開催日時:2009年8月30〜9月2日
会場:Omni San Diego Convention Center, San Diego, USA
報告者(リンク):泉井一浩(京都大学)
山本英子(神戸大学)
福田収一(Stanford University)
ASME 2009 International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conference (ASME IDETC&CIE 2009)は,8月30日から9月2日にかけて,サンディエゴにて開催された.ASME IDETC&CIEは,米国機械学会の設計工学関連の会議を合同で開催するものであり,本年度は,22nd Biennial Conference on Mechanical Vibration and Noise (VIB),29th Computers and Information in Engineering Conference (CIE),2009 ASME/IEEE International Conference on Mechatronic and Embedded Systems and Applications (MESA09),7th International Conference on Multibody Systems, Nonlinear Dynamics, and Control (MSNDC),35th Design Automation Conference (DAC),ASME Power Transmission and Gearing Conference (PTG),20th Reliability, Stress Analysis, and Failure Prevention Conference (RSAFP),33rd Mechanisms and Robotics Conference (MECH),3rd International Conference on Micro- and Nanosystems (MNS),6th Symposium on International Design and Design Education (DEC),21st International Conference on Design Theory and Methodology (DTM),14th Design for Manufacturing and the Life Cycle Conference (DFMLC),11th International Conference on Advanced Vehicle and Tire Technologies (AVTT)の13の会議・シンポジウムが並行して開催され,合計1233件の発表が行われた.このように会議全体が非常に大規模で網羅することは困難であるため,筆者が主として参加した35th Design Automation Conference (DAC)について報告したい.
DACで中心となる話題は,設計情報の記述法,最適設計法,設計の評価法,統合設計法であるが,本年もこれらに関する19のトピックについての発表が行われた.製品系列設計,信頼性設計,構造最適化のように従来からも議論の中心となっているトピックの他にも,近年の最適化手法の産業界への普及を反映してか,アプリケーションにより特化した最適化法の開発や,概念設計段階における設計支援手法,サービスや市場,製造条件を考慮した設計法など,多様な設計対象に対する設計支援手法の高度化が図られるようになってきている.また,マルチスケール解析を対象とした最適化手法のように,新しい計算力学の手法を応用した設計手法の開発も試みられている.なお,本年度はDAC全体で158件の論文の申し込みがある中で,採択された論文数は123件とのことであり,いずれの発表も質が高く内容の濃いものばかりであった.
また,2009 Design Automation Awardが,京都大学吉村允孝名誉教授に贈られた.この賞はDACが表彰する賞の中でも最も価値の高いものであり,吉村名誉教授の長年にわたる最適設計分野における世界的な貢献が認められたものである.
次回ASME IDETC&CIE 2010はカナダのモントリオールで,8月15日から18日までの開催の予定となっている.
泉井 一浩(京都大学)
2009年8月30日から9月2日にかけて,ASME主催による2009 International Design Engineering Technical Conferences & Computers and Information in Engineering Conferenceがサンディエゴコンベンションセンターで開催されました.今年は13つの会議 (22nd VIB, 29th CIE, MESA09, 7th MSNDC, 35th DAC, ASME Power Transmission and Gearing Conference (PTG), 20th RSAFP, 33rd MECH, 3rd MNS, 6th DEC, 21st DTM, 14th DFMLC, 11th AVTT) が開催されました.会議全体では,投稿論文1,423件のうち1,220件が採択されました (Programから引用).以下では,筆者が発表・出席しました 21st DTM に関して報告いたします.
DTM (International Conference on Design Theory and Methodology) は今年11セッションと1パネルセッションで構成され,投稿論文97件のうち51件が採択されました (Programから引用).全体を通して,産学が連携した研究が多く,現在抱えている問題を解決するための,顧客の要求分析や設計者・技術者の支援に関する方法論やシステムが数多く報告されました.顧客や設計者らが使う言葉の分析への自然言語処理技術の適用が取り上げられ,e-mailを資源として活用した研究もいくつか報告されていたことが著者としては興味深いところでした.設計における機能モデリングがテーマである DTM-6-1 では,概念設計を支援することに関連し,機能の捉え方について様々な考え方が考察・提案されました.また,パネルセッションでは,多くのデザイン研究の解決策が提案される現状から,デザインの品質を測定する方法が新しい問題として挙げられることが提示されました. Design Creativity and Innovation がテーマである DTM-9-1 では,創造性として,機能性や独創性,新規性など注目する性質は研究によって様々でしたが,生成されるデザインの創造性の評価方法の提案を踏まえ,より創造性の高いデザインを生み出す方法が提案されました.どのセッションも活発な議論がされ, Design Theory and Methodology に関する研究が盛んであること,多くの研究者が高い関心を持っていることが伺えました.
