福田収一 Stanford
University
8月3日から6日、New
YorkのMarriot
at the Brooklyn Bridge Hotelで、ASME
IDETC/CIE 2008が開催された。他の方か¥ら会議全体について報告が予定されているので、筆者は、ExCom
Member(役員)として関係したCIE
(Computers and Information in Engineering) Divisionの28th
CIE Conferenceを中心に述べる。
IDETC/CIE
2008の会場がNew Yorkであることは、数年前から分かっていた。例年この会議は、9月初めに開催される。しかし、前回のLas
VegasでのIDETC/CIE 2007
しかし、さすがNew Yorkである。こうした懸念は杞憂であった。CIE Conferenceについて言えば、これまでで最大の人数の参加があった。またIDET/CIE全体の各種行事などには、奥さん、子供さんまで参加し、学会か楽会かよく分からなかった。なぜ、New Yorkがこんなに人気があるのか?どうしたらこうした人気を作り上げられるのか?機械学会も観光設計工学でも始めて、検討すべきと思われる。しょっちゅうNew Yorkに来ているアメリカ人が、またぜひ来たいと言っているのを聞くと、これは、どうすれば、魅力が創造できるかの大きな設計課題ではないかと思う。しかし、会議では、相変わらず従来の機械工学の議論だけで、こうした将来の機械工学への議論がまったくなかったのは残念である。折角New Yorkで開催したのだから、Frank SinatraのNew York, New Yorkでも皆で合唱して、「New York!どうしたらこのような魅力的な街を創造できるか?」というパネルか、ワークショップでも開催して欲しかった。
CIE ExComは電話会議を2週間置きに開催している。しかし、今度は1ヶ月開催が早まったので、電話会議も頻繁に開催された。日本にいるときには、真夜中に電話会議にでなければならないので、これにはまいった。New YorkでのIDETC/CIE全体の役員会で、ASMEはアメリカだけの学会ではない。国際学会なのだから、アメリカ人の都合で勝手に1ヶ月早くするのは困ると文句を言った。まあ、本音は言っている本人も、聞いている人も、皆、ASMEはアメリカの学会だと思っているが、こうとでも言わないと文句のつけようがない。しかし、今回は、どのConferenceでも参加者が多かったために、結果よければすべてよしで、誰も文句を言わなかった。これが他の都市であったら、参加者も大幅に減少し、非難轟々であったであろう。
実は、この開催地Brooklynは特別な場所である。Betty Smithが1943年にA Tree Grows in Brooklynという小説を書いた。これは、アメリカの労働者階級がいかに苦労して這い上がろうとしているかを書いた小説である。全米で超ベストセラーとなり、戦地のアメリカ軍人にまで配られたほどである。Elia Kazanが監督をして1945年に映画化し、アカデミー賞も取り、またミュージカルにもなった。したがって、アメリカ人にとってはBrooklynは特別な意味があると思われる。もっとも、このような小説、映画などの話をしているのは、筆者のような「新宿駅?ああ。なにもない原っぱの中の駅ですね?」などと言っている年寄りだけかもしれない。しかし、この小説は、アメリカ人が明日を夢見て頑張っている時代を書いており、ちょうど日本人が終戦後、明日を夢見て頑張っていたのと同じである。アメリカ人にBrooklynと聞いて何を感じる?と今度聞いてみたいと思っている。
開催時期が8月初めとなった理由も、Brooklynは、多くの日本人が良く行くManhattanと違い、落ち着いた場所である。したがって、多分9月初めは多くのアメリカ人が訪ねてくるので、8月になったのであろう。2008年は、Brooklyn Bridgeが架けられてから125年が経った記念の年である。5月の戦没者記念日、Memorial Dayには、125周年記念が大々的に開催されている。
28th CIE Conferenceの報告なのか、Brooklynの宣伝なのか分からなくなってきた。本題に戻りたい。今回のCIE Conferenceは、Technical Committeeの再編が話題となって最初の会議であったこともあり、多くのSpecial Sessionが設けられた。CIEでは、System Design, Modeling and Control, Computer Aided Process and Product Development, Virtual Environment and Systems, Enterprise Information Managementなどが従来の分野であるが、今回は、筆者、青山英樹慶応義塾大学教授、金井理北海道大学教授で企画したEmotional Engineeringのセッションを初め、Prognostics and Health Management, Inverse Problems, Agent Based Modeling, Multi-agent Systems等多くのspecial sessionが開催された。
3日の日曜日は、ASME IDETC/CIE 2008全体で企画するtutorial, workshopが開催された。しかし、ASME側のホテルのconference rateでの予約が月曜日からしか有効でないというとんでもない行き違いのために、筆者は、Emotions, Cultures and Engineering: Are Emotionals Culturally Independent?というWorkshopを企画したが、Las Vegasでは常時60名ぐらい会場にいたのに対し、今回は10名強で、大変残念であった。もっとも、New Yorkなので、ホテルの宿泊費がconference rateであっても、日曜日は、皆Brooklynを楽しみに外にでてしまったかもしれない。Workshopは、参加者は少なかったが、きわめて最先端の研究などが披露され、活発な議論が行われ大変有意義であった。
