ページ製作・編集 D&S広報委員会,2010年10月発行

No.10-90講習会「自動車における3次元設計の現状と課題」(設計工学・システム部門企画)

デジタルプロセス 加藤 廣(文責),増井慶次郎 (独)産業技術総合研究所

開催日:2010年9月1日(水)
会場:東京工業大学(大岡山キャンパス)百年記念館 フェライト会議室(東京)

1. 本講習会開催の狙い

  製造業における製品開発は自動車などをリード役として3D-CADによる設計の時代に入った。しかし、その活用の実態は、「2D図面の存在は不可欠」など、企業ごとに大きな差が有る。

 本講習会では,アセンブリメーカにおける3Dデータ利用からサプライヤサイドでのモノ造りデータとしての運用実態をわかりやすく紹介することで、3Dデータ構築/運用するメリットと将来への方向性,3Dデータに具備すべき要件についての考察を行う。
自動車業界の方々はもとより、機械・電機・重工など他産業を含めて,2Dと3Dデータの両方を運用する現状から、今後3Dデータをどのように構築・活用して行くための参考にして頂きたい。


2. 講演概要と講師
(1)「3次元CADモデリングの研究動向と製品設計への貢献」

 1990年代後半から始まった「ソリッドモデルによる3次元設計」は,曲線モデリング,曲面モデリング理論の完成をベースに実務適用まで具現化されたCAD技術に裏づけされている.最近のCAD研究の動向を解説し,今後の製品設計に与える影響についての見解を述べていただいた。

 横浜国立大学大学院工学研究院 教授 前川 卓

(2)「グローバル展開時代の3Dデータ活用」

 日産自動車では早くから3Dデータを衝とする開発を推進してきた.BOMと連携した3Dデータをマスターとすることにより,生産性検討・CAEなどのコンカレントエンジニアリング,生産部門のモノ造りデータへの一元流通も実現した.更に,近年では海外開発拠点や海外サプライヤーとのコラボラティブエンジニアリングにも効率的に対応することが出来ている.これら最新の取り組み状況についてご紹介いただいた.

    日産自動車(株) 知識・情報マネージメント部 部長 二俣 達哉

(3)「モノ造りにおける3次元データ活用の課題について」

 3次元データの構築,流通が進む中,一部の部品生産等において,必ずしも3次元データを有効に活用し切れていないケースがある.2次元図面の持つ視認性,設計意図の明快さ,モノ造りの上での必要最小限な情報,などコスト,工数を考えると部品製造の現場においては2次元図面を衝にしているケースが少なくない.Tier1という立場での3次元データの活用の現状と課題,今後の方向について検証いただいた。

  カルソニックカンセイ(株) デジタル化推進グループ 部長 四方 力

(4)「3次元設計における最新ソリューションと海外事例」

日本の製造業における,3次元化のメリットと課題を整理し,3次元設計の最新ソリューションがその課題をどのように解決できるか,SiemensPLMのソリューションとして「3次元共通言語としてのJT」「Early BOM」などを紹介いただいた。

  シーメンス PLM ソフトウェアJP(株) ビジネスコンサルティング部 マネージャ 日原 進介

(5)「JAMA /JAPIAの3D図面標準化活動総括と実施事例」

自動車産業においては,今後の開発効率向上の観点から,3D図面の有効活用が課題となっている.本講演では,これまでJAMAで実施してきた3D図面標準化の活動紹介,及び今後の課題をCAD/Viewerの実証結果や機能要求などを交えて紹介いただいた。

一般社団法人 日本自動車工業会 デジタルエンジニアリング部会 企画展開分科会 委員

(株)本田技術研究所 四輪R&Dセンター 開発推進室 CISブロック 主任研究員 永井 昭良


(6) 「データ成長を活用した3次元化の実現に向けて」

  3次元化の実現に向けては,3次元化形状データを活用したモノ作りスタイルを構築することが,必要と認識している.その中でも,モノ作りの開発フェーズに対応した形で3次元形状データを構築(これをデータ成長と呼んでいる.)し,そしてそれらを効率的に,かつタイムリーに構築していくことが,3次元化をうまく行なうために重要なファクターとみている.そこで,これまでの3次元化に取組んできた製造業を中心とした様々な事例を交えながら,データ成長を活用した3次元化の取組み内容を紹介いただいた。

 デジタルプロセス(株) CADナレッジエンジニアリンググループ 部長 稲荷 泰明


3. 実施結果

[受講者]

  • 参加36名(企業33名、大学・研究機関3名)、他に講師・事務局を入れて、合計50名
  • 職種 製造(7)、研究(2)、開発(8)、設計(6)、管理(2)、企画(3)、その他(3)
  • 学校/教員(2)

(1) 受講者のアンケート結果

[参加の目的]

  • 業務に生かすため(27)
  • 業務の幅を広げるため(8)
  • その他(1)
    • 3Dモデルと計測データとの連携
    • 共同開発のシステムに生かすため
    • 職場内での3D-CAD推進の先駆者となるため
    • 業務で対応している自動車会社の動向把握と他業種の状況を知るため

[役に立ったか]

  • 非常に有意義であった(16)
  • どちらかといえば有意義であった(14)
  • 3D導入に当たり重視すべき点が明確になった
  • あまりためにならなかった(1)

[本日の講習会で特に興味深かったものは?]

  • (1)3次元CADモデリングの研究動向と製品設計への貢献 (10)
  • (2)グローバル展開時代の3Dデータ活用         (23)
  • (3)モノ造りにおける3次元データ活用の課題について   (23)
  • (4)3次元設計における最新ソリューションと海外事例   (11)
  • (5)JAMA /JAPIAの3D図面標準化活動総括と実施事例   (11)
  • (6)データ成長を活用した3次元化の実現に向けて     (15)

[今後の講習会に]

  • ・ぜひ参加したい    (1)
  • ・内容次第で参加したい (32)

[今後の希望テーマ]

  • 検査工程の3Dデータ活用例
  • PDMの事例を紹介して欲しい
  • 3D図面標準化の活動報告を継続的にして欲しい
  • 3D設計の標準化
  • 設計作業効率化に関する新技術紹介
  • 3D設計の課題の解決について継続的に情報提供して欲しい
  • 自動車以外の3D設計についての情報提供して欲しい

4. 主催事務局の所感

  昨年の講習会の反省を踏まえ、本年は自動車業界にフォーカスして「3次元設計の現状と課題、今後の方向性」をテーマにレクチャーを構成した。
前川先生「学術会の研究動向」を起点に、自動車メーカ「開発のグローバル展開」→サプライヤ「データ衝の具体的取組み」→CADベンダ「最新ソリューション(JTなど)」→業界団体「JAMAの3D図面標準化」→サービスベンダ「データ成長」の流れでシナリオを構成したが、事務局が計画した以上に筋の通った講習会になり、内容に関する評価は高かったと感じる。

  参加者の関心の高さから、講習中はどの講演に対しても活発な質問・意見交換が行われた(質問総数25件)。改めて、「3次元CADによる設計」が色々な課題を持つことを認識した。「2Dと3Dの使い分け」「設計から他部門・他企業への3Dデータの伝達の難しさ」などである。

 特に予想以上に「流通データの標準化」に関する関心が高かったことは新鮮な驚きであった。次年度の講習会を含め、今後の部門活動の参考にしたい。

 

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