No.190 学会行事はオンライン?
2020年度広報情報理事 横井 一仁[産業総合技術研究所]
JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。
2020年度(第98期)広報情報理事
横井 一仁[産業総合技術研究所 臨海副都心センター 所長]
日本機械学会では、現在の新型コロナウイルスの感染動向を鑑み、2021年3月末までは、講演会、講習会、懇親会など人が集まる形での行事や会合などの開催を避けることを決定とする一方で、機械技術者、本学会員へ情報交換の場をより多く提供することも本会の使命であることから、行事を中止するのではなく Web会議システムを利用して可能な限り開催する方向で検討をお願いしている。
私も、いくつかのWeb会議システムを利用した学会行事(本会以外のものも含めて)に参加した。その個人的感想を、以下に述べる。
Web会議の利点
- 人との接触がないことから、新型コロナウィルス感染症の拡大を防止できる。新型コロナウィルス感染症の感染者だったとしても、軽症、無症状であれば、病室、隔離中のホテルから学会行事に参加することも可能である。
- 移動の必要がない。移動することが大変な人にとっては、圧倒的に参加しやすくなる。
- 会合から会合に瞬間移動できる。興味のある発表のみを聴講しやすい。一日で、複数の行事をはしごすることもできる。行事によっては、録画され、後で聴講することができる。
- 途中の入退室が容易である。遅れて入っても、他の聴衆の視線を集めることはないし、つまらない話は気兼ねなく席を立つことができる。逆に、立ち見となることはない。
- 旅費が発生しない。物価の高い海外主要都市で実施される国際会議に参加しても、旅費は0円である。
- 時差ボケで苦しまない。
Web会議の欠点
- 人に話しかけるのではなく、画面に話かけるので、聴衆の反応がつかめない。参加者数はわかっても、大人数の行事ほど、聴衆のWebカメラはオンにしないため、聞いているのか、寝ているのかわからない。
- 聴講する側にとっても、周りの聴衆の反応がつかめない。自らの専門分野とは違った発表を聞く場合、そこにいる専門家の反応を見ることで、その発表の値踏みをすることができる。Web会議では、立ち見が出るということはない。共著者に話を聞くことができない。学生の発表の場合、休憩時間に指導教員を捕まえて、話をするチャンスがない。
- 実物を見るチャンスがない。機器展示では、実物を見て、実演をしてもらい、説明を聞き、質問をすることで、企業のオンラインショップでは得られない様々な情報を得ることができる。参加者に「あの製品はどう?」と聞くことで、使用者の生の声も聞くことができる。本会のロボティクス・メカトロニクス部門の講演会ROBOMECHでは、全発表ポスターなのだが、ポスターを掲示するだけでなく、実物を持ってきて実演する強者も多い。ロボットはシステムであり、実物を見ることで、発表で主張したいことではないが気になること、例えばバッテリは何を使っているとかも見聞きすることができる。
- 旅することで、文化に触れ、研究の背景が理解できることがある。都会には都会の、地方都市には地方都市の、外国には外国の、人の営みがあり、課題がある。百聞は一見にしかずというが、その場に行くことでしか伝わらない空気感は確かに存在する。また、日常から離れることで、深く思考することができる。
- 偶然の出会いがない。聴講したい講演と講演の間に空いた時間に、ふらっと立ち寄った部屋で、機器展示の会場で、目にした耳にしたことから、新たな研究テーマが見つかることがある。
- 人との会話がない。会場の廊下で、休息室で、昼食に入った学食で、懇親会の会場で、学会主催の行事に出向けば、至るところで、人に出会い、会話が始まる。そこで交わされる雑談から新しいアイディアが生まれることがある。
オンラインは便利だけど、オンラインだけで人は満足できない。視聴覚以外の感覚情報(ご当地グルメの味覚は重要)や、同じ時空間を共有するという一体感は、オンラインでは得られない。5G、4Kの時代になっても、オフ会やライブも欠かせない。
新型コロナウイルスの感染リスクを低減するために移動しない、集まらない。現時点では、それが最善の策ではある。だが、我々機械技術者に課された使命は、安全に移動し、集い、会話や会食を共に行う、オフラインで時空間を共有できる技術を開発することではないか。と、マスク姿でスマートフォンを見ている人に囲まれた通勤電車の中で思っている。