣安知之(同志社大)
講演件数:4件

“多目的最適化は設計につかえるか?”の先端技術フォーラムにおいて,廣安知之氏(同志社大)による『多目的遺伝的アルゴリズムによるハイブリッドロケットの概念設計のパレート解集合の導出』,大山聖氏(JAXA)による『ハイブリッドロケットの概念設計検討法と非劣解データのモード解析法出』,坂本博夫氏(三菱電機)による『電機製品における設計』,米澤智志(ダッソー・システムズ・シムリア)による『ソフトウエアベンダーから見た設計における最適化について』の4件の発表が行われた.その後,発表者の提供した話題を中心に,参加者も含めて活発な意見交換が行われた.設計の段階や対象によって異なるものの,多目的最適化の設計へのツールの有用性や利用方法について確認された.

廣安知之(同志社大)

W12100 設計工学・システム部門企画
「交通事故のモデル化とシミュレーション」

開催日時:9月14日(水)16:15~18:15
司会:吉村忍(東大),藤井秀樹(東大)
講演件数:3件

 “交通事故のモデル化とシミュレーション”のワークショップにおいて,藤井秀樹氏(東大)による『知的マルチエージェントモデルを用いた安全・安心のための交通流シミュレーション』,町田貴史氏(豊田中研)による『 予防安全システム評価シミュレータASSTREETによる全国規模の事故低減効果評価』,森田和元氏(交通安全環境研)による『自動車の運転支援システム評価のためのドライバモデルの記述』の3件の発表が行われた.シミュレーションによる安全運転支援システムの有効性について活発な議論が行われ,今後,活発な研究が期待される分野であることが改めて認識された.

藤井秀樹(東大)

S121 ヒューマンインタフェース

開催日時:9月12日 9:00~10:30
座長:渡辺富夫(岡山県立大学)
講演件数:6件

S12101“ヒューマンインタフェース”において,中村祐規氏(徳島大)らによる「角度計測情報を伝えるための情報提示法の検討」,谷口正芳氏(徳島大)らによる「デジタルカメラ画像からの3次元曲面作成」,Tariq Mohammad Arif氏(徳島大)らによる「Master-slave robotic arm manipulation for communication robot」,山田貴志氏(香川大)らによる「腕相撲ロボット製作学習教材の開発」,辻 吉竜氏(早大院)らによる「共振感覚に着目したウェアラブル型身体表現計測システムの開発」,岡田阿久里氏(早大院)による「タメの表現支援-動作感覚のズレに着目した力呈示装置の開発」の6件の発表が行われた.どれも興味深い内容であったが、とくに中村氏による角度計測情報を操作者に効果的に提示する方法を検討し,姿勢センサによる角度計測法を提案した研究や岡田氏による表現支援技術の構築を目指した動作感覚とタメの生成の関係について調べる実験システムの開発研究には、出席者の関心が高く,活発な議論が行われた.前者は認知工学研究に,後者はヒューマンインタラクション研究に貢献するもので,今後の進展に期待したい.

渡辺富夫(岡山県立大学)

J121 交通の安全・環境シミュレーション

開催日時:9月12日 9:00~10:00
座長:玉城龍洋(沖縄高専)
講演件数:4件

J121 “交通の安全・環境シミュレーション”において,三角梨恵氏(近畿大)らによる「バスの急停車時に杖が及ぼす転倒への影響」,渋江唯司氏(近畿大)による「バスの急停車時に椅子のグリップを掴んでいる立位乗客の転倒挙動」,小島一恭氏(埼玉大院)による「環境情報と機器操作履歴に基づく温熱環境下のデマンド予測」, 藤澤 健司氏(名大院)らによる「複数遅れ時間を考慮した多台参照追従モデルによる交通シミュレーション」の4件の講演が行われた.高齢者が乗車する機会の多いバスにおける,小衝突事故に遭遇した場合の障害の推定に関する説明,衝突事故回避などの理由で急停車をした時のバス車両内でグリップをつかんで立っている乗客の転倒挙動に及ぼす,バスの速度,グリップをつかむ握力,乗客の向き,靴とバス床面との摩擦係数の影響の説明,オフィス環境内に設置された多数のセンサ情報と個々の居住者の機器操作履歴を関連付け,センサ情報から居住者の温熱環境下のデマンドを予測する方法の説明,異なる遅れ時間をとる多台参照追従モデルについて安定性解析を行い,それを交通シミュレーションに適用した説明があった.いずれも日本社会の現状を反映した研究が行われ,有意義なセッションであった.

玉城龍洋(沖縄高専)

G12001 設計工学・システム部門一般セッション

開催日時:9月12日 10:15~11:00
座長:高橋 秀智 (東工大)
講演件数:3件

G12001 “設計工学・システム部門一般セッション”において,以下3件の発表があった.白坂成功氏(慶應大)の「アーキテクチャ設計のための視点選定方法の提案」では,金融システムの表現方法に関する提案があった.また,西垣 英一氏(豊田中研)の「環状骨格構造の衝撃応答評価手法の開発」では,自動車構造のモジュール化設計法に関する提案があった.さらに,槇原 宏昌氏(広工大院)の「表面温度に基づく伝達関数を用いた熱変形予測」では,工作機械の熱変形予測法に関する提案があり,各々活発な議論が行われた.

高橋 秀智 (東工大)

今年度年次大会の設計工学・システム部門関係の行事企画は本部門運営委員の東京工業大学高橋秀智先生をはじめ,セッション・基調講演を企画していただいた方々のご尽力により前記の通り実施されました.御礼申し上げます.
来年度の年次大会は9月9日(日)~12日(木)の日程で金沢市にて開催される予定です.設計工学・システム部門では,本年度と同様に様々な企画を予定しておりますので,ご興味を持たれた方は是非発表者として,または聴講者として奮ってご参加下さい.

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