一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.186 日本機械学会の役割
2019年度会長 森下 信[横浜国立大学 教授]

JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


2019年度(第97期)会長
森下 信[横浜国立大学 教授]


第97期会長を務めています森下です。他の理事の方々が残された読みやすさを基本としたコラムとは異なり、思いっきり硬派のテーマでコラムを書いてみたいと思いました。

日本機械学会の役割って何だろか? このところ、このような疑問がすぐ頭をよぎります。会長を経験したから、といえばそうでもあるのですが、学会員にしていただいた学生時代にはそんなことも考えずに、会員になったことを誇りに思ったりしました。

会長任期がほとんど終わりを迎える時期になって、今更ながら、日本機械学会は何をするところで、何のために会員になるのだろうか、などと考えている自分がいます。同じような組織で、日本学術会議とか日本工学会などというものもあります。日本学術会議は「学者の国会」に相当すると一部でいわれますが、会員を選ぶための選挙を行っている訳ではないので、誰が関わっているのかも、また活動もなかなか外部からみえません。日本工学会は工学系学協会をとりまとめるような組織のようですが、これも具体的に何をしているのか、一般的には活動がみえません。それぞれの団体のHPをみればわかるだろ、という冷めた意見もありますが、それは情報共有を求める立場の人間にとっては「情報化社会」の本来の姿ではありません。

日本学術会議では、学問の各分野でのさまざまな問題点を議論し、課題に対する「提言」を作成して公表し、政府が策定する科学技術計画の準備段階で積極的にアピールをして課題解決に取り組んでいます。また、将来的に重要と思われる研究課題をマスタープランとして公表し、大型予算の獲得へと繋げる努力をしています。これらは、理想的には社会からの声を吸い上げる手順を経て進めればよいのですが、多分に形式的で、日本学術会議と専門学会との距離は決して近くなく、手続きに多くの課題があると感じています。

日本機械学会に所属する本来の目的は、学会にとっては憲法に相当する定款によれば「機械及び機械システムとその関連分野に関する学術技芸の進歩発達をはかり、もって人類社会の発展と安寧及び福祉の向上に貢献することを目的とする」と書かれています。少し堅い文章なので読みにくいのですがご理解いただけると思います。さらに定款には目的を達するための事業として、その他を除くと10項目あります。10項目が同等の重さを有している訳でもなく、独善的には下記の3点が比較的重要に思います。

(1)研究発表会および学術集会の開催
(2)講習会、見学会、展示会、研修会、などの開催
(3)会誌、論文集、研究報告、資料その他図書の刊行

大学に所属する自分にとっては、自らの研究発表の場を確保し、同じ分野さらには少し離れた分野の研究者および技術者とお互いに顔を合わせて議論することで自分の研究の立ち位置を確認し、最新の研究情報を得て、しかも都合良く人的ネットワークを構築し、さらには研究論文を投稿する場所です。このために学会に所属するのだと思います。技術者にとっては、恐らく最新の研究情報を得ると同時に幅広い人的ネットワークを形成することが主な目的かもしれません。会員になる理由は、○○のポイントがつくからでも、××が割引になるから、でも決してありません。さて、現在の学会はこれらの項目を満足できるサービスを提供しているのだろうかと考えてしまいます。

機械系の学協会としては、我が国には20以上の団体があるのをご存じでしょうか。日本機械学会と同時期に発足した学会もあれば、袂を分かつような形で発足した学会もあります。現実問題として、学会や協会は学問に係わる分野の多くに「乱立」しています。いわゆる社会科学系や人文系では会員が数十から数百名も集まれば立派な学会として認知されます。工学系や理学系は比較的大規模な団体が多いようです。日本機械学会は2019年12月時点で38,000名を越える会員を抱えています。

日本機械学会は2006年に当時の会長の笠木伸英先生が、これらの機械系学協会の横の繋がりを築くために機械系学協会会長懇談会を立ち上げ、本年で15回を数えています。複数の関連分野の学会に所属する日本機械学会会員も少なくありません。それぞれの学会の設立当初の経緯は今となっては明確ではありませんが、現状では多くの学会が会員減少に悩まされ、近い将来に学会の体裁をとれなくなることも予想されます。その原因のひとつが我が国の人口減少にあり、2030年には大学入学者数が、今後の進学率の向上を考慮しても8割になると予想されています。もし他の学会が存続できなくなったら、是非一緒になって、顔を合わせて議論する場を広げることが日本機械学会には懐の深さを示す意味でも望ましいと考えています。

日本機械学会は、これらの機械系学協会と連携して、機械の重要性を社会に発信する必要があります。最近はAIだ、IoTだ、いやビッグデータだとか言われておりますが、これらにドップリ浸かるのは機械屋としての立場からは違和感があります。でも、昔にテレビドラマでみたスーパーマンのように、最後は「いや、日本機械学会だ!」と叫んで、これらを利用して機械の領域を広げることができれば、それ以上望むことはありません。