(ダイキン工業(株) 伊藤 宏幸)
今期,部門長に就任することとなりました.下村芳樹副部門長をはじめ運営委員の皆様,また過去の部門長の方々からご就任頂いているアドバイザリーボードの皆様とともに部門の発展に寄与して参りたいと考えておりますので,何卒,ご協力,ご支援のほど宜しくお願い申し上げます.
さて,人間にしかできないと言われていることのひとつに「3項関係の理解」というものがあるそうです.それによると,母と幼児が,犬(夕日でも良いのですが)に対して視線や指差しにより共同注意することを原初的な形態として,私とあなたと「モノ(事象)」が,相互に関わりながら社会的交渉を進めていく.人間は,そのような「場」を通して,言語を獲得し,やがて他人も自分と同様の「心」を持つことを理解するに至るらしいのです.生来の不勉強ゆえ,最初にこの言葉を知ったのは,「設計工学・システム部門」と深く関わりを持つようになった後,比較的最近のことですが,「モノ(事象)」を人工物や広義のメディアとし,大胆に抽象度を高めると,これらの究極にある行為が広義の設計(あるいはデザイン)であり,またその表現型として得られるものこそ複雑な(人工)システムではないかと思われてなりません.抽象化された図面,数学的構造を呈する記号列,時に矛盾を内包した言語に拠るルール/メタルール,階層性を有し,ヒトをも内包するシステム/メタシステム,これらを通じて,その設計の含意を共有し,再帰的に人工空間を構築し,また生活者として,そこに身を置く.
横断的であり,かつ,前年度,副部門長就任の挨拶でも触れましたように「コト」に関わることが多い部門であるがゆえに,現実の設計,開発,生産に携わっている多くの技術者からは,とかく客体視されがちな存在ではありますが,上述のような視点からは,社会生活の根源に深く関わった,実に人間味のある領域を対象としたその姿が浮かび上がってきます.
実際に,ここ数年間の研究動向を部門講演会の技術分野で大別しますと「設計学・設計方法論(製品開発と設計方法論,設計理論・方法論,設計・デザイン論,創発性と多様性の設計,技術経営と設計,品質と設計,マーケットづくりのための設計)」,「コンカレントエンジニアリング(設計における知識マネジメント・情報共有, 設計プロセスのモデリングとマネジメント)」,「ライフサイクル工学(ライフサイクル設計とサービス工学)」,「デジタルエンジニアリング(CAD/CAM/CAE,形状モデリングと産業応用)」,「最適設計(設計と最適化,システム最適化,最適化計算法,近似最適化,FOAと近似最適化,多目的最適化と設計空間探査)」,「ヒューマンインタフェース(ヒューマンインタフェース・ユーザビリティ,感性と設計,感情と設計,人工現実感,人工現実感援用教育訓練)」,「設計教育(設計教育と人材育成)」,「実問題での設計の展開(企業事例,メカトロ設計,モデル駆動型の製品システム開発)」,「医工連携関連(バイオ・人間と設計)」となっており,広範囲にわたっております. 昨今の日本の製造業の急速なグローバル展開に伴う,現地での調達、生産、販売、サービスの進展は,従来のような集中型に加えて分散型の開発・設計を必然的に求めております.紹介致しました当部門の技術活動からも,先進国のみならず新興国の多様な顧客との不即不離の関係を構築する際のヒントを数多く得て頂けるのではないかと考えております.
今期,おかげさまで当部門は設立以来20年目となります.どうか,2010年10月27日(水)~29日(金),産業技術総合研究所・臨海副都心センター(お台場)で開催される部門講演会にお越しの上,そこで何がどのように議論されているのかご覧頂き,また自らの経験や思量に基づいた意見を披瀝するお立場で,議論に加わって頂ければと願ってやみません.心よりお待ち申し上げております.
