2014 年度の環境工学部門は、久しぶりに民間企業の部門長となりました。よろしくお願いいたします。
私は入社(旧日本鋼管)以来、廃棄物処理施設などの開発・設計業務に従事しているプラントエンジニアであり、研究畑を歩んだわけではありません。
幅広い環境工学部門のカテゴリーを網羅する視野を持つとはいえない中、著名な先生方の後を襲うことは僭越であると躊躇しましたが、幾許か異なった視点で部門や関連業界を活性化する布石になればと思っております。
機械工学の「4 力学」に代表される基本的な理論を追求する部門と異なり、環境工学部門は、部門の意義発信のために、独自の文化形成をなすことが必要であると考えています。縦糸と横糸とよく言われますが、間違いなく環境工学部門は横糸です。横糸がなくても学会の運営が困らないかもしれませんが、「環境エネルギー問題」といわれるように、熱力学や流体力学、機械力学ではない「環境工学」がしっくりする研究者や技術者が多いことも事実です。
横糸部門であるからこそ、最先端技術の追求だけでなく、良い意味でのローテクをうまく生かした仕組みで、安心・安全な世界を創出する役割を果たすことを大きな意義として考えるべきでしょう。
環境工学部門は「騒音・振動評価改善技術分野」「資源循環・廃棄物処理技術分野」「大気・水環境保全分野」「環境保全型エネルギー技術分野」の第1〜第4
技術委員会からなっています。
第2 技術委員会から第4 技術委員会の3 委員会はかなりオーバーラップした領域が多いのですが、第1
技術委員会の「騒音・振動」が、同じカテゴリーで議論されることは珍しいことで、部門の特徴のひとつといえましょう。
国内外には、それぞれの委員会に相当する分野の他学会が存在し、委員会のメンバーは、そちらでも重要な役割を果たしていることが多くなっています。研究者・技術者の立場からいえば、ピタリと自分の範疇にはまる学会があれば、その活動に注力することは気分が楽で、余計なことに時間を割かなくてもよくなります。しかし、昨今のように複数領域が複雑に絡む事象を追及する必要がある場合には、井の中の蛙になりかねないわけで、専門的な各学会とは別に、異なった分野をまとめた、環境工学部門の役割に期待するところもあるはずです。
かつて(私が子供の頃は)、21 世紀といえば、科学が高度に発達したユートピアのイメージでした。ところが現実には、国際紛争・地球温暖化・自然災害の脅威・資源エネルギーセキュリティー・放射能汚染・PM2.5・水資源枯渇・社会インフラの老朽化・高齢化・少子化など、安全・安心な暮らしのために解決を急ぐべき課題が目白押しになっています。
このように、思いつくままに課題を並べただけでも、環境工学部門が果たすべき役割が如何に多いかがわかります。しかし、この手の問題は、ときにヒステリックな論調になる危険を孕んでいます。
我々には、専門の研究者・技術者として、冷静な立場で分析を進めて、広く正しい情報を開示することが求められているわけであり、世に成果を示す発表の場は重要な役割をもっています。そして、講演会やシンポジウムには多くの方に来ていただくべきです。
今年度は、2009 年度の第1 回以来、5 年ぶりの環境工学国際ワークショップを、つくば国際会議場で11月に開催することになっています。
これに合わせて、例年7 月に開催している環境工学総合シンポジウムを同じ会場で開催することにしました(11 月18 日が環境工学総合シンポジウム、19〜20日が国際ワークショップ)。皆様、ふるってご参加ください。なお、せっかくの併催の機会ですから、発表に関する工夫をすることにしました。
毎年開催している「環境工学総合シンポジウム」ですが、発表件数や参加者数はジリ貧です。特に民間企業の発表や参加者が減少しています。そこで、今年度は、国際ワークショップと併催することを機会として、「事例発表」を歓迎する方針としました。
