1. はじめに
今年度部門長を拝命いたしました松山です。小職は、1994 年に三機工業に入社し、以来現在まで24
年間一貫して廃棄物処理や資源循環リサイクル分野の技術に携わってきました。社内では研究職ではなく、いわゆるエンジニアリングを手がける技術畑を進んできました。
入社の当時は有害物質であるダイオキシン類が都市ごみ焼却施設の排ガス中に含まれている事が社会問題となり、ダイオキシン類の除去としての排ガス高度処理や、飛灰中の重金属類の溶出について新たな基準値が設定され溶出防止技術への対応など、ごみ焼却施設の低公害化が進んだ時期でした。その後、2000 年には循環型社会形成推進基本法が制定され、さらには、資源有効利用促進法や容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、自動車リサイクル法、食品リサイクル法などの個別リサイクル法が相次いで制定され、循環型社会への移行推進が一気に高まって行きました。
ごみ焼却の技術はそれまで焼却処理が主流となっていましたが、最終処分場の埋立残容量の逼迫と資源リサイクルの向上の観点から、焼却灰を溶融スラグ化して道路の路盤材等に有効利用する灰溶融施設の設置が日本各地で進みました。
一方世界的には、1992 年に気候変動枠組み条約が締結され、1997 年に京都議定書が発行され、これを機に地球温暖化の原因と考えられる二酸化炭素等の排出減少が求められるようになりました。
また国内の情勢は2010 年頃をピークに人口の減少がはじまり、少子高齢化時代への移行が始まるとともに、長期的な景気低迷による政府の財政難や地方自治体も同様に人口減少、財源不足の慢性的な状況になってきました。そのような背景の中、長期的な維持管理補修費の低減や省エネ等のランニングコストの低減化がますます求められるようになってきました。
2011 年に発生した東日本大震災は、日本のエネルギー政策を大きく転換するきっかけとなりましたが、廃棄物施設にも発電の要望が高まり、さらなる高効率化とともに、小規模施設にも発電設備を付属するケースが増加してきています。また災害時等非常時の防災拠点としての機能も求められるように変わってきたのも、この震災以降になります。
これまでの20 数年間の身の回りの環境を振り返っても、社会情勢の変化と求められる技術は刻々と変化してきています。今後についても、少子高齢化や財源不足の社会情勢の他に、エネルギー問題と社会インフラ整備は深い関わりを持っていくものと考えています。
環境工学部門においては、学術的なアプローチはもちろん、現実的な技術的アプローチも同時に検討しながら、人間と環境との調和技術を常に追求する非常に重要な役割を担う部門であると考えています。広い意味でのそういった社会インフラをどうしていくべきか、持続可能な社会システム、つまり、先進サステナブル都市のモデルを異なる専門分野からなる学術者と技術者により常に提案し続けていく立場にありたいと思います。
2. 環境工学部門について
環境工学部門は機械力学や材料力学、熱力学、流体力学等の機械学会の核となる専門分野とは違い、部門横断的な範囲をカバーする部門です。
環境工学の定義とは、外部への環境負荷の低減、いわゆる環境保全と、また人間が環境の中で受ける恩恵、いわゆるアメニティの2 面から構成されていると思います。これらはある意味相反の関係にあると言えます。これまでの人類の歴史の中で、人類の利便性快適性を追求するあまり、環境への負荷が増大し、公害問題や地球温暖化などの問題を引き起こしています。しかしながら一方では、人類の生活水準も原始生活に戻る事は現実的ではありません。環境工学部門は外部への環境負荷を抑えつつ、人類が外部環境と共存できるバランスを見出していく工学とも言えると思います。
環境工学部門はそういった意味で、環境に関連するあらゆる技術に関わる研究者や技術者の集団で構成されています。現在、(1)騒音振動抑制技術、(2)資源循環廃棄物処理技術、(3)大気水保全技術、(4)環境保全型エネルギー技術、の4 つの技術委員会から構成されており、それぞれの技術委員会の活動とともに部門内での横断的な活動も行なっています。
3. 部門が抱える課題
環境工学部門の特徴として、先に述べた通り、機械学会の中では部門横断的な位置づけであるため、会員数についても第1
登録者より、第2、第3
登録者が多いという特徴があります。また、機械学会の全体としても他学会と同様に、会員数の減少という課題を抱えています。特に環境工学部門においては、企業からの会員数が大学関係者より一層減少している状況にあります。これらは特に最近の環境に関わる企業の市場に置かれている状況が以前より厳しくなっている状況もあると考えますが、一方で企業に対して魅力が薄れてきているのではないかという気もします。
そういった意味で、環境工学部門としては、会員数の維持あるいは増加に向けてより一層魅力のある活動を継続して行くことが必要と思います。
私のこれまでの環境工学部門での活動から、会員数増加に向けての具体的な課題は下記の通りと考えます。
これらの課題はそれぞれ短期的に簡単にできるものではありませんが、今後一つ一つの活動に対してこのような方針で活動して行くことが、環境工学部門の魅力の増加につながり、ひいては会員数の増大や部門の活性化につながるものと考えています。
4. 今年度の抱負
部門長としての任期は1
年であり、上記の課題はいずれも短期的になし得るものでは到底ありませんが、今年度の抱負として少しでもその流れを作れればと考えています。
まず、第1 の課題として学生員の会員数を伸ばすこととして、現在でも行なっている子供向けイベントの充実により、子供の頃から環境に興味を持ってもらう活動は継続していきたいと思います。
また、部門の最大のイベントである環境工学総合シンポジウムについて、今年度から講演時間を20 分から15 分として学生員の参加しやすい環境とする事で、発表の増加と活性化を図ります。
第2 の課題として、企業会員からの有益な情報提供の場を提供していきたいと思います。環境工学総合シンポジウムを活性化するとともに、部門内に設置しているロードマップ委員会や先進サステナブル都市ワーキンググループの活動を通じて、企業にとって有益な情報を発信していくことで企業会員の増加につながればと考えています。
第3 の課題として、国際化についてですが、これまで5 年周期で開催してきた国際ワークショップを来年度は東北大学の佐藤岳彦先生を中心に、特に東南アジアからのアクセス等に便利な沖縄での開催の準備を進めています。今後は国際WS の定着化を目指し、これまで5 年周期で実施してきたものを3 年周期とするとともに場所も沖縄で定着化を図っていきたいと考えています。また、毎年行う環境工学シンポジウムについても英語セッションを設置して普段から英語での発表を促し、学生等に英語での発表の機会を提供していきたいと考えています。
5. おわりに
環境工学部門は環境保全を守りつつ快適環境の追求を求める、環境に関わる数多くの研究者、技術者の集団であると思います。環境に関わる分野の異なる技術交流や意見交換の最大の機会が環境工学シンポジウムであると考えています。この環境工学シンポジウムをいかに活性化するかということが、環境工学部門の活性化に直接影響するものと考えています。
近年では発表数が減少している技術分野もありますが、社会の変化に合わせてタイムリーな技術分野についてオーガナイズドセッションを設けることで、これまで参加してきていない分野の方々にも参加する機会を持っていただき、シンポジウムの活性化を図っていきたいと考えています。
今年度は、7 月11 日〜 12 日にて早稲田大学・西早稲田キャンパスにて行う予定です。是非とも積極的な発表、技術交流や意見交換をお願いしたいと思います。
本部門の活性化と発展に微力ながら協力して参りたいと思いますので、皆さまのご協力をどうぞよろしくお願いいたします。