No.203 機械工学分野の男女共同参画について
2021年度広報情報理事 伊賀 由佳[東北大学 教授]
JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。
2021年度広報情報理事 伊賀 由佳[東北大学 教授]
機械工学分野の男女共同参画について
世間の男女共同参画に対する活動は,女性支援から始まり,女性の積極的な採用,男性の育児休暇取得,そしてダイバーシティ,LGBTへと順調に進んでおりますが,残念ながら我々機械工学の分野では,未だ少数派の女性に対する重点的な支援が必要な状況が続いていると感じております.企業様でライフワークバランスの講演をさせていただくこともありますが,子育て世代の女性からは働き辛さに対する悩みを聞くことも多く,機械工学分野での男女共同参画は歩みが遅いことを実感します.
図に,東北大学工学部の女子学生割合の変化を系ごとに比較したデータを示します.工学部はもともと女子学生が少ないのですが,その中でも機械系はH26年まではは最下位,H27年以降は電気・情報系をかろうじて抜き,工学部の中では下から2番目になっています.停滞気味の電気系に比べて機械系では増加傾向にあり,機械工学に対するイメージが変わりつつあるのかなという淡い期待もありますが,女性学生割合は依然として10%を切るような状況です.他の大学でも同じような状況ではないでしょうか.女子学生が少ないということは,そこから社会に排出される女性エンジニアも少なくなります.今現在,大学の機械系に女子学生がこれだけ少ない状況ですので,この先数年間,女性エンジニアが急激に増えるということは残念ながら無い,ということになります.
図 東北大学工学部の女子学生割合の推移(東北大学工学系女性研究者育成支援推進室 ALicE提供)
職場に女性がいないといけないというわけでは全くありませんが,女性がいる職場は,育児世代の若い男性にとっても働きやすい職場なのではと思っております.今の20代,30代は,家事・育児は夫婦で分担するもの,という教育を受けてて育ってきており,私の利用している保育園でも送迎の半数以上はお父さんです.子供に熱が出たときにはお父さんも呼び出されるわけですが,男性ばかりの職場で男性上司に「子供が熱を出したので,,」と言うのは世代的になかなか気まずいのではないかな,と想像しております.
さて,今回の新型コロナウイルス蔓延の影響で,各方面でのオンライン化が急激に進んで約2年が経ちます.皆様の中にも自宅から出られないような状況になった経験をお持ちの方もいると思いますが,完全に自宅に籠ってみた際に,オンライン化が十分に進んだことを実感します.仕事では,会議はもちろんのこと,講義も試験も学位審査も,完全にオンライン化していて,自宅で仕事をしても全く支障がありません.教育的には講義は絶対に対面派なのですが,オンライン配信用の講義映像を録画して持っておくことは,新型コロナに限らず,もしもの時の保険として安心です.またアフターコロナでは,海外出張で時差がある地域に行ったときにも,オンデマンド配信は強い味方になるのではないでしょうか.家庭のオンライン化も素晴らしく進みました.ネットスーパー,Amazon,Uber eatsを使えば自宅に居ながらに買えない物はありません.そして,新型コロナウイルス感染防止のために配達員さんとの接触を減らすという目的のお陰で,宅急便やネットスーパーの置き配も定着してきています.全く外に出なくていい,買い物に行かなくていい,化粧をしなくていい,自宅で仕事ができる,という状況は,今が産休・育休だったらどんなにか楽だっただろう,と想像します.産休・育休中が楽だったら,そこで仕事を辞める女性も減るだろうな,と思ったりもします.これは男性も同じで,自宅に居ながら楽に仕事と家事を両立できるということは,男性も育児休暇をしっかりと取りつつ自宅から職場のサポートも続けることができます.
最初にお話ししましたように,機械工学の分野では,女性エンジニアの新卒採用が急激に増えることはデータ上,しばらくはなさそうです.今回の新型コロナウイルスに伴う仕事と家庭の急激なオンライン化により,ライフイベントで仕事を諦める女性エンジニアが少しでも減ればいいな,と期待しております.そして,機械工学分野の男女共同参画が少しでも進めばいいなと願っております.