前述のように、横糸と認識すべき環境工学部門は決して高邁な研究発表だけを重視するべきではないと思いますが、日本機械学会の大看板により、一定の質を維持すべきと考えるからか、最近は民間企業の発表が減少傾向です。
大学・研究機関関係者の方々の努力を中心に、発表件数の減少は急激ではありませんが、シミュレーションや調査研究を含めた基礎研究・先端的な研究発表に偏りがちです。さらに、学生・大学院生の発表の練習の場になっている傾向があります。これ自体は悪いことでないのですが、内容が必ずしも満足できず、質疑にも対応できない例が多くあります。
民間企業の発表は、実務に即した内容が多いのですが、シンポジウムでの発表が、企業の営業に結びつかないことが多く、従来のままでは、質的にも考察や結論に学術的なアプローチを必要とされることからも、今のままでは、さらに減少傾向に拍車をかけるでしょう。事例発表は、シンポジウムのあるべき姿のひとつが、実務的な立場の技術者の交流の場であるということを示す手段と考えています。
事例発表の方針は、技術的に価値があり、それを発表することで、会員の役に立ち機械工学の発展に寄与するものを歓迎することとします。例えば、まだ十分な考察ができず、結論が導き出せてはいないものの、速報したほうが研究面や技術面で発展を促すことが見込めるものや、技術改善や操業改善の工夫・改良を報告することで、実用的な分野での機械工学の発展に寄与できるものなどが該当します。
実態としては、従来からシンポジウムでの発表に事例紹介が見られましたが、商品宣伝の場にならないように、登録の段階で一定の審査も必要と考えています。
このように、環境工学総合シンポジウムでは事例発表の歓迎をしますので、国際化を推進している学会の方針もふまえ、従来どおりの学術的内容で発表される予定の方は、是非、国際ワークショップでの発表に切り替えることを検討ください。部門としては、内容によって環境工学総合シンポジウムへの発表をされる予定の方を、国際ワークショップへ誘導することも考えています。また、学生・大学院生にあっては、英語発表の経験にもなるので、大学関係者の方は、あわせて誘導をご検討ください。
2011 年東日本大震災の直後の環境工学総合シンポジウムでは、部門内横断組織である「先進サステイナブル都市WG」の企画で「東日本大震災復興に向けたワークショップ」を開催し、その後も、このテーマを発展的に継続して取り組みを続けています。
このとき、私が所属する第2 技術委員会では、清掃工場を防災拠点として位置づける提案をさせていただきましたが、その後、世の中の多くの方々が、防災拠点への工夫に言及・検討され、さらに各自治体の計画も発表されました。
昨年度からは環境省も強化すべき取り組みとして、具体的な検討を進めるようになりました。このような広がりのきっかけのひとつが環境工学部門からあったことは、たいへん喜ばしいことです。
どの学協会も、会員減少対策が叫ばれていますが、歴史ある日本機械学会においても同様で、学会の存続に直結する会員減少が大きな問題になっています。
環境工学部門各技術委員会は、子供向けの企画から、先端研究に関する講習会まで、それぞれの分野の特徴に合わせた各種企画を実施しています。私もそうですが、子供の頃の経験から工学分野を目指した方も多いと思います。子供向けの企画は、未来の機械学会会員だけでなく、優秀な皆様の後進を増やす絶好の機会だと思います。
大学選びでは理科系が伸長しているとのことです。
また、「リケジョ」といわれる理系女性が増えたことで、男性が多い機械系分野にもかなり女性が増えてきました。環境工学関係の分野は、比較的女性も馴染みやすい分野だと思います。女性の進出への助けとなる取り組みも今後は必要でしょう。
日本機械学会全体を見ても、昨今大きく変わろうとしています。論文誌構成が刷新されましたし、各部門の再評価再構築などが議論されています。
環境工学部門が発展し存続するためには、常に新しい取り組みを続けることが必要です。皆様のご協力をお願いいたします。