社団法人日本機械学会

学生・若手技術者へ向けて

企業を目指す学生にアドバイスをお願いいたします。

【山口】  企業というのは一人でできない仕事を人が集まって、それで製品をつくって社会に貢献する場所ですから、一人でやる必要はないのですね。だから、逆に言うとそこにそれぞれの専門性がないと集まっても意味がないと思います。だからその専門性や考え方を身につけてきてほしいというのが1つあります。ただ、大学でやった2年なり3年というのは後から考えるとすごく短いので、そこで自分の将来を限定してしまうというのはものすごくもったいないですが。だから、そこは広く、機械が好きなのだとか、振動がやりたいのだとか、そういうちょっと広めにとらえて、でもこんなことをやりたい、自分の専門は一応こういうものをやってきた、そういう感覚で企業に来てほしいなというのはあります。それから、大学の2年間というのは短いのですが、そこでものすごく重要なことを習っている、それはやはり考え方ですね。例えば振動だったら、振動屋の考え方というものをものすごく学んできますね。 また、本質を見抜く目というのは、これは機械だけではなくて何でも一緒だと思いますけれども、それはやはり常に意識したほうがいいですね。

【米澤】  技術士の最初の1次試験はもう院試のときに受けられたということですが、若い技術者へ勧めるとすると、順番は学位、技術士、こういう専門的なもの、どんな順番がいいでしょうか。

【山口】  学位はちょっと独立かなと思うのですが、私の回転体の振動に関しては言えば状態監視診断技術者を受けて技術士というのがスムーズかなと思います。

【久保田】  会社の仕事を積み上げていけば学位が取れたりとか、資格が取れたりとかできればいいのでしょうけれども、なかなかそうもいかいないですね。

【山口】  そうですね、そのためやはり努力はしました。社会人となってそのままただ、放っておくと毎日遅くまで会社の仕事に追い回されるわけですよね。日々の仕事に追われてどんどん、どんどん右から左に流していくと何も残らないので、その中で論文でもいいですし、あるいは特許でもいいと思うのですが、そうやってどんどん蓄積していくことはすごく大事なことだと思います。

【久保田】  それはもう若いときから漠然と、将来ドクターを取りたいなとかいう 意識があってでしょうか。

【山口】  そういう意識はありました。気がつけば、頑張れば手が届くところにあったという感じですかね。

最後に山口さんの今後の目標と学生へのメッセージをお願いいたします。

【山口】  やはり最終的には信頼されるというのと、機械と会話ができるというところですね。そこを目指していきたいというふうに思っています。

 会社に入ったときに、私は機械力学を体系化したいと思っていました。振動というのはものすごく小さい世界で、サイン波で近似してやっている世界だったので、もっと、運動学というのはそうではないよね、もうちょっと広い範囲でそれを簡単な式であらわせないかなというふうに思っていたのです、学生のころ。ただ、その直後に、そんなのはマルチボディダイナミックスというのがあるよと。ああ、もうあるではないかというのがありますけれども、もう少し何かわかりやすくならないかなという気持ちはどこかにやはりあります。これは永遠のテーマで無理なのかもしれませんけれども、何か1つ体系化したいなという気持ちはどこかにありますね。

 好きなことをずっとできるというのはやはり幸せですね、というのと、私は基本的には振動だったら何でもいいと思っているので、定義は幅広いので、多分この仕事ではなくてもそれなりに、自分なりに楽しんでやってこられたかなという気はします。だから、若い方は、分野は決めるけれども、ある程度自分の定義というのは広く持ったほうがいいかなというふうには思いますね。ただ、やる気は絶対必要。やる気というのと、その分野が好きだということ。 会社に入るときに研究所にしようか、設計、事業部にしようかと考えますね。そのときに、私は研究を選んだのですけれども、その研究というのが大学の研究と大体同じようなことをやるのかなというふうな意識でいました。入ってみたら、「プロジェクトX」的な開発があり、企業の研究所はその中で専門性が必要なことを担当していて、ものすごく開発の感動を味わうことができるのです。企業の研究所を目指す方は研究室に閉じこもってどんどん掘り進めるのではなくて、もっと楽しいことがあるよということを言いたいですね。

 私自身は、過去にほぼ研究者だけでマイクロガスタービンの開発をやったことがありました。研究者だけで開発を行うと、それぞれの性能はすごく良く出るのですが、境界領域は全然だめでいろいろトラブルが発生しました。そのときに一緒に力を合わせて、「個々の取り合いをどうするかとか」、「最終的には性能がこうすれば出るのだけれども振動はどこまで許容できるか」などを検討しました。このようなことは設計にはできないことですね。設計であれば基準があって、その範囲でここまでだよ、という話ですが、そうではなくて、データを取ってここまでだったら大丈夫と、あとは、安全率はこれだけだよという、限界が見えた連中が集まってギリギリの開発をしました。そうして最終的に定格出力が出て、ものすごく感動をしました。そういうことが企業に入ると必ずあるので、それを楽しみにして企業に来られたらいいかなと思います。


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