ページ製作・編集 D&S広報委員会,2010年10月発行

日本機械学会2010年度年次大会

設計工学・システム部門企画行事報告

全体取り纏め: 日立製作所 山崎美希

 2010年度の年次大会は,9月5日(日)~8日(水)にかけて,名古屋工業大学(名古屋市)を主会場に開催されました.設計工学・システム部門ではこのうち9月14日(月)~16日(水)に計6つのオーガナイズドセッション,2件の基調講演,1件のワークショップ及び同好会が企画行事として実施されました.本ページでは,このうち本部門の単独OS・企画や本部門が幹事部門となっているOS・企画を中心に,各企画行事の様子をまとめて紹介します.

J1201自動車と交通の安全安心シミュレーション

開催日時:[J1201-1] 9 月6 日(月) 9:00 ? 10:15, [J1201-2] 9 月 6 日(月) 10:30? 12:00,

オーガナイザー:吉村 忍(東京大学),酒井 譲(横浜国立大学),森田和元(交通安

全環境研究所),野村壮史(豊田中央研究所),北 栄輔(名古屋大学)

座長:[J1201-1]野村壮史(豊田中研), [J1201-2] 北栄輔(名古屋大学)

講演件数:11件

設計工学システム部門,計算力学部門,バイオメカニクス部門の3部門合同のオーガナイズドセッションとして企画された.年次大会では主要テーマとして,マイクロ・ナノ工学,安心・安全を支える機械工学,エコロジーパラダイムシフトを掲げていたことから,本JSは車両の設計,交通事故防止・低減等を対象としたOSとして企画された.11件のご講演があり,それらを2つのセッションに編成して実施された.講演内容は,交通現象のマルチエージェントシミュレーション,交通事故シミュレーションモデル.輸送システムや輸送機器に関する最適化など多岐にわたっており,講演者と会場参加者の間で活発な議論がなされて非常に有意義なセッションとなった.

野村壮史(豊田中研)

J1202解析・設計の高度化・最適化

開催日時:[J1202-1] 9 月 8 日(水) 9:45 ? 10:45, [J1202-2] 9 月 8 日(水) 11:00? 12:00,

[J1202-3] 9 月 8 日(水) 13:30 ? 14:30
オーガナイザー:山崎 光悦(金沢大学)
座長:[J1202-1]北山哲士(金沢大学), [J1202-2]西脇眞二(京都大学),

[J1202-3]片峯英次(岐阜工業高等専門学校)

講演件数:12件

設計工学・システム部門と計算力学部門のジョイントセッションとして開催されており,昨年度は19件の講演であったが,本年度は12件の講演と減少している.構造最適化の研究では,レベルセット法を用いたトポロジー最適化に関する研究が多く見受けられ,また形状最適化では力法をベースとした研究報告がなされた.アルミ鍛造サスペンション部材設計の最適化技術の応用に関する研究や,サスペンション部品の疲労強度に関する形状最適化に関する研究など,最適化技術の実用化が進んでいることをうかがわせる研究報告が見受けられた.また最適化技術の実用化の一例として報告されたPSOのプラント配置設計への応用に関する研究では,最適化によって得られた配置設計案が,経験に基づく配置設計よりも合理的であるという興味深い結論が得られている.この研究では満足化トレードオフ法に基づく多目的最適化を基本としており,目的関数や制約条件の設定において,どちらにも属さないと思われるものについて,満足化トレードオフ法の利点を上手に活用した研究であった.最後に,近年では塑性加工シミュレーションと最適化を併用した研究が実用化の観点からも注目されている.塑性加工シミュレーションによるスプリングバック抑制に関する研究が報告されており,今後,最適化の適用について研究が進むことを期待したい.来年度の年次大会においても同セッションが開催される予定であり,本部門からの構造最適化や最適化手法に関する数多くの研究発表が報告されることを期待したい.

北山哲士(金沢大学)

 

?K1201 基調講演 「3次元スキャンデータを活用する現物融合型エンジニアリング」
東京大学 鈴木 宏正 氏
開催日時:9月6日 13:00-14:00
司会:伊藤宏幸(ダイキン工業)

設計工学・システム部門の前部門長である東京大学先端科学技術研究センターの鈴木宏正先生による基調講演が開催された.先生は,通常の設計から製造に至る情報の流れとは逆方向の流れを作り,より効率的に高品質を実現する製品設計や製造準備を行おうとする考え方を,Closed Loop Engineering(CLE)として提唱されている.本講演では,複雑形状・構造を有する3次元物体を,高精度でスキャンする産業用X線CT装置の計測原理や現状を実例とともにご説明頂き,まず装置技術の観点から,現物融合型エンジニアリングが十分実用レベルにあることが理解された.しかしながら,投影画像から再構成されたボリュームデータ(計測データ)をCADデータにフィードバックするには,特有のデータ欠損を補完しつつ物体の位相情報を導出する陰関数再構成法によるメッシュ生成,さらにサーフィス・ソリッドに完全自動変換するリバースエンジニアリングシステムの構築が必要となり,これらを含む多種多様な基礎技術研究が鈴木先生の研究室で意欲的に進められている。また,スポット溶接痕の自動検出,薄板形状の中立面抽出,複合材部品の媒質分離,二番金型の上流設計へのフィードバックなど,具体的な応用事例が紹介され,産業界に身を置く人間として大変心強く感じられた.

