一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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「東日本大震災調査・提言分科会」報告書の発行に寄せて

一般社団法人 日本機械学会
東日本大震災調査・提言分科会
主 査 白 鳥 正 樹

 2011年3月11日に発生した東日本大震災を受けて,日本機械学会では「東日本大震災調査・提言分科会」を発足させ,機械工学に携わる技術者および研究者として反省すべき点,学ぶべき点,将来に向けて改善すべき点は何か,また日本機械学会として何が出来るかといった視点から活動を行なってきた.

一言で機械工学といってもそのカバーする分野は多様なため,分科会の下に以下の7つのWGを設置して基本的にWGを単位として活動を行なった.

  • WG1:機械設備の被害状況と耐震対策技術の有効性(担当:藤田 聡)
  • WG2:力学体系に基づく津波被害のメカニズムの理解(担当:吉村 忍)
  • WG3:被災地で活動できるロボットの課題の整理(担当:大隅 久)
  • WG4:被災地周辺の交通,物流分析(担当:鎌田崇義)
  • WG5:エネルギーインフラの諸問題(担当:小泉安郎,小澤 守)
  • WG6:原子力規格基準の課題と今後の方向性(担当:森下正樹)
  • WG7:地震,原発事故等に対する危機管理(担当:近藤惠嗣)

これらの活動の概要は,日本機械学会誌2012年6月号において中間報告として報告させていただいた.

その後2013年1月にそれぞれのWGの報告と提言が提出されてきたのを機に,それらをレビューかたがた通して読ませていただいた.それぞれがその持てる力の限りを尽くして調査を行い,議論し,WGごとの報告と提言としてまとめたものである.それぞれに読み応えのある大変な労作である.本報告書の基本はこのWGごとの報告にある.内容がきわめて多岐にわたっており,また図やカラー写真等も多用されているため,これを紙媒体で発行することは諦め,DVD版として発行することとした.読者はぜひこれらの報告の一つ一つを丹念に読んでいただきたい.各WGのメンバー諸氏が取り組んだ熱心な調査活動,および調査結果の分析とWGごとの提言は,今後起こるかもしれない南海トラフの巨大地震等に対する備えをするための具体的な知見を与えるものであり,まさに本分科会のミッションがこれによって達成されているといっても差し支えないであろう.

各WGの報告を読んで感じたことは,それぞれの報告を読む限りにおいては,論理が完結しており,読み応えのある内容になっているものの,これらを束ねて全体の一つの報告書として見たときに,どのようなメッセージを読者に届けることができるか,ということである.上記に述べたように個々のWGの提言があるから,これらの提言はそれぞれ具体的で役に立つから,それで十分ではないか,との意見も成り立つであろう.しかし,たとえば機械学会の個々の部門の活動をそれぞれ詳細に語ることで,機械学会というものを語ったことになるのか,という疑問が残るのではなかろうか.機械そのものについても,それを構成している部品をそれぞれ詳細に説明しても機械の全貌をつかむことができない.個々の部品があって機械が構成されていることは事実であるが,機械を語ることは部品を語ることではない.一つのシステムとして組み上げられた機械の機能を語ることによってはじめてその機械というものを理解してもらうことができる.報告書と機械を同じ土俵で議論するのは無理があるかもしれないが,少なくとも機械学会が出す報告書としては,システム・インテグレーションとしての視点を盛り込み,そもそも今回の大震災という経験を踏まえて我々機械工学の研究者・技術者はそこからどのような教訓を得るのかという,大局的視点からの提言があってしかるべきではないか,そのような視点からの議論に関心を持ってくださる読者も多いのではないかと考えた.

そこで各WGの活動報告がおおよそ出始めた段階から,それぞれのWGの提言を踏まえて,分科会としての大局的な見地からの提言をどのようにまとめていくかについて,分科会の中で何度かにわたって突っ込んだ議論を行った.その結果以下の構成で大局的見地からの提言をまとめ,これに各WGの報告の概要と提言を合わせて冊子体としてまとめることとした.

[大震災に学ぶ機械工学のあり方に関する提言]
  1. 大規模システムのシステム・インテグレーション
  2. デザインベースの考え方,“Beyond”への対応
  3. リスクコミュニケーションの課題
  4. 継続的調査と規格・基準への展開

これらの課題はこのたびの大震災によって我々機械工学(あるいはより一般的に工学)に携わる者に突き付けられた大きな課題である.もちろんこれらの課題はこれまでも様々な場で語られ,様々な提案が行われてきた.しかし機械学会として組織的な取り組みがどこまで行われてきたかについては疑問が残る.これは機械学会に限らず,一般に機械工学さらにはものづくりに携わる技術者,研究者および彼らが所属する組織についても同様のことが言えよう.DVD版報告書の第1章において,上記に挙げた4項目について,何故ここで検討すべき課題として取り上げたのかについて簡単に説明している.

報告書の作成に当たっては,阪神・淡路大震災の折にまとめた報告書の例に倣って,日本地震学会,日本地震工学会,土木学会,日本建築学会,地盤工学会,日本都市計画学会,日本原子力学会,および日本機械学会の8学会からなる「東日本大震災合同調査報告書編集委員会」に参加して,上記合同調査報告書の一巻として発行する方針を定めた.このほど7月31日付けで「東日本大震災合同調査報告-機械編-」として上梓し,8月6日の理事会において矢部 彰会長に手渡すことができた.

本分科会活動を通じて,分科会およびWGのメンバー各位には,2年間にわたって並々ならぬご尽力をいただいた.彼らの貢献を多としここに心からの感謝を申し上げたい.このメンバーは調査報告書ならびに提言をまとめるにあたって中核的な役割を果たした.したがって提言に盛られている内容の問題点を最もよく理解している方々である.提言には機械学会として今後継続的に検討すべき課題が多く含まれている.彼らがそのような活動の中核となって引き続き提言の実施に向けて活動を継続していただくことを期待している.

現地でのヒアリング調査,数々のアンケート調査においても,関係各位の多大なご協力をいただいた.地震直後の大変な時期にも関わらず,快く調査に応じてくださった方々に感謝申し上げる.

調査の範囲が広範に及ぶため,報告書をまとめるにあたっては他の関連学協会の報告を数多く引用させていただいた.これらはそれぞれの引用箇所において明記するとともに,参考文献として挙げさせていただいた.

そのほか,大所高所から報告書のレビューを行っていただいた方,海外および国内における市民フォーラムおよび学会講演会等において報告の機会を作っていただいた方々等,様々な方々にご協力をいただいた.また日本機械学会事務局には,事務局長を筆頭に大勢の職員のサポートをいただいた.本報告書はこれら大勢の方々の協力の賜物である.

本分科会の活動を通じて,歴代の会長をはじめとする理事会メンバー各位には,終始あたたかいサポートをいただくことができた.理事会にあっては,このたびの大震災から学ぶ教訓として,本活動を通して得られた提言を重く受け止めて引き続き調査・研究を重ね,さらに学会としての具体的な活動に反映させることを期待している.

また,本報告書が機械工学に携わる人々にとって有用な資料として活用されることを願っている.

東日本大震災合同調査報告-機械編-