山本 英子(神戸大学)
ASME IDETC/CIE 2009のCIE 2009の報告をする.大会の詳細は他の先生から報告があるので,ここではCIE2009に焦点を絞る.まずASME IDETC/CIEとわざわざCIEがついている理由を述べたい.この大会は,以前はDesign Engineering Division (DED)が単独で開催しDETCと呼ばれた.DEDは1945年設立され,ASME中の最大のDivisionである.設立当初はMachine Design Divisionと呼ばれた.しかし,Designの領域が拡大するにつれてDesign Engineering Divisionと名称を変えた. そして1980年からCIE DivisionがCIE Conferenceを同時開催し,DETC /CIE と呼ばれてきたが,メインテーマがInternational Design for the 21st Centuryであった2000年の大会以来IDETC/CIEと呼ばれている.
CIEは,1980年Divisionとなる以前はEIM (Engineering Information Management)と呼ぶグループであった.DEDと密接に協力はしていたが,そのTC (Technical Committee)の一つではなく,枠外で独立に活動をしていたsub-Divisionに相当する存在であった.筆者も,EIM時代にEIMの役員を務めたことがある.しかし,コンピュータが当時急速に発展した時代背景もあり,またEIMはその後,PLM (Product Lifecycle Management)と呼ばれ,大きな研究領域となった.そこで,EIM,すなわち,現在のPLMだけではなく,むしろ,コンピュータ関連の活動を一つにまとめた方が当時のコンピュータの大発展に対応するためには適切であるとの理由から,Computer and Information in Engineering Divisionに格上げされ,1980年に第1回のCIE ConferenceをDETCで開催して以来今日に至っている.今回が29回目である.
この大会は,多くのConferenceが開催される.DEDは,DAC (Design Automation) Conference, DTM (Design Theory and Methodology) Conference, VIB (Mechanical Vibration and Noise) Conference. MECH (Mechanisms and Robotics) Conferenceなど,12のConferenceを主催している.すなわち,IDETC/CIEはDEDとCIEが共催する大会である.DEDとCIEをS&DG (System and Design Group)が統括している.例えばDEDの中のDACはDivisionではなく,TC (Technical Committee)である.しかし,TCとは言え,今回が35回目のConferenceであり,MECHも33回目で,その歴史は長く,多くのメンバーがそれらのTCに集まっている.CIEは29回目であり,DAC, MECHに続いて長いConference開催の歴史を持っている.
30日(日)は午前10時から午後5時までWorkshop “Challenging the Triangle: Engineering, Culture and Experience”を主催した.現状の機械工学は,文脈独立の設計を行っているが,社会が多様化し,状況変化が著しい現状から,設計も文脈を考慮する必要が増大してきている.そこで,文化,経験,工学の関連について議論した.最初にStanfordのProf. Mark CutkoskyのBio-inspired Robotics: Experience, Culture and Designと題する講演があった.生物に学ぶ設計事例,とくにロボットを中心に詳細な説明があった.壁を這い上がるヤモリを模したロボットなどビデオを中心にした講演であった.続いて,筆者がThe Creative Customerという題目で,いかに顧客がアクティブで創造的かを論じた.この講演内容は最近本として出版をした1).午後の最初は,Politecnico MilanoのProf. Monica Bordegoniの講演であった.彼女は,現在のモノづくりに使用されるデジタル機器がユーザーのスキル,創造性発揮などに有効でないとして,ユーザーの感情,作る製品とのインタラクションを理解し,反応するVRを活用した新しいデザインツールを開発している.その現状と動向についての講演であった.続いて慶応義塾大学の佐々木正一先生からBackground of Prius Developmentと題し講演があった.先生は,大学に移られる前はトヨタに勤務され,プリウスを開発し,IEEE Daniel E. Noble Awardを受賞されている.単に技術的な側面だけではなく,トヨタの文化などについても触れた講演で有益であった.最後にデルフト工科大学のProf. Imre Horvathの講演があった.他の講演者がビデオ,図などを駆使した講演であったのに対し,文字ばかりのスライドで,講演の仕方がこのように文字ばかりでは,訴求力がいかに弱いかを実感した.このワークショップは,大勢の参加者があっただけではなく,多くの質問やコメントが会場から出された大変活発なワークショップであった.この後,CIEは,Faculty Mentoringと称して,大学の先生方にお願いをして,将来大学教員を目指す学生にメンタリングを行う試みを実施した.いろいろな大学の先生,その中にはMITの先生も含まれる,が他校の学生に教員になるための情報,心得,注意などを与える,実に興味深い試みである.ぜひ出席して様子を見たかったが,S&DG Operating Boardと重なり筆者は出席できず大変残念であった.
