ページ製作・編集 D&S広報委員会,2010年10月発行
The 17th CIRP International Conference on Life Cycle Engineering
(LCE 2010)参加報告
(大阪大学 福重真一)
2010年 5月19日から21日までの3日間,中国安徽省の合肥市(写真1)においてThe 17th CIRP International Conference on Life Cycle Engineering (LCE 2010) が開催された.東アジア地域での開催は早稲田大学が会場となったLCE2007から3年ぶりであり,中国では初の開催であった.会場となった合肥工業大学は中国の重点大学の一つであり,特に「機械設計理論」分野は国家重点学科の一つに選定されている.一般講演が72件,基調講演が6件,合わせて78件の全ての講演が学内の国際会議場(写真2)において行われた.LCE2010のテーマは,“Sustainable Manufacturing: Fundamental Theories, Application Technologies and Future Development”であり,持続可能な製造業に向けた先進的な学術研究から具体的な事例に基づいた実用的手法の提案に至るまで幅広い発表が行われた.なお,“Life Cycle Engineering”を中国語で“生命周期工程”と表記することを知ったのは新鮮な驚きであった.(日本だとバイオテクノロジーを連想するのではないだろうか)
1日目と2日目の午前中はプレナリーセッションが企画され,Energy Saving, Carbon Foot Print,Sustainability Metrics,Green Supply Chain Management,Remanufacturing,Life Cycle Designに関する6件の基調講演があった.中でも,Prof. Leo AltingによるSustainability Metrics についての講演の中で,“Sustainability”を環境,社会,経済の3つの観点から定量化し,この定量的指標に基づいて科学技術の社会への影響や将来の産業社会のあり方を議論することが必要であるとの主張がなされていた点が印象的であった.持続可能性やサステナビリティといった言葉は,今日の設計工学を語る文脈上にも多く現れ,また重要な概念であるとの認識も高まりつつあるが,その定義は未だ定まっていない.持続可能性の定義を議論する過程において,技術者や研究者のみならず市民の視点も踏まえた,幅広いステークホルダにとっての望ましい産業社会の将来像を明らかにしていくことが重要であろう.また,早稲田大学の高田祥三先生がライフサイクル設計の現状と課題について講演され(写真3),ライフサイクル設計の枠踏みとその方法論のいくつかを具体例を通して紹介された.その講演の中で,ライフサイクル設計とは製品のみならずそのライフサイクル全体を設計することであり,ライフサイクルを「考慮しながら」製品設計を行う従来の環境配慮設計とは区別しなければならない,と話されていたことが印象的であった.これまでの大量生産&大量リサイクルを前提とした製品設計のあり方を転換し,より持続可能な製造業を実現するためにも,今まで提案されてきたライフサイクル工学の様々な方法を統合し活用していくことが今後重要になるとの認識を示し,講演は締めくくられた.
また,一般講演は以下の6つのトピックに分類され,それぞれのテーマにおいて活発な議論が行われた(写真4).
- Topic A: Life Cycle Assessment, Engineering and Management
- Topic B: Energy Saving Product Development
- Topic C: Sustainable Manufacturing
- Topic D: Eco-design and Eco-innovation
- Topic E: Reuse, Remanufacture and Recycling
- Topic F: Sustainability and Sustainable Models
地元中国からの参加者も多く,自国の具体的な事例に即した手法が多く発表された.特に,中国におけるCO2排出量削減への関心の高まりを反映してか,設備や機器の省エネに向けた技術や評価手法に関する講演が多かったように感じた.一方,プロダクトサービスシステムや環境ビジネスの設計など,より概念的な対象を扱うための手法やツールに関する発表も多く,これは当会議の近年の傾向であるように思われる.
次回のLCE 2011は2011年 5月2日~4日の会期でドイツ・ブラウンシュヴァイクにおいて開催される予定である.また,この会議と連続して5月5日と6日の2日間,The 3rd CIRP International Conference on Industrial Product Service Systems (IPS2)が開催されることになっている.日程としてはちょうど日本の大型連休と重なるが,互いに関連の深い会議であり,両方に参加することで得られるものも大きいはずである.
写真1:合肥市の市街地
写真2:国際会議場をバックに
写真3:基調講演の様子
写真4:一般講演の様子
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