No.206 持続可能な脱炭素社会を目指すエネルギーシステム
2022年度庶務理事 犬丸 淳[(一財)電力中央研究所]
JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。
2022年度庶務理事 犬丸 淳[(一財)電力中央研究所]
持続可能な脱炭素社会を目指すエネルギーシステム
このタイトルは、去る4月21日に明治記念館で開催された「2021年度定時社員総会」の特別企画として行われた講演会のタイトルです。筆者は庶務理事の一員として特別企画の企画立案などのお手伝いをさせて頂きました。コロナ禍での開催となりオンライン同時配信も行われたため、学会事務局には事前準備や当日の運用で大変ご苦労をおかけしました。
講演テーマや構成は庶務理事会で議論して設定しましたが、結果として時宜を得た内容となり、会場参加は若干名でしたがオンライン参加がおよそ450名(推定)と大変多くの会員にご参加いただくとともに、大変好評を博し成功裏に終えることができました。
講演会の趣旨を要約すると、「脱炭素化へ向けた世界的な潮流の中で、わが国でも2050年にカーボンニュートラルの実現を目指すなど、エネルギー政策はこれまでにない転換点を迎えている。持続可能な脱炭素社会を実現するためには多くの課題が山積しており、日本機械学会でもエネルギー問題に関して部門横断的な取り組みが実施されつつあるが、その解決に向けては機械工学という学問領域の枠を超えた、より幅広い取り組みが必要である。これらの視点に基づき、カーボンニュートラル実現のための課題や方向性に関する議論、具体的な取り組み等について各分野からご講演をいただき、脱炭素社会を目指す新たなエネルギーシステムについて考えるとともに、機械工学のあるべき姿を明確にしたい。」というものでした。
本趣旨に沿って5名の講師の方々からご講演をいただくとともに、質疑応答を行いました。国の審議会や学協会で活躍されている先生方からエネルギー政策の方向性と課題などについて、重工メーカーから水素エネルギーの活用や火力発電のゼロエミッション化などに向けた具体的なソリューションに関する取り組み、さらには変革を進める自動車業界から次世代のモビリティ社会を実現するための「鍵」とその取り組みについて素晴らしい映像を交えてご紹介いただきました。
本講演会を終えて感じたことを少し述べさせていただきます。機械工学との関連が深いエネルギー業界や自動車業界においては、カーボンニュートラルの実現に向けて燃料の脱炭素化(水素、アンモニア、カーボンフリー燃料など)、自動車の電動化などの研究開発が着実に進められていること、各技術要素における重要なイノベーションが創出されつつあることが確認でき、機械技術者として大変心強く感じました。一方で、我々が目指すべきカーボンニュートラル社会は一体どんな姿なのか、それは持続可能なのか、そしてその社会において市民は幸福になっているのかを考えると、まだまだぼんやりとした印象しか残りませんでした。
社会全体のエネルギーチェーンを俯瞰してその最適化を図り、誰もが適正な負担により安定してエネルギーを利用できる社会を実現するためにはどうしたら良いか、市民にどのような行動変容を促せば、無理のない範囲で需要サイドの貢献を最大化できるのか等々、検討すべき課題が山積しています。今求められていることは、これらの課題に取り組むとともに、2050年に目指すべき社会とはどんなものなのか、その具体的な姿を描くことではないでしょうか。そして、この議論や行動を先導していくのは、我々機会技術者・研究者の役割ではないかと思っています。講演会の趣旨で示したように、解決すべき課題がどんどん複雑化・複合化する中で、学問領域の枠を超えた連携や取り組みが必須となっています。
コロナの状況にも依りますが、これから機械学会の様々なイベントも対面で実施することが徐々に増えてくると思います。そのようなコミュニケーションの場を積極的に活用することで、横断的な活動へ発展することを切に期待しております。
最後になりますが、定時社員総会では毎年タイムリーな特別企画を行っておりますので、次回もご参加いただきたくお願い申し上げます。会員でない皆様には、ご是非入会いただき、「持続可能な脱炭素社会を目指すエネルギーシステム」とは何なのか、そのために我々は何をすべきかについて一緒にディスカッションさせていただければ幸いであります。