No.211 リスキリングと多様性
2022年度財務理事 中垣 亮[(株)日立製作所]
JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。
2022年度財務理事 中垣 亮[(株)日立製作所]
No.211 リスキリングと多様性
AIやデータアナリティクスをはじめとするデジタル技術の進歩が益々加速している。本会会員の皆様は、「機械工学」を学生時代に学んだ方、或いは現在「機械工学」及びその関係分野に従事されている方であろうと想像するが、多くの方がデジタルリテラシーの獲得の必要性を感じておられたり、また実際に何らかの活動に取り組んでいらっしゃるものと想像する。
筆者は民間企業に属しているが、ここ数年、市場やお客様の変化や技術進化の加速を受け、取り扱う製品や事業或いは経営そのものが大きく変化している企業が増えているように感じる。変化が大きいほど、その社員に求められる知識・スキルも多様化している。このような背景を受けてか、リスキリング・学びなおし・リカレントといった言葉がここ数年よく聞かれるようになったと感じている。デジタル知識・スキルの獲得や、デジタルによって生まれる新たな業務等に備えるための学びなおし、と理解している。
では、我々、研究者・技術者がリスキリングを実現し、活き活きと働き続けるためには、何が重要であろうか?この問いに対し、筆者自身は、これまでの業務やキャリアの中で、多様な技術や文化を持つヒトと積極的に関わり、切磋琢磨する経験をされている方はリスキリングに適合しやすいように感じており、この「多様性」の経験が重要と思っている。ある製品の研究開発に取り組む場合、単独の要素技術だけで完結することはほとんどなく、多様な分野の専門家が集まって(よってたかって)開発をするケースも多い。ソフトウェアとハードウェアチームが連携するケースもあるし、仮にソフトウェアのみのシステムであっても、OS、データベース、制御、通信、I/Oなど様々な分野のメンバーが連携して一つのシステムを作り上げる。このような環境で研究開発を推進する中では、自分の担当分野以外にも興味を持ちながら他のメンバーと議論や意見交換をする機会が生まれやすい。議論に参加しようと思えば、必然的に自分の専門分野以外についても勉強することにもなる。このような経験を比較的若い時期(技術者・研究者キャリアの前半)に経験し、多様性のメリットを自らの成長に活かす(ちょっと大げさだが)成功経験をしている方が、リスキリングをうまく自らの力に変えることができているように感じている。
研究開発チームの管理者・マネージャの立場からすると、リスキリングのために、Eラーニング等でのデジタル技術講座を準備しメンバーに受講してもらうことは、きっかけづくりとしては重要かつ必要なことである。しかし、更にそれと並行して、日々の業務の中で研究者・技術者が、多様な技術分野やそれらの分野の専門家に接する機会をできるだけ多くすることが重要と考えている。各メンバーが知的好奇心を最大化し、どん欲に様々な知識や技術を獲得するきっかけを作りをする、ということである。「情けは人の為ならず」というが、このような心掛けをすることが、まわりまわって自分にも返ってくるのではないかとも期待している。
新たな知識やスキルを獲得していくことは、研究者・技術者にとって「ワクワクする」ことである。大学や企業でのキャリアの後半(例えば40代や50代から)リスキリング・学びなおしを始めたとしても、そこから概ね10~15年程度、活躍する機会が待っている。労働者不足といった社会・産業としての課題から鑑みても、より多くの人が働き続け、社会に貢献することが期待されている。そのような将来の社会を見据えて、現役の研究者・技術者、特に若手メンバーに対して多様性を重視した研究開発を進めることが、永い目で見て社会全体の発展に寄与するものと信じている。