日本機械学会 2009年度 年次大会
設計工学・システム部門企画行事報告

2009年度の年次大会は,9月13日(日)~16日(水)にかけて,岩手大学を主会場に開催されました.設計工学・システム部門ではこのうち9月14日(月)~16日(水)に計5つ(8セッション)のオーガナイズドセッションと一般セッション,4件の基調講演,及び同好会が企画行事として実施されました.本ページでは,このうち本部門の単独OS・企画や本部門が幹事部門となっているOS・企画を中心に,各企画行事の様子をまとめて紹介します.


  • S1201 ヒューマンインタフェース
  • 開催日時:9月14日 9:30-12:00
    オーガナイザー:渡辺富夫(岡山県立大学)
    座長:伊藤照明(徳島大学),渡辺富夫(岡山県立大学)
    講演件数:5件

    S1201-1“ヒューマンインタフェース”においては,伊藤(徳大)らによる仮想物とのインタラクションを用いた立体表示では簡便な装置による仮想物とのインタラクション感覚を,加藤氏(早大)らによる身体スケール感覚に着目したミニチュア空間体験システムでは,操作者の影を用いることによるミニチュア空間との連帯感向上を,渡辺氏(早大)らによる伸縮型Virtual Toolとの身体的インタラクション計測システムでは仮想物と体の一体感を,青山氏(早大)らの紐インタフェースによりつながり感を創出する遠隔同伴散歩システムでは物理的に離れた場所にいる相手を身近に感じるためのロボット活用を,鈴木氏(早大)らによる空中描画を用いた場のアーツコミュニケーションでは身体動作による描画表現を通じた人とのコミュニケーション場創出を対象とした発表が行われた.報告された5件の研究内容は適応分野こそ異なるものの,仮想空間と実空間との融合をコミュニケーションの観点から目指した研究と見ることができ,今後のヒューマンインタフェース研究に関する一つの流れを示していると言える.質疑応答では,より良いコミュニケーションを目指した視点から,福祉や医療をも念頭においた活発な議論が行われ,今後の活発な研究が期待される分野であることが改めて認識された.

    伊藤 照明(徳島大学)


  • J1201 解析・設計の高度化・最適化
  • 開催日時:J1201-1 9月14日 14:35-15:50,J1201-2 16:00-17:00,J1201-3 9月15日 10:45-12:00,J1201-4 13:30-14:45
    オーガナイザー:山崎光悦(金沢大学),西脇眞二(京都大学),轟章(東京工業大学),多田幸生(神戸大学),福永久雄(東北大学),北山哲士(金沢大学)
    座長:J1201-1 轟章(東京工業大学),J1201-2 下田昌利(湘南工科大学),J1201-3 福永久雄(東北大学),J1201-4 多田幸生(神戸大学)
    講演件数:19件

    設計工学・システム部門と計算力学部門のジョイントセッションとして開催されており,昨年度は13件の講演であったが,本年度は19件の講演と増加した.ジョイントセッションらしく,シミュレーションをベースとした薄板フレーム部材の塑性メカニズムや薄肉角筒のねじり崩壊,力法に基づく形状最適化に関する研究,電動機固定子の振動解析モデル化,ロボットアームの最適形状設計法など,計算力学部門の一部で活発に行われている研究発表が行われ,また三次元FOAやトポロジー最適化を用いた周波数選択デバイス設計法,人間工学的視点に立脚した飲みやすさに関する研究,多層膜窓ガラスの最適設計など,設計工学・システム部門らしい研究発表も行われた.特に発電プラント機器配置計画の多目的最適化は,極めて実践的な研究であり,遺伝的アルゴリズムと多目的近似最適化手法を実用化している研究であり,特筆すべき研究であると思われる.来年度の年次大会においても同セッションが開催される予定であり,解析技術や最適化に関する高度な研究発表が行われるものと期待したい.

    北山 哲士(金沢大学)


    本セッションは,設計工学・システム部門と計算力学部門のジョイントセッションとして企画されたものだそうで,19件の講演が集まった.構想設計段階を対象とした解析モデルの構築法から,最適設計法,そして意思決定手法まで,解析と設計を数値的な手法に基づいて支援する数々の手法についての講演があった.特に,近年の最適設計法の普及を反映しているのか,最適設計の対象は機械構造だけにとどまらず,エネルギー関連のシステムの設計に対する最適設計法の応用例の発表があり,自分自身もエネルギー関連の最適設計の研究を行っているだけに,大変勉強になった.