翌日31日(月)から大会が開始された.午前7時から,13のConferenceの参加者全員の朝食会に続いてGeneral Sessionが午前7時40分: から8:午前8時20分まで開催された.大会役員の大会趣旨説明,主な役員紹介などに続いて,研究助成についてNSFのDr. Eduardo Misawa,AFoSR (Air Force Office of Science and Research)のDr. Fariba Fahrooの講演があった.日本の学会では,研究助成団体の人が総会で講演することはない.しかし,アメリカでは必ずと言ってよいぐらい助成団体から研究資金に対する説明がなされる.この慣習は,研究資金の狙いを研究者の視点で理解でき大変よい.日本の研究資金説明会は事務屋さんが事務的処理について説明をするだけである.研究資金の狙いやその背景説明はほとんどない.あっても本人が理解していないので,聞いても理解できない.
総会後,各Conferenceに分かれ大会が開始された.CIEは今回全部で18のセッションを開催した.ただし,本報告は,筆者がProgram Chairのため時間がなく,筆者が企画し,出席したセッションの報告となることをお許し願いたい.筆者はCIE 4 Emotional EngineeringとCIE 5 Panelを担当した.午前最初のCIE 4-1 Design Approachesは慶応義塾大学の青山英樹先生が座長で,香川大学の荒川先生のTeamology,Penn Stateの形と機能,Clemsonの要求仕様の決定,そして筆者の講演があった.筆者の講演はWorkshopと同じ内容の抄録版である.Clemsonの講演は,大きな成果を挙げているJoshuaのグループであり,発表内容は充実していた.
午前後半のセッション CIE 5 では,パネルExpectation Management in Engineeringが開催された.まず筆者が「顧客の期待にいかに応えるか」というパネルの趣旨説明に相当する講演を行った.続いて,芝浦工業大学の大倉典子先生からRelaxation, Comfort and Excitementの生物信号を利用した測定について講演があった.期待を定量的に把握できれば,期待マネジメントも大きく前進する.きわめて興味深い研究であった.続いて,IEEE Reliability Societyの元会長で,現在,IEEEのBiotechnology CouncilのChairを務めているRichard Doyleからバイオセンサーについて講演があった.アメリカの医療制度の問題などさまざまな視点から説明がなされ,きわめて示唆に富み,有益であった.
午後の最初のセッションCIE 4-2 Kansei and Sensesでは,筆者が座長を務めた.最初の東大の山田一郎先生,酒造正樹先生の雰囲気コミュニケーションの講演は,きわめて興味深い研究である.しかし,外国人と日本人では,雰囲気に対する理解が異なるようである.会場からの質問と酒造先生の回答が十分に噛みあわず,雰囲気のような,文化に関係する要因を説明するむずかしさをひしひしと感じた.続いて東芝と東大の共同研究の音に関する感性設計について東芝の大富氏から,デンマーク工科大学からファジイを利用した感性を考慮した3D形状の生成,カナダのConcordiaからアイカメラと脳造影図を利用したデザイナーのメンタルストレスの研究,最後に芝浦工業大学の大倉先生から生体信号を利用したワクワクモデルについての講演があった.Concordiaの研究は,工学的視点からのデザイナーのストレスの研究である.同種の研究の多くは科学的視点から行われている.その意味で,興味深い.大倉先生の研究は,質的データ処理が多い感性情報を,生物的信号を利用して量的データへと転換しようとしており,これも興味深い.
昼はCIE Divisionへの貢献者を表彰するCIE Award Luncheon が開催された.最初にFellowに選出されたVijay Srinivasanと筆者にFellowの会員証,襟章などが授与された.続いてCMUのProf. Pradeep KhoslaにLifetime Achievement Award, BoeingのDr. Rodney DreisbachにLeadership Award, Chinese University of Hong KongのProf. Charlie C. L. WangにYoung Engineer Awardが授与された.Charlieは,昨年のBest Paper Awardに引き続く受賞である.続いて,CIE Division Best Paper Award がGeorgia TechのDavid Rosenのグループの論文Synthesis Methods for Lightweight Lattice Structuresに授与された.その後,StanfordのProf. Clifford Nass のKeynote Lectureが行われた.Cliffは,コミュニケーション学科の教授であり,文系であるが,Stanfordが新しく設置し,大きなビルを構築中のCarLabのAssociate Directorである.講演題目はCommunication with Automobiles: Research on Safety, Information Technology and Enjoymentであり,自動車と人間の感情コミュニケーションがいかに自動車の安全に重要な役割を果たすかについての講演であった.
