中級セミナー「自動車の運動力学」 (日本機械学会 交通・物流部門 第2技術委員会,自動車技術会車両運動性能部門委員会共同企画)
【協賛】
自動車技術会,計測自動制御学会,システム制御情報学会
【趣旨】
自動車の運動力学は,航空機における飛行力学,船舶における船体運動力学に相当する分野です.先端の開発研究,基礎研究が日本で盛んに行われている領域であるにも関わらず,大学に「自動車工学科」がほとんどないためか,これまでの膨大な知見がこの分野の研究者や技術者が参照できる形で整理,体系化されていないのが現状のように思われます.
本セミナーでは,この分野のうち,最近10年程で研究されたテーマの中から,技術者,設計者,研究者の方が知っておいたほうが良いテーマを厳選し,実際に研究をされていた方に直接,わかりやすく丁寧に説明していただくことによって,自動車の運動力学に関する最近の知見の共有化と体系化を図ろうと企画いたしました.
自動車メーカー,関連メーカーでシャシー,サスペンション関係の設計,開発,試験,研究を行っておられる方,卒業研究や大学院で自動車の運動力学関係の研究を行っている学生の方,自動車関係の技術系の方で研鑽のためにシャシーに関する知識を習得したい方などを本セミナーの受講対象としています.また日本機械学会で企画している同名の「基礎セミナー」を受講し,さらに高度な内容を勉強したい方に最適なセミナーになっています.なお,日本機械学会の交通・物流部門HP http://www.jsme.or.jp/tld/home/archives/event/VD_sem/index.htm に本セミナーの情報,講義の参考文献などがのせてありますので,ご参照下さい.
【内 容】(表題は仮題です)
9.30~9.35
開会挨拶 堀内 伸一郎(日本大学)
9.35~10.45
1.牧田 光弘(日産自動車)
「タイヤ特性のモデリング技術,Magic Formulaとその関連領域概観」
タイヤのコーナリング特性の基本は基礎セミナーで習得することができるが,実際に車両モデルと合わせて解析を行うときには,それだけでは十分でないことも出てくる.本テーマでは,車両運動性能シミュレーションによく使用されているMagic Formulaタイヤモデルを中心に,基本運動性能の解析で必要になると思われるタイヤ特性のモデル化技術の概観を行う.想定する範囲は平面路面領域でのコーナリング+制駆動の定常特性と,基本的な過渡特性である.その範囲に収まらない低μ路面特性や3次元路面での応答など最新のタイヤ研究領域についてもすべてはカバーできないが,講師の理解している範囲で紹介し,今後タイヤ特性について学んでいくための一助となるように努める.
10.55~12.05
2.毛利 宏(山梨大学)
「4WSの基礎と応用」
1980年から1990年代にかけて日本発の操縦安定性向上技術として,四輪操舵システム(4WS)が開発された.近年では,採用車種も減少したが,高速車線変更での圧倒的な収束性などを実現できるアイテムであることに変わりはない.その原理は簡単な力学モデルを用いて明快に説明できる.そのため4WSは線形領域の操縦安定性を理解する糸口としても格好の教材と言える.高速で車両の収束性が悪化する原因から紐解いて,4WSの効果の解釈,種々制御方法の解説など基礎的事項について説明する.
12.05~13.05
昼食
13.05~14.15
3.神戸 弘樹(トヨタ自動車)
「側面視サスペンション配置による前後振動低減」
乗り心地というと上下の振動を思い浮かべる人が多いと思うが,近年の乗り心地要求レベルの向上に伴い,前後振動による乗り心地現象を考慮する必要性も高まってきた.又,以前より側面視での幾何学的なホイールセンタ軌跡傾斜角を後傾化することで,前後振動に起因する乗り心地の改善が可能であることを研究報告した例はあった.本件では,側面視でのアブソーバと前後弾性主軸の配置を考慮し,ばね下に加わる前後力の力学的特性に着目した前後振動による乗り心地改善について述べる.
14.25~15.35
4.山門 誠(日立製作所)
「G-Vectoring制御による操縦安定性・乗り心地の向上」
XBW(X-By-Wire)技術により車両運動制御の自由度は格段に増加しつつある.特に横滑り防止装置の義務化に伴いブレーキの多機能化が進展している.それらの機能の一例として,本セミナーでは車両横加加速度(ジャーク)を用いてスムーズなコーナリングを実現する加減速制御(G- Vectoring制御)を紹介する.まず,制御則導出過程について述べ,車両運動力学的観点から,操縦安定性・乗り心地が向上するメカニズムを平易に解説する.さらにG-Vectoring制御をBBW(Brake-By-Wire)車両に実装して,制御効果を確認した結果を紹介する.そして最後にG- Vectoring制御をアンダーステア抑制に用いた,新しい横すべり防止装置の実車性能についても紹介する.
15.45~16.55
5.小野 英一(豊田中央研究所)
「車両運動の推定と制御」
自動車の制御は,走行する環境の様々な変化の下で,ドライバの意図する運動を安全に実現する必要がある.ここでは,乾燥アスファルトや氷盤など路面の摩擦状態変化の下で,ロバスト安定な,すなわちスピンを抑制するための車両運動制御則を導出する.さらに,この制御を実現するために必要な姿勢角推定技術について,最近の研究事例を紹介する.
16.55~17.00
閉会挨拶 藤岡 健彦(東京大学)