開催日:2011年2月23日(水)
会場:東京大学工学部11号館講堂(東京)
講習会概要
市場ニーズを先取りし,斬新な設計を確実に製造現場の技術力に結びつけ,厳しいグローバル市場での競争を勝ち抜くためには,自由度が高い上流段階での設計が鍵となる.本講習会は,全体を大きく下記の3部構成とし,上流段階における設計の考え方や活用すべき手法,さらに企業における上流設計の実践状況について,当該分野の第一線でご活躍の講師をお招きし解説していただいた.受講者は50名と非常に関心が高く,質疑も活発に行われた.
- 第1部 市場ニーズを先取りし斬新な設計を生み出すための上流設計
- 第2部 アジアの低価格競争を勝ち抜く設計手法
- 第3部 不良を回避するための設計手法
講演概要
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はじめに
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1. 「上流設計の考え方と方法論」
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大阪大学 大学院 工学研究科 教授 藤田 喜久雄
いまなぜ上流設計が重要になってきたのかをGDPの変化基調からみた産業の変化,製品の部品点数の変化,設計で重点が置かれていた段階の変化などの分析を通じてわかりやすく解説いただいた. これまではwhatまたはhowを考える設計であったが,上流設計ではWhyを考える必要があり,機会の発見が重要であるとの考えが示された.また設計の上流では,曖昧な状況のもとで,様々な要因を多角的かつ総合的に判断・決定して,下流の設計に的確な方針を与える必要がある.そのような設計を合理的に進めるための様々な考え方や手法(Design for X: DfXと総称される)について,「課題を把握するための方法論」,「回答を立案するための方法論」の観点で各種手法を俯瞰的に紹介いただいた. 最後に,大学での設計教育を通じて,方法論を学ぶと万能であるかのように錯覚することがあるが,自分で考え,使いこなすことが重要であるというメッセージが贈られた.
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第1部 市場ニーズを先取りし斬新な設計を生み出すための上流設計
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2. 「お客様の声を技術の世界へ展開」
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玉川大学 経営学部 教授 大藤 正
品質機能展開(Quality Function Deployment: QFD)にはその目的に応じてさまざまな展開方法がある.今回の上流段階での活用方法を明確にするために,QFDの過去の利用方法から新製品開発における利用方法など歴史的な変遷から解説いただいた.QFDは特性要因図に基づき設計段階からの確実な品質保証のために体系付けられたが(第1世代),品質表の作成による設計品質を設定するための方法論へと進化してきた(第2世代).これに加え,業務機能展開,リアルタイム・データベース,タグチメソッドとTRIZを融合するQFDなど7つの新たな展開をみせ第3世代のQFDが体系化されているが,QFDを利活用する際にはその目的を明確にし,顧客要求(Voice of Customer: VOC)から適切な要求品質に変換して入力することが必要だと強調された."QFDをやってみたけど役に立たない"という例の中には,狩野モデルでいう「魅力品質」と「当たり前品質」が混在して扱われていることが多いという.新製品開発の場合には,魅力品質だけを要求品質に入れるべきであり,品質保証のQFDでは当たり前品質だけを入れるべきとのことであった.
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3. 「コンセプトの生成と選択のための体系的方法論」
大阪大学 大学院 工学研究科 教授 藤田 喜久雄
設計の上流において優れたコンセプトを見いだすためには,「発散」と「収束」,つまり,①様々な候補案を創り出し,②それらの中から有望なものを選び出す必要がある.①については多様な候補案を作り出すため,観点の多様性が重要であり,ものを区別するための概念を豊富にすることが良い設計に繋がる.これを支援する方法論としてMorphological Chartを紹介いただいた.設計対象を分解,展開,それを組み合わせることで多様性を生じさせる方法論である.②については設計者の直感とのずれを認知する方法論としてPugh's Method を取り上げ解説いただいた.会場からの"設計者はどこまで上流に遡ればいいのか?"といった疑問に対して,企画と設計のインターフェースにおいて,分野横断的な設計者の必要性が示された.
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第2部 アジアの低価格競争を勝ち抜く設計手法
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4. 「生産からリサイクル現場のための組立性・分解性設計」
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東京造形大学 サステナブルプロジェクト 教授 山際 康之
組立性・分解性の解説に先立ち,まず組立・分解のメカニズムを解説いただいたのでその後の理解が容易であった.組立性・分解性の評価方法について紹介いただき,分解性については実際に結合を外す時間変動が最も大きい要素であることが事例を用いて示された.組立性・分解性が悪い場合,組立設計(ジョイントデザイン),詳細設計(パーツデザイン)よりも,その上流にあるフレームデザインが悪いことが多い.組立性は機能集約配置,同一面配置を心掛けるのに対し,分解性では目的に応じた単独取り出し配置,同一材質集約配置を心掛けるべきという指摘があった.
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5. 「TRIZで矛盾の壁をブレークスルー」
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大阪学院大学 情報学部 教授 中川 徹
TRIZ(トリーズ)は,技術革新のための問題解決の方法論である.設計者の抱える具体的な問題を一般化し,現在のシステムと理想のシステムを理解した上で,新システムのためのアイデアを生成,一般化された解決策を設計者の具体的な解決策に具体化する,というプロセスをとる.ここで重要なのがシステム機能の分析であるという.通常TRIZというと解決策の生成法が注目されがちであるが,その前段階である機能分析について丁寧に説明いただいた.事例を用いた解説の中でも,システムに求められる要求を時間的に細かく分離することで,時間ごとの要求事項が変わり矛盾を解消できることが示された.
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第3部 不良を回避するための設計手法
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6. 「設計段階での仮想的Fault Tree Analysisによる高信頼性設計」
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東京大学 大学院 工学系研究科 教授 村上 存
Fault Tree Analysis(FTA,故障木解析)を,製品の実働状態での故障の分析でなく,設計段階で仮想的に適用することを目的とし,そのためのコンピュータ支援技術を先端技術として紹介していただいた.潜在原因を全て抽出することは不可能であり,また若手,ベテラン技術者の間でも知識の偏りがある.本研究は物理量次元(SI単位系)によるインデクシングにより,①設計者が作成した故障木の検証を行う,②設計者が故障木を作成する際の展開候補を提示する手法,ソフトウェアの開発である.現象を表現するための類義語・概念辞典の整備が必要ではあるが,設計段階での仮想的FTAを効率的にかつ信頼性高く行なう手法,ソフトウェアとして非常に興味深い内容であった.
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7. 「製品製造・使用の変動要素に対応するRobust Design」
ソニー(株) 設計技術センター 担当部長 関 研一,他
製品がグローバルに流通するようになり,ばらつきをコントロールすることの重要性が増している.そのため開発プロセスの上流で様々なばらつき要因を事前に想定することがより重要になった."ばらつきを抑えることはもちろん,そのばらつきに影響を与える因子にばらつきがあれば,そのばらつきも抑えたい"という考え方が印象的であった.ノイズファクターには使用(ユースケース),製造,経年変化があり,一方コントロールファクターとしては,設計(形態,形状の工夫),製造(プロセス,装置の工夫),材料(物理化学現象)がある.ご講演後半部分では,接着剤やアルミ電解コンデンサを例題に,故障影響因子による複合劣化試験の様子を,実験計画法や感度解析などの手法適用を交えご紹介いただき,変動要素と製品機能との関係分析(機能性分析)の重要性を理解することができた.
産学連携推進委員会委員長 増井慶次郎((独)産業技術総合研究所)