午後の後半のセッションCIE 4-3 Shape, Texture and PatternはMonicaが座長を務めた.最初に茨城大学の前川先生の1/f 揺らぎを利用した形状設計の研究,続いて香川大学の荒川先生の偏平足を治すための履物の研究,慶応義塾大学の青山先生のグループからWood Grain Patternの生成とHighlight Lineに注目したスタイルデザインの2件の講演が行われた.日本だけでこのEmotional Engineeringのセッションを構成しており,いかに日本がこの分野で大きく発展しているかを実感させた.この後行われたConference Receptionについては他の先生の報告に譲る.
9月1日(火)は午前後半のセッションCIE 4-4 Interface and InteractionがEmotional Engineering関係の最後のセッションであり,国立台湾大学のShana Smithが座長で,彼女のグループのHMDの研究,慶応の小木先生のビデオアバターの研究,MonicaのWorkshopで紹介された研究の詳細,デルフト工科大学の材料特性に関する研究の講演が行われた.しかし,残念ながら筆者は,同時刻に開催されたStanfordの石井浩介先生を偲ぶセッションに出席しなければならなかったため出席できなかった.
石井先生の今年の3月2日の急逝は多くの方がご存知であろう.Stanfordと日本で偲ぶ会が開催され,筆者は両方とも出席した.いずれも先生の急逝を惜しみ多くの方が参列された.先生はASMEで大活躍され,とくにDEDの中のTCの一つDFMLC (Design for Manufacturing and Lifecycle Management)を牽引されていた.そこでDFMLCのセッションの一つとして偲ぶ会が開催された.なお,このTCのChairで,DFMLC Conference ChairのProf. Markos Esterman,そしてProgram ChairのProf. Shun Takaiはいずれも石井先生の教え子である.最初にOSU時代から石井先生とともに働いてきたDr. Kurt Beiterから話があり,Stanfordでの偲ぶ会のビデオが上映された.石井先生はCIEの創立時に尽力をされたので,David Leeがその思い出を,筆者が日本とアメリカの架け橋としてのご活躍を語った.この偲ぶ会は,石井研究室の同窓会のようであった.石井先生がいかに多くの優れた研究者を世に出されてきたを実感した.先生が昨年栄えあるRuth and Joel Spira Design Educator Awardを受賞されたのもなるほどと改めて思った.
昼はCIEの各TCが,現在の活動について報告をし,メンバーから要望などを聞き,今後の方針を議論するTC meetingが開催された.現在CIEには,CAPPD (Computer Aided Product and Process Development), SEIKM (Systems Engineering, Information and Knowledge Management), AMS (Advanced Modeling and Simulation ), VES (Virtual Environments and Systems)の4つのTC (Technical Committee)がある.会員は,好きなTCに,複数所属できる.ただ,新しいセッションを提案するときは,まずTCレベルで承認を得て,それからCIE の役員会で審議される.夜の7時30分から9時までのCIE Division General Meetingでは,昼の議論を踏まえ,いろいろな意見が出され,議論が交わされた.この大会はCIEだけでも18もセッションがあり,パラレルにセッションが開催される.したがって,General Meetingは他のTCのメンバーと顔を合わせるよい機会であり,そうした意味で出席している人も少なくない.日本人はGeneral Meetingにほとんど参加しないが,ぜひ多くの日本人が参加されるとよいと思う.発言をしなくても,多くの人の顔を覚え,どのような考えであるのか理解できる.レセプションなどよりも,将来のネットワーク作りに役立つ.
9月2日(水)は,筆者は,ASME IDETC/CIE 2010の準備会などのためにセッションには出席できなかった.来年のASME IDETC/CIE 2010は8月15日から18日Montrealで開催される.次回のCIE Conferenceは,CIE創立30周年であり,筆者がConference Chair, CIE Division Chairとなって開催する.Montrealは小さいが魅力に富んだ都市である.ぜひ多数ご参加頂きたいと願っている.ご質問があれば,shufukuda @ gmail.comへお問合せ頂きたい.
文献
1)福田収一,「よい製品=よい商品か?」,工業調査会,2009
福田 収一(Stanford University)
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