ニューズレター

このページでは,設計工学・システム部門 Newsletter No.35の内容をお届けします (2011年10月発行) .

発行:2011/10/14 改版:2011/10/14
ページ製作・編集 D&S広報委員会

The 3rd CIRP International Conference on Industrial Product Service Systems(CIRP IPS2)参加報告

2011年5月5日~6日の二日間、ドイツ ブラウンシュバイク市において、The 3rd CIRP International Conference on Industrial Product Service Systems(IPS2 2011)が開催された(図1)。今年度の会議は、CIRP LCE 2011(5月2日~4日)に引き続き、同じ会場で開催されたため、筆者同様に両方の会議に参加される方が多くいた。LCE 2011, IPS2 2011ともに関連する話題を扱っており、製造・販売・保守・再製造までの製品・サービスライフサイクルを通じた設計方法論や知識の体系化、支援ツールに関する議論が活発に行われた。
IPS2 2011では、「Functional Thinking for Value Creation」が主テーマに掲げられており、製品・サービスシステム(Product-Service Systems, PSS)の価値を創造・最大化するため、機能展開・機能中心の考え方(functional thinking)で設計・評価を行うことに話題の重点が置かれた。1日目は、ブラウンシュバイク工科大 PD Dr. Herrmann(図2)より開会宣言の後、英国クランフィールド大学 Prof. Royより、“Service Cost Estimation Challenges in Industrial Product-Service Systems”のタイトルで基調講演がなされた。本講演では、サービス提供に関わるコスト推定の困難さを指摘され、同大学グループでの研究の取り組みとして、シミュレーションによる推定方法が紹介された。また、開催地近郊のフォルクスワーゲン社からMr. Rudolph/Dr. Manzが、“The Volkswagen Combined Heat and Power Plant -Automotive Know-How for Intelligent Energy Production”のタイトルで、同社の環境に配慮したエネルギー管理の取り組みについて基調講演された。

続く一般講演は、次の7つのセッションに分かれて、全60件の発表が行なわれた。
(1)PSS洞察・展望(5件)
(2)PSS設計(18件)
(3)PSS概念の具現化(5件)
(4)PSSインテグレーション・プロセス管理(5件)
(5)PSSナレッジ管理(5件)
(6)PSS評価メソッド(5件)
(7)PSSビジネスモデル・ケーススタディ(12件)

これらのセッションでは、製品・サービス設計方法のアプローチを提案するもの、エージェントを用いたシミュレーション方法の研究発表がなされた。また、設計工学を背景とする研究者が多いことから、TRIZ(発想支援・解探索)やQFD(機能品質展開)、FMEA(故障モード解析)を応用した研究発表などが行われた。

筆者は、PSSインテグレーション・プロセス管理のセッションで、クラウド環境におけるシステムインテグレーションについて発表を行った。クラウドは、従来ソフトウェア製品・ハードウェア製品で提供された機能を、ユーザがネットワークを通じて機能単位に利用可能するものである。このような環境でのシステムインテグレーションは、機能の組み合わせが増えることで難しさが生じている。発表では、設計学の考え方を応用した手法としてモデリング方法と手順を提案した。近年注目のあるクラウドを対象にPSSを議論した点で、参加者にとって新しいドメインでの議論に映ったようであった。

本会議では、嬉しいニュースもあった。今回を含め、過去三回のCIRP IPS2では、本研究コミュニティで中心的な英国クランフィールド大学、スウェーデン リンチェピン大学、ドイツ ブラウンシュバイク大学がそれぞれホストを務めてこられた。本研究コミュニティにおいて、これまで日本の研究グループからの貢献が大きいことから、会議主催者・関係者からは、日本での開催を期待する意見が多く示された。これらの期待に応える形で、首都大学東京 下村芳樹教授が日本での開催を受諾され、バンケットの場でIPS2 2012の東京開催がアナウンスされた。東日本大震災後、間もなかったこともあり、参加者からは暖かい拍手で迎えられ、サプライズ演出にもなった。

次回のIPS2 2012は、首都大学東京と産総研がホストし、日本で国際会議を開催する良い機会となる。国内研究者や技術者の参加にも大いに期待すると共に、更なるPSS研究の発展と普及に貢献していきたい。(cf. http://www.ips2-2012.org/en/index.html

細野 繁(NEC サービスプラットフォーム研究所)

図1 図2
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