一般社団法人 The Japan Society of Mechanical Engineers

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No.156 エンジン屋が考えるCO2問題
2016年度広報情報理事 山本 博之[マツダ(株)技術研究所長]

2016年度(第94期)広報情報理事
山本 博之(マツダ(株)技術研究所長)


学生時代から今日に至るまで一貫して自動車用内燃機関の仕事に携わってきました。いわばエンジンでご飯を食べさせてもらってきたわけで、その立場からCO2問題への考えを書きます。クルマや内燃機関への思い入れの強い身びいきな側面もあるかと思いますが、ご容赦下さい。

米国エネルギー省ホームページでは電気自動車のWell-to-Wheel CO2が表示されるようになるなど、CO2低減も最近ようやく本質的な議論に移りつつあります。本コラムでも東工大の平井先生は、採掘する上流から最終的に利用する下流までの面積でCO2を考えることに加え、各要素の掛け算で考えることの必要性をご指摘されています。自然エネルギー等、単独では安定パワーを得られない発電には補完的なシステムが必要なことを考えれば、全くの同感です。

もう一つ加えたい視点は「エネルギーの最適な使い途」です。世界のエネルギーの8割は化石燃料に頼っており、この全てを上述の自然エネルギー等の再生可能エネルギーで置き換えるには相当な年月を要すると考えられます。置き換えの間に排出されるCO2を最少化するには、エネルギー効率の悪いシステムから順次代替していくのが合理的です。自動車用内燃機関の熱効率改善は目覚ましく、実験室レベルでは50%を窺う勢いです。走行時CO2排出が無い事だけを理由に自動車用パワーソースの電動化を推進すると、もっと効率の悪いシステムにおけるCO2低減チャンスを奪うとともに、内燃機関進化の道も閉ざしかねません。エネルギー全体を視野に入れ、各部門/システムの効率改善ポテンシャルを踏まえて、合理的な使い途の選択をしていきたいものです。

またエンジニアが自動車のCO2問題を考えると、効率視点からライドシェアー等に話が向かう経験を何度か味わいました。クルマ屋としては非常に苦々しく感じていました。弊社では、ヒトがクルマやカーライフを通じて、豊かで幸せな人生を送って頂きたいと考えています。内燃機関の伸びのあるトルク感や心地よいエンジンサウンドと相まってクルマを操る楽しさを、年齢を重ねた方々も含めて味わって頂きたいですし、そうすることがWell-Agingにも繋がると考えます。人々がクルマに何を求めているかを見失わずに、それを実現する上でのネガ要素(自動車の場合は、環境、安全)を取り除くことが、クルマに関るエンジニアの果たすべき役割と考えます。

以上のように、自動車用パワーソースとしての内燃機関への期待と可能性はまだまだ高く、一層の高効率化への継続的な挑戦が必要です。次代のエンジン研究者・開発者が高い志を持って取り組めるよう、その可能性を早期に提示していきたいものです。