4日から通常の講演が開始された。CIEでは、XeroxのPLMの責任者Korhan Sevenler氏のComputers and Changing Market Requirements for PLM and the Need for Improving Collaboration with Universities という基調講演が行われた。この講演では、PLMという視点から産学連携についても議論が行われ、なるほど面白い考え方もあると思った。5日はFordのNand Kochhar氏からComputers and Information Driving Innovation at Fordと題する基調講演が行われた。
Emotional Engineeringのspecial sessionでは、日本からの多くの講演発表があり、またイタリア、ドイツなどのヨーロッパ、またアジアからは韓国などから講演があった。このセッションは、感情、感性などを考えた設計、解析についての講演が対象であるが、VRを使った力覚を考えた曲線生成、感性的に優れた曲線生成、デジタルプロトタイピング、Affordance Perception, 意味から考える設計、足の医療的補助器具の設計、機械と人間のチームワーキング、人間とロボットの感情コミュニケーション、感性設計、音などを考慮した創造設計などきわめて多岐に渡る論文が17編発表され、また議論も大変活発であった。今後、この分野は大きく発展すると期待される。
また、Emotional Interactions and Communicationsと題するパネルを筆者が企画し、東大の山田一郎教授の雰囲気コミュニケーション、大澤幸生准教授の価値センシング、埼玉大学の綿貫啓一教授のVRを利用した技術伝承、東京芸術大学の桐山孝司教授のUser Experience Designについての講演が行われた。
なお、来年のASME IDETC/CIE 2009は、8月30日から9月2日San Diegoで開催される。筆者は、29th CIE ConferenceのProgram Chairなので、CIEの広い分野に渡り、ぜひ多数の論文投稿を頂ければと願っている。読者諸兄の積極的なご投稿、ご参加を心からお願い申し上げたい。
氏家良樹(慶應義塾大学)
2008年8月3日から6日にかけて,米国機械学会ASMEの主催による2008 International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information In Engineering Conferenceが,米国・ニューヨーク・Marriott at the Brooklyn Bridge Hotelにて開催されました.ASME IDETC/CIEは北米を中心に毎年開かれる国際会議であり,本年度はASMEのDesign Engineering DivisionとComputers and Information in Engineering Divisionによる8つの会議・シンポジウム(34th Design Automation Conference (DAC),32nd Annual Mechanisms and Robotics Conference (MR),28th Computers and Information in Engineering Conference (CIE),20th International Conference on Design Theory and Methodology (DTM),13th Design for Manufacturing and the Life-Cycle Conference (DFMLC),5th Symposium on International Design and Design Education (DEC),2nd International Conference on Micro- and Nanosystems (MNS),10th International Conference on Advanced Vehicle and Tire Technologies (AVTT))が開催され,654件のtechnical presentation,8件のpanel session,7件のkeynote speaker session,10件のtutorial/workshopが行われました(Programより引用).以下では,筆者が出席・発表を行いました,CIE-14 Emotional Engineeringのtechnical sessionに関して報告致します.
Emotional Engineeringは,昨年度の2007 ASME IDETC/CIEにおいて新しくtechnical sessionとして加わり,本年度は,Stanford UniversityのShuichi Fukuda先生をOrganizer,Keio UniversityのHideki Aoyama先生ならびにHokkaido UniversityのSatoshi Kanai先生をCo-Organizerとし,Emotional Engineering I ~ IVにて計17件のtechnical presentationが行われました.テーマとしては,美的形状創出のための新たなデザインツール,形状から受ける印象を定量的に評価するうえでのパラメータ,スタイリングにおけるトレンド予測,仮想空間における形状評価特性,UIを操作可能な3次元デジタルプロトタイプ,デジタルハンドの把持姿勢最適化,アフォーダンスの認知における個人特性,意味の構造化に基づくデザイン法,人間と機械における信頼とより良い協働,フットサポートの多目的近似最適化,カーブ定規を用いた美的形状のパラメトリックデザイン,スタイリングのための多様な形状生成,スタイリングのためのマクロ特徴定式化,形状の美的評価における視点移動のファクター,自然物からの類推と融合に基づく創造的デザイン行為,人間とロボットの対話における情動,直感ブラウジングによるインタラクションシステムが取り上げられていました.Emotional Engineeringに関連する研究が日本において盛んであることを反映してか,全体として日本人の研究者による発表が多く行われていましたが,会場には欧米人の聴講者も多く訪れ,活発な議論が行われていました.モノ中心の設計から人間中心の設計へ移行しつつある現在,価値観の相違に基づく嗜好の多様性を工学的にどのように扱うのかという問題が重要視されていますが,米国をはじめとする設計分野の研究者・技術者も,このような問題に高い関心を抱いていることがうかがえました.
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