一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.204 日本機械学会の会員として
2021年度編修理事 武田 行生[東京工業大学 教授]

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2021年度編修理事 武田 行生[東京工業大学 教授]

日本機械学会の会員として


私が学部卒業の際に日本機械学会に学生員として入会させていただいてから35年が経ちました。この間、学術講演会、論文投稿、部門活動、委員会活動などにおいて、本会の皆様には大変お世話になりました。この2年間、編修理事を拝命したこともあり、自身の機械学会での活動を振り返ってみました。特に論文の実績について改めて調べてみたところ、自身が著者となっている原著論文の約半数が日本機械学会論文集(和文論文集)に、英文ジャーナルまで含めると原著論文の半数強が日本機械学会の学術誌に掲載されたものでした。意外というと叱られるかもしれませんが、私の研究生活は機械学会が基盤となっていたことを改めて実感しました。私が研究者として活動を始めた頃、すなわち1990年頃は、本会の会員であれば、研究成果は、通常総会あるいは全国大会の講演会で発表し、その後、日本機械学会論文集に投稿することが通常の流れでした。そして、機械学会論文集に掲載されることに高い誇りを持っていましたし、和文論文の掲載後に英文ジャーナル(JSME International Journal)への再録推薦の連絡を受けると大変嬉しく思ったものです。

しかし、昨今は、国際化、原著論文は英語で発表、インパクトファクターのついた雑誌の重用、講演論文も含めた重複投稿のチェック等の時代の流れにより、会員の論文は、研究者の評価にも直結するインパクトファクターのついた専門雑誌に投稿されることが多くなり、本会の和文論文集および英文ジャーナルの掲載件数の低下が続きました。これに対し、本会では、すべての学術誌をオープンアクセス化し、最近では、MEJ(Mechanical Engineering Journal)を皮切りに和文論文集も含めて、DOAJ(Directory of Open Access Journal)への収載にむけた申請が完了して、一部のジャーナルがDOAJに収載されるに至っております。これを機に、本会の学術誌が本会会員にとって権威ある、また世界に通じる一流雑誌として復活することを祈念します。特に、和文論文集とMEJは世界的にも貴重な、機械工学の最新研究動向を掲載する総合学術誌です。この特徴を生かした価値を大切にしたいものです。

さて、インターネットが普及し、個人が必要な情報を必要な時に取得できる時代になりました。見方を変えると、効率的に業務を遂行するためには、あふれる情報を各自が取捨選択して活用することが求められます。また、コロナ禍により、やむなく、研究室に行っても、他のメンバーがやっていることに関心を持たず、会話もせず、自分がすべき作業だけを行って終われば帰宅するという生活リズムになってしまっている方も多いのではないかと思います。これに対して、私が研究室に所属した学部4年生当時は、情報は自分から求めに行かなければ得ることができませんでした。論文検索システムは有用ではなく、図書館にこもって代表的な雑誌を10年分山積みにして1ページずつめくりながら、自身の研究テーマに関連する参考文献を探し読んだものです。年度の初めには1か月間くらい図書館にこもることも珍しくありませんでした。めくったページに対してヒットした文献数はごくわずかで、当時は無駄な時間を過ごしているのでは、と思ったこともしばしばでした。しかし、今思えば、直接的な目的から外れた周辺分野に関して多くの情報に暴露された経験はとても貴重であり、このような成り行き的な活動が現在の自分の礎の一部をなしていると言っても過言ではないと思います。

改めて申し上げることではありませんが、学会会員としての大きなメリットの1つは、学術講演会などの集会行事や部門活動等に参加できることです。特に本会の年次大会では機械工学のあらゆる分野についての最新研究動向に触れ、自らの成果を発表し議論することができます。このような場で触れる情報は、各会員にとって一見、普段の業務に直接関係がないものかもしれません。しかし、この現場に身を置き、多くの会員と時間と場を共有して議論することには、すぐに目に見えないかもしれませんが計り知れない価値があると思います。一見無駄な活動にも価値を見出す心がけを持ち、コロナ禍でより一層進んでしまったオンデマンドな生活習慣を見直して、豊かな将来を築いていければと思います。