一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.220 子供向けの工学教室
2024年度広報情報理事 荒木 稚子〔東京科学大学 教授〕

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2024年度広報情報理事 荒木 稚子〔東京科学大学 教授〕

No.220 子供向けの工学教室


この度、JSME談話室「き・か・い」にてコラム執筆の貴重な機会をいただきました。ゆるい話題の提供でよいとのお話でしたので、最近研究と教育以外で(もしかしたらそれ以上に)、かなりの時間と労力を費やしている活動について書いてみたいと思います。

5~6年前から、研究室で子供(主に小学校高学年)向けの工学教室のようなイベントを企画・実施しています。入口は「お菓子」や「宝石」などの興味を引きやすいテーマで子供たちとその保護者を誘惑(?)して、実際にはお菓子を壊す力を測定し(た後に食べ)たり、あるいはまた宝石(もどき)を作ったり磨いたりしながら、材料力学や破壊力学、材料工学を学ぶような構成としています。本年度からは高校生向けのSTEAMキャンプも始まったため、一年中ずっとこういったイベントのことを考えているような状況です。

このような活動を始めた理由はいろいろあるのですが、それはさておき、私自身を振り返ってみると、理工系には全く関心のなかった子供時代でした。何かの間違いで機械工学に流れ着いたような気もするのですが、結果的にはたのしく研究を続けることができています。ですので、もし小さい頃にこういう体験をすることができていたら、もっと早く工学や機械工学に興味を持てたかもしれない⋯という視点を大切に、イベントを企画・実施しています。逆に、生粋の理工系の方々には興味を持ちづらい内容かもしれませんが、多様性が求められる時代ということもありますし、今までとは異なる視点からの機械工学を私なりに伝えることができればよいのかな、そうすることで人気低迷中(?)の機械工学に多彩な人材を引き込むことへつながればよいのかな、と思っています。

実際に各所からの高い要望もあり、このようなイベントを実施する意義を(勝手に)感じている一方で、ずっと抱えている悩みやジレンマがあります。①まず、どうしても同じような層(都市部、理数好き、保護者の意識など)が集まってしまうこと。②私の要領が悪いせいもありますが、予算と労力が決して見合わないこと。③子供は若い人が好きだけれど、若手研究者はそれどころではないこと。④工学教室専門の先生ではないので、圧迫された時間で研究をきちんと進めなければ意味がないこと。(②~④は互いに関連しているのですが、もし同じような悩みをお持ちの方がいらっしゃれば、是非お話をお伺いしたく。)

このような悩みやジレンマもあって時々投げ出したくなりながらも、何とか続けることができている原動力は、①何より子供達が工学を楽しむ姿を間近に見られること。圧倒的なパワーをもらえ(たり吸い取られたりし)ます。②研究室の学生達の頼もしい一面や意外な人間性が見られること。学生達と子供達の触れ合う姿は、実に微笑ましいです。③人生・子育て経験豊富な秘書さん達から多くを学べること。こういったイベントにおいて、女性の先輩方はいつも以上に偉大です。いずれも企画を継続して実施する上で、なくてはならない支えとなっています。

毎回反省点も多く,まだまだ改善の余地だらけの活動ではありますが、機械工学の道を志す若い世代が少しでも増えることや、機械工学における人材の多様性が少しでも高くなることを期待して(あるいは、イベントを手伝ってくれた卒業生の誰かが、いつか子供と参加してくれることを夢見て)、もうしばらく頑張って続けてみようと思っています。