    川井 一平(京都大学大学院)


  • J1202 設計における知識マネジメント・知識共有
  • 開催日時:9月16日 9:30-10:45
    オーガナイザー:村上存(東京大学),綿貫啓一(埼玉大学),辺見信彦(信州大学)
    座長:辺見信彦(信州大学)
    講演件数:5件

    本セッションでは5件の発表があった.「統合型設計支援のための設計操作の動的構造化と知識管理」では,設計者の暗黙知を獲得するために,思考プロセスを設計支援システム上の設計操作の履歴として明示化し,操作のタイプや操作の背後にある文脈を考慮して動的に構造化するシステムが提案された.「物理量次元インデクシングに基づく故障木解析の知識マネジメント」では,物理量次元インデクシングとFTAの知識マネジメント技術が提案され,それに基づくFTA支援ソフトウェアの概要が報告された.「信頼性問題未然防止手法の実践における評価ミスの効率的発見手順に関する実験的検討」では,信頼性問題未然防止手法の効率的実践のために,実践時のエラーの一類型である評価ミスを発見する手順が報告された.「複合現実感技術を用いた鋳造技能伝承および人材育成」では,複合現実感技術を用いたバーチャルデザインレビューシステムおよびバーチャルトレーニングシステムによる技能伝承システムの開発が報告された.最後に「技能の抽出およびそれに基づく加工設計に関する研究」では,加工設計において重要となる判断技能の抽出を技能表出フレームにより行う手法が報告された.いずれも興味深い研究であり,刺激的で有意義なセッションであった.

    野間口 大(大阪大学)


  • G1201 車両・CAD
  • 開催日時:9月16日 11:00-11:45
    座長:大町竜哉(山形大学)
    講演件数:3件

    本セッションは部門の一般講演としてエントリーがあった3件を集めたものである.車両関連講演の2件のうち,1件は学界からの講演で,列車車両の衝突シミュレーションから安全性を評価する研究であった.車内設備を設計パラメタとして衝突事故時において乗客に与える影響について評価しており,学界らしい基礎研究であると感じた.車両関連のもう1件の講演は産業界からの講演で,車両開発用CADシステムについての事例紹介であった.3D-CADデータをモジュール化し,開発全体にかかる時間の短縮化に成功しており,産業界の最新の技術事例を示した大変興味深い内容であった.残りの1件も産業界からの講演で,製品開発におけるCADシステムについての実例紹介であった.具体的な製品名は明かされなかったが,ネットワークモデリングを用いて要素設計に費やすコスト軽減を図る興味深い内容であった.本部門のセッションとしては最後の日程に組まれたため,聴衆は12名とやや少なかったが,いずれの講演についても活発な討論が行われた.

    大町 竜哉(山形大学)


  • K1201 基調講演 「社会問題を解決するメタ技術としての設計工学―エコデザインを例題として」 大阪大学 梅田 靖 氏
  • 開催日時:9月14日 13:20-14:20
    司会:鈴木宏正(東京大学)

    設計工学・システム部門では,前年度の部門長が年次大会で基調講演を行うことが恒例となっている.今年度も前部門長である大阪大学大学院工学研究科・機械工学専攻の梅田靖先生を講師に迎え基調講演が行われた.設計工学のアナリシスの補完としてのシンセシスの体系化,理論化,方法論化という側面から社会問題に対する設計工学の可能性について語られた.すなわち,社会における価値,意義という技術開発の「出口イメージ」が強く求められているが,それは技術をまとめ上げる「メタ技術」であり,その具体的な方法論は設計工学だという主張である.社会問題と設計問題とのアナロジーを用いて説明され,「価値」を創造する点で問題構造は同じであるとの説明は,設計工学の研究に携わっている立場からすると大変興味深いものであり,かつうなずけるものであった.講演では具体的な例題としてエコデザインを取り上げ,問題構造を技術の階層構造として捉えた上で,各要素技術をまとめるメタ技術の階層の重要性を指摘し,その構造を記述する方法としてシナリオとその作成プロセスを明らかにしていくことが有効であると説明された.最後に設計サイクルをまわすために必要な,「評価」の問題について実験やアナリシスなど物理世界に帰着できるものに対して,設計の場合,人間が入り,市場や価値等が出てくるため評価困難となっている.持続可能社会の設計問題においても評価が困難であり強いていうと,社会的合意のようなものではないか,逆にそういうものであるが故に設計工学が重要となるという説明があった.今回の基調講演は,プログラム編成上設計論や設計方法論を対象としたセッションと開催日が違っていたこともあり,聴衆は少なめであったが,聴講者にとってはいろいろと考えさせられる大変貴重な講演であった.