(東京大学 鈴木 宏正)
2010年3月をもちまして,設計工学・システム部門の第87期部門長を任期満了により無事退任致しました.そもそも分からないことだらけで,事務局の田中さんに引っ張られるように任務をこなしたというのが正直なところです.部門登録者の皆様,特に運営委員の皆様,そして幹事の古賀先生のお陰で何とか任務を全うすることができました.この場を借りて御礼を申し上げます.
在任期間中に私が特に行ったと言えることは,部門規則を整理したことと,若手の方にいろいろと仕事をお願いしたことくらいです.そして最も思い出に残るのは,もちろん沖縄・読谷村での部門講演会です.青山先生を始めとする実行委員の方が,沖縄の太陽のように熱い情熱をもって企画・運営していただき大成功に終わりました.この講演会で,私はその昔学生だったころに地方の学会で発表するのを大変楽しみにしていたことを思い出しました.部門の活性化という観点からも,部門の行事に参加して楽しい,ということが実はとても重要なファクターであることを忘れていたように思います.もちろんツーリズムに頼れというのではありませんが,会員の研究や設計開発などの “仕事”にどれだけ直接に役に立つかというようなことだけでなく,会員の関心は多様であり,部門に参加したくなるようなもっと別のファクターを考えることも重要であると思いました.
第88期は部門創設20周年となり,部門長の伊藤宏幸氏(ダイキン工業(株))の本格的執行部体制の運営で,活性化が大いに期待されます.本部門のますますの発展を祈念しますとともに,今後も微力ながらお手伝いをさせていただきたいと思っております.
(首都大学東京 下村 芳樹)
此の度,第88期の副部門長にご選出頂きました.今期は当部門が20 周年という大きな節目を迎えるタイミングでもあり,果たして私でこの大役に耐えることが可能であるのか….日々不安は募るばかりですが,伊藤宏幸部門長を始めとする運営委員,アドバイザリーボードの方々,ならびに部門所属の皆様のお助けを頂きながら,微力ながらも本部門発展のお手伝いをさせて頂ければと考えております.昨年度に「部門活動で取り上げる技術分野に関して,その適正化を図り新規発展分野の開拓を促進するための課題を中長期的な視点から部門長および運営委員会に対して答申する」ことを目的として新設されました技術委員会におきましても,技術委員長職は副部門長が担当することとされており,併せてこの職務に対しましても,皆様からのご意見を賜りつつ,その本務を全うさせて頂ければと考えております.
さて本分野においても,その対象は要求機能実現のための設計工学・システム論から,環境負荷低減を含む持続的な発展の実現を目指したより広範な内容へと段階的に変化致しました.また,環境調和型製品開発に関する議論も,単なる環境負荷抑制の面だけでなく,製品が本来満たさなければならない価値に再度注目し,より小さな環境負荷で高い価値を実現するための議論へとその論点が変化しています.結果として,本分野の領域横断性はさらに進展しつつあり,今や経済・マーケティング分野,社会工学分野,人間工学分野,人工知能分野など多様な領域の研究内容が本分野と融合する状況にあります.さらにこの傾向を加速するもう一つの要因に,昨今のサービスに対する注目があります.長らく沈滞状態にある世界経済を再活性化する切り札として,サービスの生産性向上達成の必要性・重要性が多方面で指摘されていますが,我が国においてもサービスに関する工学的/科学的研究が急激に進展しており,サービスを「設計対象」として扱う研究も多方面で展開され始めています.同時に,製品(もの)のサービス(こと)化についても,高付加価値の新しい達成手段として,また,環境負荷低減の直接手段として大きな期待が寄せられており,この意味でも本分野の一層の拡大,領域横断化はごく自然な成り行きとして理解されています.
以上,今後一層の発展が期待される本部門において,その運営に例え僅かでも直接的な貢献をする機会を与えて頂けましたことは光栄の一言に尽きる思いです.初心忘れることなく,本務を全うのための努力を致したく思います.どうぞ暖かいご支援,ご協力のほどをお願い申し上げます.