一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

メニュー

No.205 今後の機械系エンジニアに期待すること
2021年度企画理事  久保賢明[日産自動車(株)]

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2021年度企画理事  久保賢明[日産自動車(株)]

今後の機械系エンジニアに期待すること


著者は、2020年および2021年に企画理事を担当させていただきましたとともに、技術者育成WGにも参加させていただきました。大変貴重な経験をさせていただき、心より感謝しておりますとともに、一企業の立場から見た技術者育成に関するタスクフォースに関しては、日本の産業競争力のために若手技術者の育成は喫緊の課題と考え、継続して参加することにいたしました。

さて、近年著者が所属する自動車会社においてはCASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)が急速に加速すると言われ、自動車に求められる要求が大きく変わってきているだけでなく、最終製品としての自動車から、社会やエネルギーとつながってゆくエッジデバイスとしての自動車に変化してゆくことが求められています。この大きな流れは、自動車業界だけの問題ではなく、社会システム構築に携わる関係者の全体の大きな流れとなってきております。こうした中、こうした開発ができる人財においては、著者は本質的には“システムでモノを考える力”だと考えております。これは、日本機械学会誌の2022年1月号において、座談会(1)が行われており、この中の論議がそのものであり著者も共感いたしました。まだ読まれていない方は是非ご一読されることをお勧めいたします。

ここでテーマとなっている“機械屋は俯瞰力を磨け”を考えるにあたり私なりの一例をご紹介したいと思います。世界的な気候変動に関する取り組みにおいて、日本においても2050年にカーボンニュートラルを目指す旨、2020年に当時の菅首相よりその方針を明確にされました。これを受け、世界がそして日本がカーボンニュートラルに向けた技術開発や仕組み、あるいは社会システムに対して動き始めました。ともすると、自動車産業であれば電気自動車を普及させることだったり、発電産業ではカーボンに対するインパクトの少ない発電への変換や再生可能エネルギへの移行が目的となったりする議論をよく見かけます。では、温暖化に影響を与えるGHGとりわけCO2は、なぜそれほど目の敵にされているのでしょうか?諸説あるとは思いますので著者の勝手な考えですが、地球の46億年の歴史を知る必要があると思っています。もともと、地球における大気の元素組成として酸素は存在していませんでした。主としてCO2が多く含まれていました。これに、大きな変化を与えたのが光合成というシステムを持った植物の登場です。これにより、大気中のCO2を吸収し、酸素を大気中に放出することで現在の2割の組成の酸素になり、酸素を吸って酸化反応を行うことでエネルギーを取り出す動物が出てきたわけです。なおかつ、光合成の機能を持つ植物によって取り込まれた炭素は堆積して地中に封印することで、一部は石灰岩などになっていますが、一部は石炭や石油へとして地中に封印されました。知的レベルの高い人間は、自らの生命維持に酸素を使うだけにとどまらず、この地中に埋めた石炭や石油を掘り起こして用いることで、様々な快適な機械を作ってきたわけです。いわば、“パンドラの箱”を開けたと思っています。ゆえに、これを続ければ元のCO2濃度に戻ってゆくことは合理性のある説明と筆者は考えています。これを技術で抑え込めるかは、自然が人間の英知に対してチャレンジしているようにも感じます。何が言いたいのかと言えば、機械技術者の考えなくてはいけないことはこうした物事の本質を正しく理解して技術開発をしないと真に価値のある技術を創出することにならないのでは?ということです。例えば、太陽光発電や風力発電あるいはバイオマスを使った場合は、この大きな炭素循環社会の中でどう扱われるのか?バイオマスの点において私の個人的な理解では、大きな炭素循環システムにおいては、封印した燃料を使うことを避けることはできても、いわゆるカーボンを地中に戻して封印する効果は少ないと考えられるので、効果的ではあるとは考えますが本旨的な位置づけを充分論議すべきと考えています。このように、物事を俯瞰して考え、社会に対して正しく技術を提案・提供してゆくことが今まさに求められており、こうした、システム思考・俯瞰力を持った技術者を育成してゆくべきであると考えています。日本機械学会もこうした視座で議論して次の世代のエンジニアを育成することは社会的責任であり、魅力ある学会として継続させるためにも重要な議論と考えています。

以上、少々著者の浅学菲才な考えではありますが、少しでも日本ひいては世界の将来のため、微力ながらご支援できれば幸いと考えております。

図 地球の大気組成比の歴史(2)

参考文献:

(1)座談会:機械屋は俯瞰力を磨け, 日本機械学会誌, Vol.125(2022), No.1238, pp.2-5.
(2)大嶋和雄, 二酸化炭素濃度と気候変動史, J. JAPANESE ASSOC. PETROL. TECHNOL. Vol.56(1991), No.4,  pp.300-309.