    design_sympo2008-1

    梅田先生講演の様子

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    講演後には部門長から感謝状が贈られた

    妻屋 彰(神戸大学)


  • K1202 基調講演 「設計空間の見える化」 京都大学 大林 茂 氏
  • 開催日時:9月15日 9:30-10:30
    司会:山崎光悦(金沢大学)

    年次大会2日目(9月15日)の午前に,東北大学流体科学研究所の大林茂先生を講師として,「設計空間の見える化」と題した基調講演が開催された.鳥人間コンテストに対する東北大学の取組や,実際の設計問題に対して最適化手法が活用されたいくつかの事例が報告されたが,その中でも特に,大林研究室で開発された多目的最適化法が国産航空機(MRJ)へ適用され,成果を挙げており,聴講者の関心を引いた.設計問題は多くの設計変数や目的関数があるため,一般にこれらを可視化することは難しいが,自己組織化マップ(SOM)を用いて,目的関数空間や設計変数空間を可視化する研究について詳述していただいた.この方法は,多くの目的関数をもつ航空機の設計問題に対して,非常に有効な方法の一つであると思われ,可視化により設計を効率的に進めていこうとするものである.また,従来,多目的最適化法の中でも満足化トレードオフ法などの対話型手法における希求水準の決定は,意思決定者によって決められていたが,目的関数空間を可視化する技術により,さらに容易に希求水準を決定する方法などに役立てることができるものと思われる.基調講演の最後には,ロバスト設計法を掃除機の設計問題へ適用した事例等も報告され,聴講者にとっては極めて有意義な講演となった.

    北山 哲士(金沢大学)


  • 3部門同好会
  • 開催日時:9月14日 18:00- 
    会場:三寿司総本店

    3部門同好会は,ものづくりに深く関わっている本部門,生産システム部門,生産加工・工作機械部門の3部門による合同の同好会で毎年年次大会初日の夜に行われている恒例行事である.今年度は3部門から満遍なく参加者があり総勢27名の参加者を集めて着席形式の会食が行われた.3つの部門はそれぞれ対象とする領域は異なるもののお互いに密接な関係があり,また見知った顔も多くあることから,各所で話が盛り上がっていた.会場となった三寿司総本店は納豆巻を世に出した店ということで,最後の寿司には納豆巻も出てきた.3部門合同の同好会は機械学会の中でも特色のある行事で,部門講演会の懇親会とは異なり,ものづくりに深く関わる他部門の方と知り合い語らうことのできるよい機会である.今年度は事前申し込みでほぼ定員となったそうなので,来年度以降参加を考えている方は事前に申し込まれることをお勧めする.

    大町先生

    司会の山形大・大町先生

    鈴木部門長

    開会の挨拶をする鈴木部門長

    乾杯

    乾杯(生産システム部門・松田部門長)

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    懇親会の様子

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    懇親会の様子

    一本締め

    生産加工・工作機械部門・太田部門長の閉会挨拶後一本締めで閉会となった

    妻屋 彰(神戸大学)


今年度年次大会の設計工学・システム部門関係の行事企画は本部門運営委員の山形大学・大町竜哉先生をはじめ,セッション・基調講演を企画していただいた方々のご尽力により前記の通り実施されました.御礼申し上げます.

来年度の年次大会は9月5日(日)~9日(木)の日程で名古屋市にて開催される予定です.設計工学・システム部門では,本年度と同様に様々な企画を予定しておりますので,ご興味を持たれた方は是非発表者として,または聴講者として奮ってご参加下さい.

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