伊藤 宏幸(ダイキン工業)

 

[K1202] 基調講演マルチフィジックス問題におけるトポロジー最適化」

豊田中央研究所川本 敦史 氏

開催日時:9月7日 11:00 ? 12:00

司会: 北英輔(名古屋大学)

均質化法を用いた最適化手法の理論的な説明に続いて,機械要素などの比較的大きな構造からマイクロ構造の最適化まで詳しい紹介がなされた.また,構造力学的な最適化から,マルチフィジックス問題としての最適化についても,具体的な問題から解説していただいた.そのなかで,最適化においては設計変数の選択,最適化問題の目的関数の定式化の選択などが重要であることが述べられた.その後,会場の参加者と活発な質疑が行われ,聴講者にとっては極めて有意義な講演となった. 

北 英輔(名古屋大学)

  

[W1201] ワークショップ 「デザインを科学する」

開催日時:9月7日 13:00 ? 15:00

講演件数:3件

司会:村上 存(東京大学)

現代の産業や社会が直面している高度化,複雑化,不確実化したさまざまな問題は,経験則の蓄積とその延長線上のアプローチのみによって解決することは困難である.本ワークショップは,3件の講演と参加者との質疑により,広い意味でのものつくり,ことつくりとしてのデザインの理論,デザインの科学の必要性,可能性について考えることを趣旨として企画された.

まず,木村英紀先生(理化学研究所BSI-トヨタ連携センター長,横断型基幹科学技術研究団体連合会長)から,「『ものつくり路線』からの脱却を」という題目でお話をいただいた.もの・要素・ハードを重視する従来の日本の製造業の現状と問題,コト・システム・ソフトウェアを中核とするシステム技術の振興を図り,要素技術とシステム技術を車の両輪とする新しい科学技術の枠組みを構築することの必要性を,具体的,定量的なデータに基づきお話しいただいた,大変興味深いお話であった.

次に村上存(東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻教授)が,「設計・デザインのプロセスと科学」という題目の講演を行った.設計・デザインのプロセスを,「問題の観察・気づき」,「製品の創案・実現」,「機能・価値の提供」のサイクルと考え,それぞれに対する科学,技術の寄与の内容について講演がなされた.

最後に,松岡由幸先生(慶應義塾大学理工学研究科総合デザイン工学専攻教授)から「デザイン統合に向けたデザイン科学の枠組み:多空間デザインモデル」という題目でお話をいただいた。デザイン科学の一つの可能性として,価値空間,意味空間,状態空間,属性空間で構成される多空間デザインモデルが説明された.デザイン行為やデザイン対象を構造的に分類,整理し,情報の共有,知の抽出などの基盤となる可能性がある,興味深い提案であった.

以上,本ワークショップでは,デザインの理論,デザインの科学の必要性と可能性に関する問題提起を行なった.今後はそれに対する解としてのデザインの理論,デザインの科学を構築する研究を進めていくことが必要である.なお,本ワークショップの講演予稿は,日本機械学会2010年度年次大会講演資料集,Vol.9,2010,pp.201-207に掲載されている.

木村英紀先生のご講演の様子        会場の様子

村上存(東京大学) 

 

3部門同好会

開催日時:9月6日 18:00-

会場:サッポロライオン 名古屋ビール園浩養園

3部門同好会は,ものづくりに深く関わっている設計工学システム部門,生産システム部門,生産加工・工作機械部門の3部門による合同の同好会で毎年年次大会初日の夜に行われている恒例行事である.今年度は設計工学システム部門が幹事部門となり,3部門から総勢25名の参加者を集めて着席形式の会食が行われた.会場となったサッポロライオン名古屋ビール園浩養園は講演会場から徒歩10分のところにあり,様々な地ビールを楽しむことができる.3つの部門はそれぞれ対象とする領域は異なるもののお互いに密接な関係があり,また見知った顔も多くあることから,各所で話が盛り上がっていた.3部門合同の同好会は機械学会の中でも特色のある行事で,部門講演会の懇親会とは異なり,ものづくりに深く関わる他部門の方と知り合い語らうことのできるよい機会であり,次年度も計画されている.

名古屋大学 北 英輔

 

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