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社団法人日本機械学会 JSME

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第1回

機械工学が主役になるマイクロ・ナノ工学を

 マイクロ・ナノ工学部門設立趣旨

 日本機械学会の21番目の部門として、2012年4月に「マイクロ・ナノ工学部門」が新たに発足しました。新部門発足の背景とその目指すところを以下に述べ、多くの会員の新部門登録を期待します。


 ヒトが自在に扱える人工物の最小寸法は、マイクロメータからナノメータ領域へと微細化し、扱う対象も多岐に広がってきました。最近10年、20年のスパンで見ても、ナノチューブ、グラフェンなどの炭素系新素材の利用、DNAなどの分子操作、半導体回路パターン形成、磁気ディスク書き込みなど、寸法の微細化の例は枚挙に暇がありません。

 マイクロ・ナノメートル領域の代表寸法を持つ材料、加工、運動、制御等を対象とする工学技術は、エネルギー・情報・バイオ・メディカルなど、成長・拡大が期待される産業の基幹技術です。具体的な研究課題は、連続体力学の延長では解決しないマイクロ・ナノ構造の強度・破壊の問題、分子の平均自由行程以下の寸法の構造表面とガス分子のエネルギー交換、微小空間領域での熱移動、ナノメータ間隔の固体間の潤滑・摩耗、原子分子を単位とする微細加工プロセスのモデル、ナノチューブ・グラフェン等のナノ素材の機械特性、これまで電子材料として扱われてきたシリコンの機械特性、遺伝子・細胞・生体組織の操作と特性評価、など、マイクロ・ナノメータ領域の新しい課題があり、それらはいずれも機械工学がかかわるべき対象です。

 多くの技術課題・研究課題は機械工学だけでなく、電気、電子、物理、化学、さらに医学などの他分野にかかわる境界領域にあります。狭い専門領域では到底カバーできません。機械工学はこのような境界領域にこれまで以上に主体的に寄与すべきです。

 機械工学に要請されるのは、材料からシステム構築に至る過程に存在するマイクロスケール、ナノスケールの現象を理解するともに、それらを工学的に制御すること、さらに、マイクロ・ナノ構造を製作する材料・加工技術を開発して、システムとして新しい機能を実現させることです。これには、ナノメータ領域の素過程の理解、解析に始まり、マイクロメータ、ミリメータ、さらにメートルレンジの全システム機能を完結する設計に至るまで、マルチスケールをカバーする工学的アプローチが欠かせません。

 日本機械学会は、原子・分子スケールにおける現象を忠実に再現するシミュレーション技術から、マイクロ・ナノスケールの加工技術、マクロスケールの最適設計技術などを擁する数少ない学会組織であり、まさにその責務は大きいと考えます。「機械工学が主役になるマイクロ・ナノ工学」が必要である所以です。

 当学会に属する研究者も当然ながらこの分野の研究活動を行なってきましたが、それぞれの専門の20部門の中に活動が散在しているため、その活動は学会外から見えづらく、国内外、特に産業界に知られてこなかったといっても過言でありません。部門間の情報交流もきわめて限定的でした。

 以上の認識から、部門化の前段組織として2006年に「マイクロ・ナノ工学専門会議」を発足させました。5年間の活動内容が認められ、このたびの部門化に至りました。 マイクロ・ナノ工学部門は以下の活動を推進します。

  1. マイクロ・ナノ工学シンポジウムの継続的開催をはじめとする、研究発表、討論の場の提供
  2. マイクロ・ナノ工学関連の国際会議の報告会開催
  3. 研究会活動による個別技術の深化
  4. 国内外他学会との協力による各種催事の企画運営
 部門運営の基本的な考えとして、当部門がカバーする領域が我が国の産業の競争力と直接かかわる分野であることを踏まえ、産業界へのタイムリーな情報発信につとめます。一方、若手研究者・技術者の育成のため、マイクロ・ナノ工学の基礎に関する講習会を定期的に開催し、複数の大学と連携した教育・トレーニングプログラムの実施を検討します。

 活動にあたっては、複合領域をカバーする部門という立場から、他部門との連携を重視し年次大会におけるオーガナイズドセッションを共同で企画し、他部門の大会にも積極的に協力・参加します。部門運営委員には他部門で活発な活動をしているメンバーを配置して情報交換・交流をすすめます。


 最近の科学・技術の発展には、在来の専門を超えて、それぞれに優秀な研究者・技術者がネットワークを作り、積極的に協働することが求められています。そのような活動からこそ革新的な研究の深化、技術の発展が期待できると考えます。マイクロ・ナノ工学部門はそのような場を提供し、新技術を育成すると信じます。当学会の技術分野には、100年前からの機械工学固有の専門分野もあれば、あらたな社会的・経済的要請が強い複合新領域分野もあります。当マイクロ・ナノ工学部門は、まさに後者の性格を持つ部門です。これからの日本機械学会には、上記のような基幹部門と複合新領域部門とを縦糸・横糸に配して併せ持つ強さとダイナミズムが必要と考えます。会員の皆様には基幹部門での登録に加えて、複合新領域部門である当部門にさらにもう一つ部門登録されることをお勧めし、積極的なご参加を歓迎します。

 マイクロ・ナノ工学部門は、マイクロ・ナノメータ領域の工学全般の研究領域をカバーします。そのキーワードは現在以下の通りですが、さらに新たな分野創出を期待します。
 
原子・分子スケールのモデリング・計測 マルチスケールシミュレーション
第1原理計算 分子動力学
ナノ材料・機能性材料の材料探索と創成 マイクロ・ナノ材料の評価技術
相界面現象 ナノ・マイクロ流れ
マイクロ・ナノトライボロジ 位置決め技術
マイクロマシン技術 MEMS技術
マイクロ接合・実装技術 ナノ・マイクロ加工
超精密機械加工 マイクロセンサ・アクチュエータ
マイクロ・ナノシステムの計測・制御技術 マイクロエネルギー変換
マイクロ燃焼 エナジーハーベスティング
細胞動態 細胞・DNA操作
マイクロTAS マイクロ医療・福祉デバイス