No.185 探す楽しみ・出会う楽しみ
2019年度広報情報理事 松本 章吾[(株)リコー 解析基盤技術開発室長]
JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。本会理事が交代で一年間を通して執筆します。
2019年度(第97期)広報情報理事
松本 章吾[(株)リコー イノベーション本部 リコー技術研究所 基盤技術開発センター 解析基盤技術開発室 室長]
職場で自己紹介をする機会が増えていて、今後も使うことがあるだろうからと幼少期からの趣味の変遷をまとめてみたことがありました。ここではそのリストの中から話題を提供させていただこうと思います。珈琲ブレークにでも気軽に読んでいただければ幸いです。
最近の私の趣味と言えるものは「野鳥観察」で、「探鳥」とか「バードウオッチング」、愛好家の間では「鳥見」とも呼ばれています。趣味としての「探鳥」の歴史は、19世紀に英国に設立された英国王立鳥類保護協会が推奨したことに遡り、日本では日本野鳥の会が創立された1934年に富士山麓で開催された「探鳥会」が最初と言われています。ちなみに「野鳥」や「探鳥」という言葉は、「ありのままに野の鳥の生きざまを見て、姿や声を愛でる」という精神に基づいて日本野鳥の会を設立した、中西悟堂氏の造語だそうです。
ところで、「野鳥観察」というとどのようなイメージを持たれるでしょうか? 双眼鏡やカメラなどの装備のイメージが先行してしまってちょっと敷居が高そうに思われるかもしれませんね。でも基本は上述の通り、ただ単に屋外で野鳥を見て楽しむことですので、誰にでも手軽に楽しめるものなんです。とはいえ相手は野生動物、動物園のように管理されていないため、対象となる野鳥の生態を知り、適当な時期に適当なフィールドまで探しに行くことになりますが、それでも確実に出会える保証はありません。それだけに出会えた時の喜び、その偶然性に魅せられてしまうのかもしれません。
私が野鳥観察というものを知ったのは、まだ幼かった子どもたちと自然公園の野鳥観察会に参加した時でした。その後も趣味として継続することになったのは、フィールドで出会う元気な先輩方からの「野鳥観察はボケ防止に最適だよ!」という一言が私のツボにはまったからでした。鳥の鳴き声を頼りに野山を歩きまわり、目を凝らして探して観察、記憶に照らして種類を判別する、そして愛らしい姿を愛でる。体も頭も使って感動していればボケない、ということでした。
実際に趣味としてみると、きれいな空気のフィールドで五感を研ぎ澄ませながら探鳥することで、運動嫌いな私でも知らず知らずのうちに一日中歩きまわってしまい、ボケに効くかどうかは別にしてリフレッシュ効果を実験できます。さらに、目当ての野鳥を求めて少し遠くのフィールドに行った時などは、現地でおいしい地酒と出会う喜びに酔いしれることになります。
・・・なにやら野鳥観察の主旨から逸れていってしまっていましたがそこは趣味の話、ご容赦ください。
みなさんは「野鳥」というとどんな鳥を思い浮かべるでしょうか? 「スズメ」とか「カラス」など、ちょっと地味なものが多いかもしれませんね。でも実は、日本でも結構綺麗な鳥を見ることができます。特に青色や赤色、黄色などのカラフルな鳥は人気があり、一目見て虜になってしまい、この「道」にはまってしまったという人も少なからずいらっしゃるようです。そんなカラフルな野鳥の中でも比較的出会いやすいのが「ルリビタキ」かと思います(図1)。比較的身近な郊外の公園などにも来てくれて、クリッとした目元や愛らしい仕草で出会えると幸せな気分にしてくれる、まさに幸せの青い鳥です。
私は天気が悪い時には鳥見はせず、種類を判別するために撮り溜めた写真の整理をしています。ところが私は写真が下手ですぐに飽きてしまう。そこで写真の有効活用を兼ねて始めたのが、フェルトでの野鳥作成です。ニードルでフェルトをつついて立体的な形状にしてゆく手芸の一手法を用いますが、様々な角度から撮影した写真画像を用いて野鳥の各部位の寸法を計算、データ化してできるだけ実物に忠実に作ることを心がけています。図2は私がフェルトで自作したルリビタキのつがいです。まだまだ本物とは似ても似つかないレベルですがそこは技術者の“さが”、今後引き続き技術の向上に励み、種類を増やしながら野鳥の楽園を部屋の中に構築したいと目論んでいるところです。余談ですが、芸術的な野鳥写真の撮影を目的とする人を「カメラマン」、野鳥観察を主目的とする人を「バーダー(Birder)」と区別して称することがあります。カメラの有る無しに拘らず双眼鏡を持ってフィールドを歩いているのはおおよそ後者です(私も)。
季節ごとに野鳥を求めて様々なフィールドを訪れますと、毎年同じ場所で姿を見せてくれるものもいますが、ある年からぱったりと姿を見せなくなってしまうものもいたりします。そんな時、一年をかけて、時には海を越えて、自分の生活に適した環境を求めて渡り歩いて(飛んで)いるこの小さな生き物たちの健気さに心を打たれるとともに、途中どこかの環境が変わっただけで途切れてしまうこの生態系の危うさに思いを馳せることになります。これからも、あたりまえのように毎年愛らしい野鳥に会えるよう、自分ができること、やらなくてはならない事は何かを考え、行動してゆきたいものです。
ここでは私の趣味の一つを紹介させていただきましたが、「私の趣味変遷」を眺めてみると、この野鳥観察の他に天体観察や化石採集、鍾乳洞探査など、ほとんどが表題の「探す楽しみ・出会う楽しみ」に繋がっており、工作・ものづくりを絡めて今の仕事にも多大な影響を与えていることを今更ながら発見しました。さらに、幼少期に両親に連れられて様々なフィールドを訪れて遊びまわったことが原体験だったとの再認識に至り、将来機械工学に興味を持った人材が増えるように、現在機械学会が若年層向けに行っている広報活動を引き続き推進してゆこうと心新たにしたところで結びとさせていただきます。