No.191 コリオリの力の四方山(よもやま)話
2020年度企画理事 齊藤 修[(株)IHI]
JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。
2020年度(第98期)企画理事
齊藤 修[(株)IHI 本部長補佐]
今年の7月は豪雨で大変な被害がでましたが、反面7月に発生した台風はゼロでした。そして8月になると例年のように台風が日本列島に近づくようになってきましたが、この時期になると気象予報士が台風の回転方向を説明するためにコリオリ力を持ちだすなど、最近では天気予報でもコリオリ力をときたま聞くようになってきました。今回は、このコリオリ力について呟いてみたいと思います。
理系の皆さんはコリオリ力を高校生時代に学んだと思います。コリオリ力のおさらいをすると、図1(a)に示すように回転する円板に乗った人が回転中心に向かってボールを投げると徐々に右側にそれて行きます。これは、最初に外側あったボールが内側に移動しても慣性の法則により円周方向の速度は変化しないため、外側と内側の円周方向速度の違いだけ右にそれるのです。このように回転座標系で発生するみかけの力をコリオリ力と呼んでいます。
図1(a) コリオリ力の説明
また、北半球では台風の回転方向は反時計回りになりますが、これもコリオリ力によるものです。図1(b)に示すように、風は低気圧に向かって吹きますが、コリオリ力により右にそれ、その後に左に曲がって低気圧に吹き込みます。このため、台風の風は反時計方向に回転することになります。このように、地球のようにかなり大きな規模で考えるとコリオリ力を考慮する必要がありますが、普段の生活の中ではその影響は小さく無視してもあまり問題になりません。
図1(b) 台風の回転方向
次に、約30年前に私が一時期携わったことのあるコリオリ力が実際の機械設計に考慮された地下無重力実験施設の例(図2)について紹介します。1991年に北海道のほぼ中央にある上砂川で、廃坑になった炭坑の立坑を用いて実験装置を搭載したカプセル(直径1.8m、長さ8m)を490m自由落下させ、10秒間の微小重力(10-5G)実験を行う実験施設が完成しました。カプセルは2重構造で、実験装置は内側のカプセル(積載量:1 ton)に搭載されます。
図2(a) 地下無重力実験施設(1)
図2(b) 落下カプセル模式図(1)
落下はまず内カプセルを切り離し、55msおくれて外カプセルを切り離します。外カプセルには圧縮空気を噴射するスラスターが取り付けられ、外カプセルと内カプセルの落下速度が等しくなるように制御されます。また、内カプセルは10秒間自由落下するとコリオリ力により切離位置から東に175mmずれることになります。この移動量を吸収するため内カプセルは外カプセルの中心から西に90mmずれた位置から切り離されます。
これらの工夫以外にも、10-5Gという極微小重力環境を達成するために、コリオリ力を含めて細心の注意が設計段階から払っていることに、当時とても感銘を受けたのを覚えています。残念ながら、1998年に始まった国際宇宙ステーションの建設・運用により長時間の無重力実験が比較的簡単に実施できるようになってきたため、本施設は2003年に閉鎖されました。
しかしながら、地球上で微小重力を実現するという難問に真摯に向き合ったエンジニアの英知は称賛に価すると思います。最後に、“エンジニアは面白い”と思ってもらえるように機械学会は情報発信を行うとともにエンジニア育成の一助となり、エンジニアが多くの若い人たちのあこがれの職業となることを期待しています。
参考文献