日本機械学会連続講座 「法と経済で読み解く技術のリスクと安全~社会はあなたの新技術を受け入れるか~」 第3期・第6回 講演: 鉄道事故とヒューマンエラー
2015年12月16日 | マイクロ・ナノ工学部門特別講演会主催
【開催日】
2015年12月16日(水)17.30~19.30
【第3期・第6回 講師】
芳賀 繁 (立教大学 現代心理学部 心理学科 教授) /近藤 惠嗣(福田・近藤法律事務所 弁護士)
【第3期・第6回講演趣旨】
鉄道の歴史は事故の歴史と言っても過言ではない.世界最初の鉄道事故は1830年9月15日にマンチェスター・リバプール間に鉄道が開業した当日に起きた人身事故だった.その後も一度に数百人の犠牲者を出す事故を繰り返しながらも,事故からの教訓を学んで様々な技術開発が行われ,今では,交通機関の中でもっとも高いと言われる安全水準を達成した.
鉄道事故の直接的要因としては自然災害,機器・設備の不具合と並んで,ヒューマンエラーが多数を占める.エラーをバックアップする技術システムが導入されると,その裏をかくような新たなエラーや違反が発生し,その対策としてまた新たな技術システムが開発されるというイタチごっこも経験してきた.たとえば,停止信号を見落としてポイントで脱線したり,先行列車に追突したりする事故の対策として,ATSが開発されたが,ATSの電源を入れ忘れたり,故意に切ったまま運転し,事故を起こす事例が複数発生したため,ATSのスイッチが入っていないと十分な加速ができないよう「ATS未投入防止装置」が取り付けられた.にもかかわらず,下り勾配でATSを入れずに惰行運転して先行列車に追突する事故が起きている.
本講座では,鉄道におけるヒューマンエラーとその対策を,いくつかの事故例を引用しながら論じる.一方,最近では,エラー事故対策を技術的解法よりも組織マネジメントの改革とその監査に求められる傾向が強まっている.2005年4月25日に起きたJR西日本福知山線脱線事故等を契機として導入された運輸安全マネジメント体制について紹介するとともに,その問題点を指摘したい.さらに,重大事故の調査と刑事裁判を振り返り,調査と捜査の関係や,調査機関のあり方についても議論したい.
【本連続講座の開催主旨】
福島第一原子力発電所の事故は技術の安全性に対する人々の信頼を失わせた.しかし,技術なしに現代社会は成り立たない.また,介護ロボットのような新技術は私たちの生活の質を向上させることが期待される.一方で,技術にはリスクがつきまとう.介護ロボットの誤作動で被介護者が死傷することもあり得る.社会に利益をもたらすとともに,リスクを内包する技術はどのような条件の下で社会に受け入れられるのだろうか.リスクが現実化したとき,技術者の責任は問われるのだろうか.今,新技術の開発に従事する技術者の胸に去来するこのような疑問に,現在の法制度のみならず,法と経済学,正義論なども視野に入れて,体系的に答えようという野心的な試みからこの講座は生まれた.技術のリスクと安全に関心のあるすべての技術者に是非聴講していただきたい.