一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.198 部門活性化と分野連携は、未来への礎
2021年度企画理事 田所 諭[東北大学 教授]

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2021年度企画理事 田所 諭[東北大学 教授]

「部門活性化と分野連携は、未来への礎」


新しい発見や発明は、分野と分野の境界から生まれることが多い、という知見は、歴史的事実として語られています。成功する新規事業は、多くの自由なトライアルの機会と、切磋琢磨される環境でこそ醸成される、という言葉を聞いたことがあります。これらが真実なのか、果たして統計的エビデンスがあるのか、と問い詰められると、私のような象牙の塔の浅学者は、残念ながら解答を持ち合わせていません。しかしながら、個人的な数少ない経験を振り返ると、そうかもしれないと思えてなりません。学術界が社会に負っている重要な機能の一つは、これまでにない新しい科学技術の種を生み出すことであり、新規事業の芽を育てることだと思います。日本機械学会には、機械工学における最もメジャーな学術団体として、そのための技術活動を、広範かつ強力に、先頭に立って支援する役割が期待されていると思います。

昨年より企画理事および部門協議会議長として、本学会の部門の活性化と分野間連携の促進を目的とした新部門制を推進する大任を拝命いたしました。2009年にロボティクス・メカトロニクス部門の部門長を務めた経歴から、部門は学会の技術活動の要であり、学会の価値を創り出す最も重要な中心であり、その活性化は学会の死命線を担っている、と考えていましたので、その重要性を強く認識した次第です。私は2012年からIEEE Robotics and Automation Societyという国際学会の副会長および会長として、Technical Committee等の活性化を通じた新分野の開拓に取り組んでおりました。その経験は、本会における部門活性化に通じるところがあるため、そこで得られた知見を適用することにより、効果的に成果が上げられるのではないかと考えました。各部門におかれましては、昨年1年間、実に積極的にご協力をいただき、素晴らしいスタートを切ることができました。部門長を初め、多くの方々に深くお礼を申し上げます。

取り組みを始めるにあたり、それまでに検討され合意された新部門制の計画を正確に理解することに努めました。ごく当たり前のことで恐縮ですが、たとえば、なぜそれをやろうとしているのか、誰が進めるのか、その意義と目標は何か、誰のためにやるのか、を理解する必要がありました。そして、それぞれの詳細な項目に込められた意味、それぞれの得失を考え、また、誰が賛成で誰が反対か、何が合意点で何が合意点でないか、をよく把握することが必要でした。また、現計画に至るまでの経緯。そこに至るまでにあった数々の諦めと妥協、を理解する必要がありました。

その勉強の結果、新部門制を考案された方々の深い知恵と、日本機械学会が持つ深い悩みに、改めて気付かされることとなりました。つまり、学会の課題は、単に会員数が減少するとか、赤字決算が解消できないという問題ではなく、機械工学が先頭に立って社会をリードする姿が以前ほど明確でないこと、機械工学の明るく輝いた未来がそれほど簡単には描けないように感じられていること、つまり、多くの日本人が感じている閉塞感と相通ずる問題なのだ、ということです。それは、とりもなおさず、学会が2016年に、新生「日本機械学会」の10年ビジョン、を策定した理由でした。本会ではこれまでこのビジョンに基づいて様々な取り組みが進められてきています。その広範な取り組みの中でも、分野間連携と新分野開拓は、課題解決のブレイクスルーを生み出すという点で、最も強力な武器となるに違いない、というのが、私の理解と確信でした。

交われば伝染して感染が拡大し、拡大は培養の機会を増やして変異株の発生確率が高まり、さらに感染が広がる、というのは新型コロナウィルス感染症が世界中で示している社会現象です。この負の社会現象に学び、翻って正の社会現象を実現するために、大いに技術が感染し合い、変異種を産み出し、ポジティブフィードバックによる感染爆発を引き起こすことが必要です。社会のために日本機械学会がどんな貢献ができるかが、今、問われているのだ、と考える次第です。