株式会社 日立製作所 機械研究所
山口和幸
資格はその人の技術を保証するものとなる。今回インタビューを受けていただいた山口和幸さんは30代で技術士に合格し、本会の機械状態監視技術者の資格や様々な技術者としての資格お持ちである。また、企業の技術者として活躍する山口さんは「ガスタービン圧縮機の振動評価技術の開発」において顕著な業績を上げており、2003年度の本会奨励賞(技術)を受賞している。若手の技術者が資格を取得し、仕事にどう活かしてゆくか、また必要な資格は何か、他に仕事と両立させながら資格をいかに取得するかなどを伺った。
専門は機械力学・計測制御。1994年九州大学大学院修士課程修了、(株)日立製作所に就職、機械研究所に配属。以来、ロータダイナミクス(回転体の振動)に関する研究に従事。2008年博士(工学)、ISO18436-2準拠機械状態監視診断技術者(振動)カテゴリーⅣ取得。2009年技術士(機械部門)取得。機械力学・計測制御部門運営委員(2009年度)。振動技術者資格認証小委員会委員。
聞き手 久保田裕二第87期庶務理事(東芝)、米澤実第87期会員部会幹事(東芝)
自己紹介をお願いいたします。
【山口】 九州大学大学院出身で、大学院のころから振動の研究をしております。恩師の末岡先生から「大学院で何をやりたいか?」という話になったときに、「一番変なものがやりたい」と言って、いただいた研究テーマがパターン形成でした。私が担当したのは糸巻き機が巻いていくうちに三角形になってものすごい振動になってしまうとか、トラックのタイヤが多角形化するということをやらせていただきました。
大学院を修了して日立製作所に入りましてからは、ずっとロータダイナミクスで、入ってすぐはモーターの振動、その後はターボ機械、ガスタービン、蒸気タービンの振動技術を開発しておりました。
そんな中で論文を3報ぐらい書いたときに、先生から「学位は要らないのですか」というお話をいただき、3年ぐらいかけ学位をいただきました。
それと並行して、ISO18436-2準拠の機械状態監視診断技術者(振動)という、機械学会が認証している資格なのですが、この最高位「カテゴリーⅣ」を第1期生として取得しました。今は18人となりましたが、このときは日本で8人が通りました。
振動技術者資格認証小委員会委員は資格をいただいたから入ったというわけではなく、元々機械学会の研究会活動等で一緒にいつも勉強させていただいていますので、そういう関係でお声をかけていただき参加させていただいております。
機械学会との関係ですが、ロータダイナミクスセミナーとFIV研究会、これらにはもう10年ぐらい出ています。それから会社に入って、しばらくたってくると専門性がどんどん高くなっていきますので、自分の技術分野で議論できる人が社内ではだんだん減ってきます。しかし、新しい技術は客観評価しないといけないので、機械学会の講演会を利用させていただきました。具体的にD&Dですね。ここにはなるべく毎年講演発表をするようにしました。D&Dは討論の時間を多く取っており、有名な先生方もいらっしゃいますので、私は「こう思う」と発表をして、それでいろいろコメントをいただく。会社の中では得られないようなコメントをいっぱいいただけますので、次にそれを反映して新たな論文を書くというようなアクティビティを続けてグルグル回していました。
機械工学・振動分野を専攻した理由をお聞かせください。
【山口】 この分野を目指したいきさつは、まず「機械」ですね。元々自転車いじりとかが好きで、あとは最近、テレビの「ピタゴラスイッチ」のようなからくり系のもの、ああいうのがものすごく好きでした。
高校の物理で「モンキーハンティング」の話を聞いたときに動力学というのはすごくおもしろいな、運動というのはおもしろいな、と感じました。「モンキーハンティング」は木にぶら下がっている猿を鉄砲で狙って撃つと撃った瞬間に猿が驚いてパッと手を放す、そうすると鉄砲の弾と猿が重力加速度で両方とも落ちるので弾が猿に当たるというものです。そのようなことに興味を感じて工学部にしようとおもいました。それで、どこにしようかというときに、工業と言えばやはり「機械」だろうと、機械を選びました。もう一つは、これはひょっとするとカットかもしれませんけれども、振動というのは結構実験が楽なのですね。(笑い)
【久保田】 楽というのは、時間が短いという意味ですね。
【山口】 そうですね。振動は叩いたら終わりみたいなところがありますので、そういう意味で。内容としては難しいのですが、式いじりはそんなに嫌いではないので。元々、動力学が大好きですから、そういう意味もありまして振動がいいなというふうに思いました。
【久保田】 修士の時、テーマを選ぶときに、何で「変な」ものがいいと思われたのですか。
【山口】 それはやはり今の機械研究所を選んだ理由にもつながりますが、いろいろなことを振動屋として経験したいというのがありました。そういう意味で、ちょっと変わったものがやりたいと思いました。そして、就職にあたり会社全体の製品を見ているのが日立の機械研究所だったので、そこを志望しました。機械研究所で、いろいろな振動問題というものを経験できるかなと、経験しなくても、横の人を見ていたらわかるとか、そういう意味で技術者としての幅を広げたいなというのがありました。そういう意味でいろいろなことを経験したいというのが根底にありました。
また、最終的には信頼される技術者になりたいというのがやはりあるなと。お客さんのところで説明して、そうだねと言ってくれるようになりたいというのはありますね。そのためには、やはり機械と会話ができるようにならなければいけないですね。最近テレビ番組で動物と話ができる人が出ているのですけれども、私は機械と話ができるようになりたい。長い間やっていると、だんだんなってきますよね。
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